上 下
61 / 83

60

しおりを挟む
60

「お久しぶりです。アメリア様」
 リリーは屋敷に戻って来たアメリアを玄関ホールで笑顔で出迎えた。
「あら…貴女は…」
「リリー・マーシャルです。覚えておられます?」
 リリーがニコッと笑うと、アメリアはハッとした様子で礼を取る。
「公爵家のお嬢様でしたね。以前お目に掛かった際は不調法で申し訳ありませんでした」
「気にしないでください。親しくお話していただけた方が嬉しいですわ。こちらのお庭がとても綺麗だったので、季節が変わった様子も見たくてお邪魔したのです」

 アメリアと共に東屋へ移動する。
 お茶の用意を整え、シドニーが立っていた。
 リリーはズキンと痛む胸を堪えながら平静を装い会釈をする。シドニーも複雑な表情で頭を下げた。

「今の時期だとフロストアスターやダリアも綺麗ですけど、やはり秋バラですかね」
 アメリアが楽しそうに庭の花を指し示す。
「ダリアも秋バラも様々な色の花があるんですね。近くで見たいので後でご案内いただいても?」
「もちろんです」
 アメリアは嬉しそうに頷いた。

 暫くお茶を飲みながら歓談し、リリーとアメリアは並んで庭を歩く。そんな二人の後を少し距離を空けてシドニーが付いて行く。
 赤やオレンジ、ピンクの大小様々に咲くダリアやバラの説明や、剪定や肥料などについても楽しそうに話すアメリア。
「アメリア様もお花のお世話をされるんですか?」
 リリーがそう聞くと、アメリアは苦笑いしながら答える。
「ええ。私は学園も卒業しておらず、社交もしないので…花を育てたり、土をいじるのが唯一の趣味なんです」
 リリーは、小さくコクンと息を飲み、核心に触れるべく口を開く。
「学園を…卒業しておられないのは何故ですか?」
「……」
「社交をされないのは?」
 リリーはアメリアを追い詰める質問に胸を痛めながらも、じっとアメリアを見つめながら言う。
「…身体が…弱くて」
 アメリアは視線をウロウロと彷徨わせながら呟くように言った。
「学園に入学してから辞められるなんて、余程の事ですよね?」
「…どうして知って」
 驚くアメリア。リリーは眉を寄せて頭を下げた。
「ごめんなさい。アメリア様…貴女を苦しめたい訳ではないのですが…」
「リリー様?」

 ガサッ。
 っと音を立てて、秋バラの陰からクレイグが現れアメリアの前に立つ。クレイグに隠れるようにローゼもアメリアの前に出た。
「貴方…は…」
 驚愕の表情のアメリアは口元を自分の両手で覆う。
「…お久しぶりです。私がわかりますか?義母はは上」
 クレイグは胸に手を当てて礼を取る。
「は、はうえ」
「ええ。クレイグ・エンジェルです。貴女の義理の息子の」
「……」
 クレイグをじっと見ながら、後退りをするアメリア。シドニーが後からアメリアの両肩に手を置く。
「そして、貴女の娘の、ローゼです」
 クレイグが少し身体をずらすと、ピンクのショートヘアの女の子がアメリアの前に現れた。
「ひっ」
 恐怖の表情を浮かべるアメリアに、ローゼは目を閉じる。
 覚悟はしていた。でも見たくはない。
「いやあ!離して!」
「アメリア」
 逃げようとするアメリアを、シドニーが押し留める。
「あれは亡霊よ!私を呪う!」
「違う。アメリア」
「違わないわ!!」
 アメリアはそう叫ぶと、渾身の力で身を捩ってシドニーの手から逃れると、走り出した。
「アメリア!」
 捕まえようとするシドニーの手をすり抜け、バラの植え込みの隙間へと飛び込む。
「お母様!」
 弾かれたように走り出したローゼも、アメリアの後を追って植え込みの隙間へ飛び込んだ。
「ローゼ!」
 クレイグやシドニーが同じように飛び込むには隙間は小さい。アメリアやローゼでも、バラの棘に引っ掛けた傷ができているだろう。
「この向こうには厩がある。アメリアは馬に乗れるんだ!」
 シドニーが庭の小道を駆け出し、クレイグとリリーも後に続いた。

「いやあ!来ないで!」
 追いつき掛けたローゼの手を振り払い、アメリアは厩へと走る。そこへ馬丁が鞍の付いた馬を二頭引いて来た。
 あの、馬は…
「アメリア様!?この馬はお客人の…」
 アメリアは無言で馬丁から黒毛の馬の手綱を奪うと、ヒラリと跨る。
「アメリア様!」
 馬丁の静止を振り切り、そのまま馬で駆けて行くアメリア。
「お母様…」
 ローゼが遠ざかって行くアメリアを呆然と眺めていると、後ろからローゼを呼ぶ声がした。
「ローゼ!」
 ゆっくりと振り向く。
 ああ、やっぱり。
「…サイオン様」
 屋敷の方から、サイオンが心配そうな顔でローゼに駆け寄って来た。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アラフォーだから君とはムリ

天野アンジェラ
恋愛
38歳、既に恋愛に対して冷静になってしまっている優子。 18の出会いから優子を諦めきれないままの26歳、亮弥。 熱量の差を埋められない二人がたどり着く結末とは…? *** 優子と亮弥の交互視点で話が進みます。視点の切り替わりは読めばわかるようになっています。 1~3巻を1本にまとめて掲載、全部で34万字くらいあります。 2018年の小説なので、序盤の「8年前」は2010年くらいの時代感でお読みいただければ幸いです。 3巻の表紙に変えました。 2月22日完結しました。最後までおつき合いありがとうございました。

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん
恋愛
 運命が狂った瞬間は…あの舞踏会での王太子殿下の婚約破棄宣言。  罪を犯し、家を取り潰され、王都から追放された元侯爵令嬢オリビアは、辺境の親類の子爵家の養女となった。  嫌々参加した辺境伯主催の夜会で大商家の息子に絡まれてしまったオリビアを助けてくれたダグラスは言った。 「お会いしたかった。元侯爵令嬢殿」  ダグラスは、オリビアの犯した罪を知っていて、更に頼みたい事があると言うが…

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

じゃじゃ馬婚約者の教育方針について悩んでいます。

萌菜加あん
恋愛
宰相家の息子ウォルフには、ユウラというゾッコンの婚約者がいる。 しかし彼女は将軍家の娘で、騎士になることを夢見ている。 ウォルフの暮らすアルフォード家に行儀見習いに入ったものの、 並行して騎士を養成するアカデミーへの入学を希望する。 そこで王太子エドガーがユウラを見初めてしまったから、さあ、大変! ウォルフの恋の行方は???  

処理中です...