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「コーネリア様…私、前世で母親に殺されたんです」
ベッドの上で、倒れて顔を手で覆ったままローゼは言う。
「え?」
「前世の事、あまり覚えてないって言いましたけど、本当は覚えてて…父と母は仲が悪くて、子供の事もどっちも無関心で、私も友達もいなくてゲームばっかりしてる暗い子供でした」
「ローゼ…」
コーネリアはローゼの頭元に座ると、そっとローゼの頭を撫でてくれる。
「中学を出る頃、父と母が離婚して、母と家を出たその日に…母に海に突き落とされて…」
「どうして…」
「よくわからないんですけど『養育費より保険金』って声が聞こえた…聞こえるはずないけど聞こえた気がしたので…お金なのかなあ、と」
「そんな!我が子をそんな…」
コーネリアの前世は普通の主婦で、子供が巣立ってからゲームに嵌ったと言っていたから、母として、ローゼの言う事が理解し難いのだろう。
「それが、十五歳の時で、今も十五歳で…湖に落ちた時『私って十五で水死するのが運命なのかな』って思って。それで目が覚めた時…もしローゼとして生きていたのが夢で、目を開けたら前世の続きだったら…って考えたら、ものすごく怖くて」
顔を隠したまま話すローゼの頭をコーネリアは黙って優しく撫でる。
「それで、目が覚めたらこっちの世界で。すごく嬉しくて…あそこで死んだんだと思えば、これからは『おまけ』みたいなものだから、あんまりゲームの力とか拘らなくても良いのかなって思ったんです」
ローゼは顔から手を離すと、コーネリアに照れ笑いを向けた。
-----
コーネリアと入れ替わりに、黒いスーツに黒いネクタイのクレイグが寝室へと入って来る。
ベッドに座ったローゼとぎゅっと抱き合う。
「目が覚めてからは元気な様子だとは聞いていたが、顔を見られてやっと安心したよ」
「お兄様…」
「ああ、でも私の妹としてのローゼと会えるのは今日で最後だと思うと…淋しいな」
クレイグもベッドに座り、ローゼの頬を撫でる。
今日はこれから「ローゼの葬儀」なのだ。
水中で溺れたところをすぐに救助され、その時は問題ない状態だったものの、その後再び状態が悪化し、呼吸不全を起こす。二次溺水などとも呼ばれるこの症状でローゼは王城の医療棟で亡くなった事とされた。
王城で亡くなったので、王城内の教会で葬儀を執り行う事になり、クレイグも不自然でなくサイオンの元に居るローゼに会いに来る事ができているのだ。
「私は…ずっとお兄様の妹です」
「もちろんだ。公の場では兄妹ではなくなるが、ローゼはずっと私のかわいい妹で、たった一人の家族だからな」
クレイグはくしゃくしゃとローゼの頭を撫でる。
「お兄様、デビィの具合はどうなんですか?」
ローゼは目覚めてからずっと気になっていた事を聞く。
「命に別状はないが、出血が多かったので鎮痛剤でまだ眠っている状態だな」
「後遺症とかは…?」
「臓器は傷ついていないし…恐らくは大丈夫だと思う」
ローゼはほっと息を吐く。
「今日は行けないが、明日はまた様子を見に行く。もう二、三日もすれば王城の医療棟へ移れるだろうから、すぐに会えるさ」
私が「別人」になっちゃったら、デビィとは会えなくなっちゃうのかな…?
「デビィには、この計画の事、話して良いんですよね?」
「ああ。ただ、伯爵家でこの話をする訳にはいかないから、デボラ嬢に詳しく説明をするのは医療棟に移ってからだな」
「そっか…」
「そういえば、伯爵家にデボラ嬢の恋人が駆け付けて来たとは聞いていないが…悪役令嬢の恋人と言う事は攻略対象者であり生徒会役員だろう?デボラ嬢の怪我を知らない訳ないと思うが何故会いに来ないんだ?」
「ああ…」
そういえばお兄様はデビィとマリックがもうお別れしてるって知らないんだっけ。
「マリックさんは幼なじみだから…」
マリックさんが今でもデビィの恋人なら、貴族じゃないマリックさんが伯爵邸を訪ねるのは難しいけど…それでもきっとどうにかして駆け付けたんだろうけどな。
多分デビィが医療棟へ移ってから幼なじみとして会いにいくつもりなんじゃないかなあ。
「ローゼ!」
その時、勢い良く扉が開き、リリーが入ってくる。
「リリー様」
ガバッとローゼに抱きつくリリー。
「もう!ローゼの葬儀だなんて!本当じゃないって知ってても泣きそうだわ」
「リリー様…」
「ニューマン先生も来られてるの。寝室には入れないって…ローゼ顔を見せてあげて?」
「コーネリア様…私、前世で母親に殺されたんです」
ベッドの上で、倒れて顔を手で覆ったままローゼは言う。
「え?」
「前世の事、あまり覚えてないって言いましたけど、本当は覚えてて…父と母は仲が悪くて、子供の事もどっちも無関心で、私も友達もいなくてゲームばっかりしてる暗い子供でした」
「ローゼ…」
コーネリアはローゼの頭元に座ると、そっとローゼの頭を撫でてくれる。
「中学を出る頃、父と母が離婚して、母と家を出たその日に…母に海に突き落とされて…」
「どうして…」
「よくわからないんですけど『養育費より保険金』って声が聞こえた…聞こえるはずないけど聞こえた気がしたので…お金なのかなあ、と」
「そんな!我が子をそんな…」
コーネリアの前世は普通の主婦で、子供が巣立ってからゲームに嵌ったと言っていたから、母として、ローゼの言う事が理解し難いのだろう。
「それが、十五歳の時で、今も十五歳で…湖に落ちた時『私って十五で水死するのが運命なのかな』って思って。それで目が覚めた時…もしローゼとして生きていたのが夢で、目を開けたら前世の続きだったら…って考えたら、ものすごく怖くて」
顔を隠したまま話すローゼの頭をコーネリアは黙って優しく撫でる。
「それで、目が覚めたらこっちの世界で。すごく嬉しくて…あそこで死んだんだと思えば、これからは『おまけ』みたいなものだから、あんまりゲームの力とか拘らなくても良いのかなって思ったんです」
ローゼは顔から手を離すと、コーネリアに照れ笑いを向けた。
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コーネリアと入れ替わりに、黒いスーツに黒いネクタイのクレイグが寝室へと入って来る。
ベッドに座ったローゼとぎゅっと抱き合う。
「目が覚めてからは元気な様子だとは聞いていたが、顔を見られてやっと安心したよ」
「お兄様…」
「ああ、でも私の妹としてのローゼと会えるのは今日で最後だと思うと…淋しいな」
クレイグもベッドに座り、ローゼの頬を撫でる。
今日はこれから「ローゼの葬儀」なのだ。
水中で溺れたところをすぐに救助され、その時は問題ない状態だったものの、その後再び状態が悪化し、呼吸不全を起こす。二次溺水などとも呼ばれるこの症状でローゼは王城の医療棟で亡くなった事とされた。
王城で亡くなったので、王城内の教会で葬儀を執り行う事になり、クレイグも不自然でなくサイオンの元に居るローゼに会いに来る事ができているのだ。
「私は…ずっとお兄様の妹です」
「もちろんだ。公の場では兄妹ではなくなるが、ローゼはずっと私のかわいい妹で、たった一人の家族だからな」
クレイグはくしゃくしゃとローゼの頭を撫でる。
「お兄様、デビィの具合はどうなんですか?」
ローゼは目覚めてからずっと気になっていた事を聞く。
「命に別状はないが、出血が多かったので鎮痛剤でまだ眠っている状態だな」
「後遺症とかは…?」
「臓器は傷ついていないし…恐らくは大丈夫だと思う」
ローゼはほっと息を吐く。
「今日は行けないが、明日はまた様子を見に行く。もう二、三日もすれば王城の医療棟へ移れるだろうから、すぐに会えるさ」
私が「別人」になっちゃったら、デビィとは会えなくなっちゃうのかな…?
「デビィには、この計画の事、話して良いんですよね?」
「ああ。ただ、伯爵家でこの話をする訳にはいかないから、デボラ嬢に詳しく説明をするのは医療棟に移ってからだな」
「そっか…」
「そういえば、伯爵家にデボラ嬢の恋人が駆け付けて来たとは聞いていないが…悪役令嬢の恋人と言う事は攻略対象者であり生徒会役員だろう?デボラ嬢の怪我を知らない訳ないと思うが何故会いに来ないんだ?」
「ああ…」
そういえばお兄様はデビィとマリックがもうお別れしてるって知らないんだっけ。
「マリックさんは幼なじみだから…」
マリックさんが今でもデビィの恋人なら、貴族じゃないマリックさんが伯爵邸を訪ねるのは難しいけど…それでもきっとどうにかして駆け付けたんだろうけどな。
多分デビィが医療棟へ移ってから幼なじみとして会いにいくつもりなんじゃないかなあ。
「ローゼ!」
その時、勢い良く扉が開き、リリーが入ってくる。
「リリー様」
ガバッとローゼに抱きつくリリー。
「もう!ローゼの葬儀だなんて!本当じゃないって知ってても泣きそうだわ」
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「ニューマン先生も来られてるの。寝室には入れないって…ローゼ顔を見せてあげて?」
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