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「二人共、本気で言っているのか?」
王城の国王の執務室で、サイオンとリリーは王の執務机の前に並んで立っていた。
「はい。私たちの婚約の解消を教会へ申請したく、許可をいただきに参りました」
サイオンが言う。
「リリー・マーシャル公爵令嬢も同じ考えなのか?」
「はい。サイオン王太子殿下と同じく、婚約解消を希望しております」
リリーもしっかりと返事をする。
「何故だ?長年の婚約期間でもお前たちの仲は悪くなかった筈だ」
「そうですね。しかし現在は互いに、互いとの婚姻を望んでおりません」
「互いに、なのか?サイオンが婚約解消を望んで、リリー嬢に無理に同じ考えだと言わせているのではないのか?」
王はジロリとサイオンを見る。
「いえ。陛下、本当に私も婚約解消を望んでおります」
リリーがそう言うと、王はため息を吐く。
「サイオン、あの娘なのか?」
「あの娘…とは?」
「とぼけるな。サイオンはリリー嬢との婚約を解消し、あの伯爵家の養女を妃に据えたいのだろう?」
「ローゼリア・ブラウンですか?」
「そうだ」
サイオンは王を見据えながら頷く。
「…そうです」
「あの謁見からまだ三月余りしか経たないのに、妃にしたいと思う程あの娘を?あの娘はいくら似ていようがお前が…執心していた男爵令嬢とは違うのだぞ?」
「もちろんローゼとローゼリアが別人なのはわかっております。決してローゼの身代わりとしてローゼリアを求めているのではありません」
「口ではそう言えても、身代わりではないなどと誰も信じまいよ」
「ローゼリア本人さえ信じてくれれば、周りに何と思われようとかまいません」
サイオンはそう言い切る。
「…第二第三王子ならいざ知らず、王太子の妃が伯爵家から選出された例はない。更にあの娘は今は伯爵家の令嬢だが元々貴族ではない身寄りのない娘だろう?王太子妃といえば、後には王妃だ。急拵えの令嬢に務まるとは思えんし、国民も納得しないだろう」
王の言葉を聞き、サイオンは目を閉じて落ち着いた口調で言った。
「…ならば、私は王太子の立場をロイズに譲ります」
王は驚愕の表情を浮かべる。
「なっ!何を言う!?」
サイオンは目を開くと、まっすぐに王を…父を見た。
「王太子の立場も、王子の立場も、追われたとしても構いません」
「世間の厳しさも知らぬ王族が、身分を失くして生きていけると思うのか!?」
「陛下、恐れながら、亡くなったローゼ・エンジェル男爵令嬢はマーシャル公爵家で行儀見習いをしておりました。その縁で私はローゼリア・ブラウン伯爵令嬢も、養女になるずっと以前より、よく知っております」
リリーがそう言うと、サイオンを睨むように見ていた王が視線をリリーへと移す。
「ローゼリアは謙虚で、優しく、しかし芯が強くて、頭の良い娘です。華やかな王妃にはなれないかも知れませんが、地道に公務をこなし、サイオン殿下をしっかりと支える賢妃になると存じます」
「……」
王はリリーをじっと見つめる。
「リリー嬢は、本当にそれで良いのか?王妃となる覚悟を何年もかけてして来たのではないのか?」
「もちろん覚悟はしていました。しかし…陛下、大変申し上げにくいのですが、私はその覚悟を投げ捨てたいのです」
「投げ捨てる?」
「はい。端的に申し上げれば…その覚悟と重圧とに耐えようと思う程には、立場への執着も、サイオン殿下への愛着も、ないのだと気付きました」
「……」
リリーは王の目を見ながらはっきりと言った。
「不敬な物言いとは存じますが、率直に申し上げて、私はサイオン殿下よりも、ローゼと、ローゼリアの方が好きなのです」
-----
「全ては、議会で承認されてからだ」
王は大きくため息を吐いた後、そう言った。
これは、王は議会が承認すれば、二人の婚約解消と、サイオンとローゼリアの仲を認めると言う意味だ。
そして議会では最終的には王の意向が重要視されるのだ。
「はい」
「はい。陛下にはこれまで格別のご厚情を賜りまして誠にありがとうございました」
リリーは王に最敬礼をした。
「二人共、本気で言っているのか?」
王城の国王の執務室で、サイオンとリリーは王の執務机の前に並んで立っていた。
「はい。私たちの婚約の解消を教会へ申請したく、許可をいただきに参りました」
サイオンが言う。
「リリー・マーシャル公爵令嬢も同じ考えなのか?」
「はい。サイオン王太子殿下と同じく、婚約解消を希望しております」
リリーもしっかりと返事をする。
「何故だ?長年の婚約期間でもお前たちの仲は悪くなかった筈だ」
「そうですね。しかし現在は互いに、互いとの婚姻を望んでおりません」
「互いに、なのか?サイオンが婚約解消を望んで、リリー嬢に無理に同じ考えだと言わせているのではないのか?」
王はジロリとサイオンを見る。
「いえ。陛下、本当に私も婚約解消を望んでおります」
リリーがそう言うと、王はため息を吐く。
「サイオン、あの娘なのか?」
「あの娘…とは?」
「とぼけるな。サイオンはリリー嬢との婚約を解消し、あの伯爵家の養女を妃に据えたいのだろう?」
「ローゼリア・ブラウンですか?」
「そうだ」
サイオンは王を見据えながら頷く。
「…そうです」
「あの謁見からまだ三月余りしか経たないのに、妃にしたいと思う程あの娘を?あの娘はいくら似ていようがお前が…執心していた男爵令嬢とは違うのだぞ?」
「もちろんローゼとローゼリアが別人なのはわかっております。決してローゼの身代わりとしてローゼリアを求めているのではありません」
「口ではそう言えても、身代わりではないなどと誰も信じまいよ」
「ローゼリア本人さえ信じてくれれば、周りに何と思われようとかまいません」
サイオンはそう言い切る。
「…第二第三王子ならいざ知らず、王太子の妃が伯爵家から選出された例はない。更にあの娘は今は伯爵家の令嬢だが元々貴族ではない身寄りのない娘だろう?王太子妃といえば、後には王妃だ。急拵えの令嬢に務まるとは思えんし、国民も納得しないだろう」
王の言葉を聞き、サイオンは目を閉じて落ち着いた口調で言った。
「…ならば、私は王太子の立場をロイズに譲ります」
王は驚愕の表情を浮かべる。
「なっ!何を言う!?」
サイオンは目を開くと、まっすぐに王を…父を見た。
「王太子の立場も、王子の立場も、追われたとしても構いません」
「世間の厳しさも知らぬ王族が、身分を失くして生きていけると思うのか!?」
「陛下、恐れながら、亡くなったローゼ・エンジェル男爵令嬢はマーシャル公爵家で行儀見習いをしておりました。その縁で私はローゼリア・ブラウン伯爵令嬢も、養女になるずっと以前より、よく知っております」
リリーがそう言うと、サイオンを睨むように見ていた王が視線をリリーへと移す。
「ローゼリアは謙虚で、優しく、しかし芯が強くて、頭の良い娘です。華やかな王妃にはなれないかも知れませんが、地道に公務をこなし、サイオン殿下をしっかりと支える賢妃になると存じます」
「……」
王はリリーをじっと見つめる。
「リリー嬢は、本当にそれで良いのか?王妃となる覚悟を何年もかけてして来たのではないのか?」
「もちろん覚悟はしていました。しかし…陛下、大変申し上げにくいのですが、私はその覚悟を投げ捨てたいのです」
「投げ捨てる?」
「はい。端的に申し上げれば…その覚悟と重圧とに耐えようと思う程には、立場への執着も、サイオン殿下への愛着も、ないのだと気付きました」
「……」
リリーは王の目を見ながらはっきりと言った。
「不敬な物言いとは存じますが、率直に申し上げて、私はサイオン殿下よりも、ローゼと、ローゼリアの方が好きなのです」
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「全ては、議会で承認されてからだ」
王は大きくため息を吐いた後、そう言った。
これは、王は議会が承認すれば、二人の婚約解消と、サイオンとローゼリアの仲を認めると言う意味だ。
そして議会では最終的には王の意向が重要視されるのだ。
「はい」
「はい。陛下にはこれまで格別のご厚情を賜りまして誠にありがとうございました」
リリーは王に最敬礼をした。
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