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「デビィ大丈夫か?」
 うずくまるデボラの背中を摩りながらマリックが声を掛ける。
「うん。いきなり走ろうとしたからちょっと…暫くじっとしてれば大丈夫よ」
 ゆっくり身を起こして脇腹を押さえていた手を少し緩める。
 中庭に出る扉の所にクレイグが立っているのが目に入った。
 真っ直ぐに自分を見ているクレイグ。
「クレイグ様…」
「デビィ?」
 マリックの声で、自分がマリックに寄り添われ背中を撫でられているのに気付く。
 クレイグが向きを変えるのが見えた。
「待って!」
 立ち上がろうとして、また脇腹が痛む。
「いたた…」
 クレイグが振り向いて、不機嫌そうな表情でデボラに近付いて来た。
「クレイグ様」
 デボラの前に立つクレイグを見上げる。
 クレイグは眉間に皺を寄せて
「…無理をするな」
 と言う。
「マリック君だったかな?邪魔をして済まないね。私はクレイグ・エンジェル。ローゼの兄だ」
 マリックに向けて笑顔を見せるクレイグ。
「ローゼの…」
「妹を亡くして…デボラ嬢がローゼの代わりの様に思えて度々会いに来てしまったが、君たちの邪魔をするつもりはないから誤解はしないで欲しい」
「はあ」
 気の抜けた返事をするマリックにクレイグはにっこりと笑いかけると、デボラの前に膝をつく。
「その体勢のままなら痛まないのかな?」
「え?はい」
「じゃあそのままで」
 クレイグはそう言うと、デボラをひょいっと抱き上げた。
「ひゃっ」
 座った姿勢のまま支えられているので、普通のお姫様抱っこより、顔と顔の距離が近い。
 ほ、頬がクレイグ様の頬に当たりそう。
 クレイグは無表情で、息を乱す様子もなく階段を上ってデボラの病室に入ると、ベッドの上にデボラを降ろす。
 その時、頬が触れ合い、クレイグが少し頬擦りするように動いた…気がした。

「医師を呼ぼうか?」
 何事もなかったかのようにクレイグが言う。
「…いえ。じっとしていれば大丈夫です」
 気のせい?…なのよね?
「そうか…」
「……」
「マリック君は?」
「え?ああ…帰ったんじゃないですかね」
 マリックは病室へは着いて来ていないようだ。
「良かったのか?」
「はい?」
 ああ、幼なじみならいつでも会えるのか。
「…もうすぐ退院らしいね」
「はい。来週には」
「そう。それは良かった」
 クレイグは笑顔を作る。
「さっきローゼが来ました」
「そうか…ローゼの件も明日にはひと段落だな」
「そうですね。義理になっちゃうけどローゼがクレイグ様の妹のままでいられて良かったです」
「…ありがとう。デボラ嬢には色々迷惑や心配を掛けてしまったな。春にはローゼと学園で会うだろうから、また仲良くしてやって欲しい」
「…はい」
 この、言い方…クレイグ様はもう私と会う気はないって事…?
 あ、でも退院したら、こうしてお見舞いに来てもらえないし、ローゼはいないし、本当に会う機会、なくなっちゃうんだわ。
 でもクレイグ様は平気そうだし…私、考えるって言ったのに、もうクレイグ様の気持ちは変わっちゃったのかな…

「デボラ嬢?」
 俯いたデボラの顔ををクレイグが覗き込む。
「…クレイグ様」
「ん?」
「一週間前には王都に戻られてたんでしょう?どうして来てくれなかったんですか?」
 デボラは顔を上げてクレイグを見る。
「んん?」
「私『考えた事なかったから、今から考える』って言ったのローゼから聞いてますか?」
「ああ。聞いてるよ」
「じゃあどうしてもう会わないみたいな事言うんですか?もう心変わりして、私なんてどうでも…」
「デボラ嬢?」
「…よく…なって…」
 唇が震えて、涙が浮かぶ。
 クレイグは手を伸ばすと、自分の胸にデボラの顔を押し付けた。
「何で泣く」
「だって…」
「あの幼なじみと…縒りを戻したんじゃ?」
「マリック?いいえ?」
「……」
 クレイグはもう片方の腕も背中に回してデボラを抱きしめた。
 …クレイグ様も、すごくドキドキしてる。
 そっか。マリックと私がまた付き合ってるって思ったから、もう会わないつもりだったのね。
「クレイグ様」
「うん?」
「私…クレイグ様の事好きかどうかまだよくわからないんですけど」
「…うん」
「会えないのは嫌だなって思うんです」
「うん…そうか」
 デボラはクレイグの胸元をきゅっと握る。クレイグはデボラの背中に回した腕に少し力を込めた。



 
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