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「サイオン殿下とロイズ殿下が謁見に出られるんですか?」
謁見室の係員がサイオンとロイズを見て疑問の声を上げる。
「ああ。今日はブラウン伯爵家が来ているんだろう?養女を迎えたと」
「そうですけど…」
上位貴族の籍に婚姻・出生以外の編入があった場合、戸籍の筆頭者が編入者を伴い王宮へ届け出る事になっている。遺産狙いでの養子縁組などを防ぐのが目的だ。
その際、有力貴族や、何か話題になった貴族などと王族が謁見する事があり、今日はブラウン伯爵家が養女を迎え、王宮へ届出に来るので、国王が謁見に呼んでいるのだ。
「ローゼの母と伯父を見てみたい。それに…養女となった娘も」
ローゼが亡くなり、サイオンとロイズが…特にサイオンが落ち込んでいたのは王城に勤める者たち皆が知っていた。今回、王が謁見するのもそのせいだ。
ローゼの母と、母の兄が、ローゼに似ている娘を連れて王宮へ来るのだ。王子たちのみならず、王子たちの父である国王がその者たちを見てみたいと思うのも無理はないか、と係員は思った。
赤い絨毯の上で顔を上げた娘を見て、国王の座の斜め後ろに立つサイオンが呟いた。
「ローゼ…」
サイオンは自分の前髪をくしゃりと掴む。
「似ている…いや、ローゼだ」
「サイオン?」
サイオンの父である王がサイオンに視線を向けた。
「確かにそっくりだ…」
サイオンの対称の位置に立つロイズも言う。
王とブラウン伯爵との遣り取りが一通り終わり、三人が退出するため立ち上がった時、サイオンが歩き出した。
「サイオン殿下!」
周りにいた者が制止の声を上げるが、サイオンはつかつかと三人に近付き、ブラウン家の養女になった娘の腕を掴んだ。
「ローゼ」
「え?サイオン殿下?」
ピンクの髪を後ろで纏めた青い瞳の娘は瞠目し、サイオンを見つめる。
サイオンを前にし、膝をついたブラウン伯爵が嗜めるように娘を呼ぶ。
「ローゼリア」
「あっあの…」
「『ローゼリア』?」
しげしげと娘の顔を見るサイオン。
「サイオン殿下、この者は私の妹の養女のローゼリアです。貴族の生まれではありませんので礼儀を弁えず申し訳ございません」
ブラウン伯爵が恭しく礼を取る。隣で娘の養母も頭を下げていた。
サイオンは「ローゼリア…」と呟きながら娘を見る。
「ローゼでは…ないのか…」
サイオンは絶望したような表情で娘の手を離す。娘は慌てて跪くと頭を下げた。
「ローゼリアの元の名前はセリアと申しますが、ローゼに似ているため、似た名前を付けましたので…」
「そう…か。ローゼに似た名を…」
ブラウン伯爵の言葉に、サイオンは呆然と、頭を下げている娘を見つめた。
少しの間、娘を見つめた後、サイオンは口元を引き締めて娘を呼んだ。
「ローゼリア」
「は…はい」
頭を下げたまま娘が返事をする。
「何歳だ?」
「じゅ…十五です」
「ローゼと同じ歳か」
「はい」
「春から学園に編入するのか?」
「はい」
「…そうか。では、また会えるのを楽しみにしている」
「はい」
サイオンはそう言うと、王の側へと戻って行った。
-----
謁見の間を出たサイオンとロイズ。廊下を歩きながらロイズが小声で言う。
「やはり兄上は演技派です」
「上手く印象付けられたと思うか?」
サイオンも小声で言う。
「ええ。ローゼとローゼリアが別人である事と、兄上がローゼに執着しているのがよく伝わったと思います」
「執着…まあ間違ってはいないか」
「ロイズ殿下…」
サイオンとロイズの私室の近くまで来ると、女性の声がした。
声のした方を見ると、ロイズの婚約者エリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢が立っている。
「エリカ?」
ロイズがエリカサンドラに歩み寄る。サイオンはそのまま私室へと戻って行った。
エリカサンドラは眉を顰め、口をへの字に歪ませている。
「…どうしたんだ?」
「ロイズ殿下…今日、お会いになったんですよね?」
「誰に?」
「と、とぼけないでください!ロロロローゼに、似てるって、おんなっいえ、女性に!です」
「ああ…」
「ま、まさか…また…」
俺と兄上がブラウン伯爵家との謁見に出るのを聞きつけて駆け付けたのか。俺がまたローゼに似た女性に心惹かれるのではないかと心配して。
「いや。それはない。とりあえず部屋へ行こう。お茶を用意する」
ロイズはエリカサンドラの背中に手をやり、部屋の方へと促す。
侍女がお茶の用意をして退出すると、エリカサンドラは憮然とした表情で言う。
「それで、その女性は本当に似ていたのですか?」
「ああ。ローゼにそっくりだった」
「そっそっくり!?」
エリカサンドラが慌てて言う。
あー何というか……かわいいな。
「エリカ」
「何ですか!?」
「卒業パーティーのドレス、何色が良いんだ?」
「…はい?」
きょとんとするエリカサンドラに笑顔を向ける。
「俺はエリカにしかドレスを贈る気はないからな」
「!」
「何色?」
エリカサンドラは気の強そうな顔を赤く染めて小さな声で言った。
「……む…らさき」
「サイオン殿下とロイズ殿下が謁見に出られるんですか?」
謁見室の係員がサイオンとロイズを見て疑問の声を上げる。
「ああ。今日はブラウン伯爵家が来ているんだろう?養女を迎えたと」
「そうですけど…」
上位貴族の籍に婚姻・出生以外の編入があった場合、戸籍の筆頭者が編入者を伴い王宮へ届け出る事になっている。遺産狙いでの養子縁組などを防ぐのが目的だ。
その際、有力貴族や、何か話題になった貴族などと王族が謁見する事があり、今日はブラウン伯爵家が養女を迎え、王宮へ届出に来るので、国王が謁見に呼んでいるのだ。
「ローゼの母と伯父を見てみたい。それに…養女となった娘も」
ローゼが亡くなり、サイオンとロイズが…特にサイオンが落ち込んでいたのは王城に勤める者たち皆が知っていた。今回、王が謁見するのもそのせいだ。
ローゼの母と、母の兄が、ローゼに似ている娘を連れて王宮へ来るのだ。王子たちのみならず、王子たちの父である国王がその者たちを見てみたいと思うのも無理はないか、と係員は思った。
赤い絨毯の上で顔を上げた娘を見て、国王の座の斜め後ろに立つサイオンが呟いた。
「ローゼ…」
サイオンは自分の前髪をくしゃりと掴む。
「似ている…いや、ローゼだ」
「サイオン?」
サイオンの父である王がサイオンに視線を向けた。
「確かにそっくりだ…」
サイオンの対称の位置に立つロイズも言う。
王とブラウン伯爵との遣り取りが一通り終わり、三人が退出するため立ち上がった時、サイオンが歩き出した。
「サイオン殿下!」
周りにいた者が制止の声を上げるが、サイオンはつかつかと三人に近付き、ブラウン家の養女になった娘の腕を掴んだ。
「ローゼ」
「え?サイオン殿下?」
ピンクの髪を後ろで纏めた青い瞳の娘は瞠目し、サイオンを見つめる。
サイオンを前にし、膝をついたブラウン伯爵が嗜めるように娘を呼ぶ。
「ローゼリア」
「あっあの…」
「『ローゼリア』?」
しげしげと娘の顔を見るサイオン。
「サイオン殿下、この者は私の妹の養女のローゼリアです。貴族の生まれではありませんので礼儀を弁えず申し訳ございません」
ブラウン伯爵が恭しく礼を取る。隣で娘の養母も頭を下げていた。
サイオンは「ローゼリア…」と呟きながら娘を見る。
「ローゼでは…ないのか…」
サイオンは絶望したような表情で娘の手を離す。娘は慌てて跪くと頭を下げた。
「ローゼリアの元の名前はセリアと申しますが、ローゼに似ているため、似た名前を付けましたので…」
「そう…か。ローゼに似た名を…」
ブラウン伯爵の言葉に、サイオンは呆然と、頭を下げている娘を見つめた。
少しの間、娘を見つめた後、サイオンは口元を引き締めて娘を呼んだ。
「ローゼリア」
「は…はい」
頭を下げたまま娘が返事をする。
「何歳だ?」
「じゅ…十五です」
「ローゼと同じ歳か」
「はい」
「春から学園に編入するのか?」
「はい」
「…そうか。では、また会えるのを楽しみにしている」
「はい」
サイオンはそう言うと、王の側へと戻って行った。
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謁見の間を出たサイオンとロイズ。廊下を歩きながらロイズが小声で言う。
「やはり兄上は演技派です」
「上手く印象付けられたと思うか?」
サイオンも小声で言う。
「ええ。ローゼとローゼリアが別人である事と、兄上がローゼに執着しているのがよく伝わったと思います」
「執着…まあ間違ってはいないか」
「ロイズ殿下…」
サイオンとロイズの私室の近くまで来ると、女性の声がした。
声のした方を見ると、ロイズの婚約者エリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢が立っている。
「エリカ?」
ロイズがエリカサンドラに歩み寄る。サイオンはそのまま私室へと戻って行った。
エリカサンドラは眉を顰め、口をへの字に歪ませている。
「…どうしたんだ?」
「ロイズ殿下…今日、お会いになったんですよね?」
「誰に?」
「と、とぼけないでください!ロロロローゼに、似てるって、おんなっいえ、女性に!です」
「ああ…」
「ま、まさか…また…」
俺と兄上がブラウン伯爵家との謁見に出るのを聞きつけて駆け付けたのか。俺がまたローゼに似た女性に心惹かれるのではないかと心配して。
「いや。それはない。とりあえず部屋へ行こう。お茶を用意する」
ロイズはエリカサンドラの背中に手をやり、部屋の方へと促す。
侍女がお茶の用意をして退出すると、エリカサンドラは憮然とした表情で言う。
「それで、その女性は本当に似ていたのですか?」
「ああ。ローゼにそっくりだった」
「そっそっくり!?」
エリカサンドラが慌てて言う。
あー何というか……かわいいな。
「エリカ」
「何ですか!?」
「卒業パーティーのドレス、何色が良いんだ?」
「…はい?」
きょとんとするエリカサンドラに笑顔を向ける。
「俺はエリカにしかドレスを贈る気はないからな」
「!」
「何色?」
エリカサンドラは気の強そうな顔を赤く染めて小さな声で言った。
「……む…らさき」
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