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 家長と、少ない参列者。
 その葬儀はひっそりと執り行われ、棺は墓地へと埋葬された。

 墓碑に刻まれたのは【ローゼ・エンジェル】の名。

「溺れて…その時には息を吹き返しても肺に水が入って数日後に亡くなってしまう事は、ままある事らしいわ…」
 黒い服、黒い手袋、黒い靴、黒いトーク帽に顔の前を覆う黒いベール。
 リリーは葬儀から戻って、自室で侍女のベティにそう言った。
「そうなんですか…」
 ベティはリリーの手袋を外しながら小さな声で言う。

「クリスはどうしているかしら?」
「訃報を聞かれた時から部屋に篭られて…」
「そう…」
 好きな女性が目の前で攫われて、逃げようとして湖に落ちて、一度は助かったと思ったのに、亡くなってしまう。それはショックを受けても仕方ないだろう。
「大丈夫かしら?」
「明日、エレノア様がおいでくださるそうです」
「そう。会って話して少しは気分が変わると良いけれど…」
「はい」
 リリーの纏めた髪を解きながらベティは頷く。
「ベティは…」
「はい?」
「ううん」
 ベティもクリスの事、好きなのよね。好きな人が落ち込んでいるのを見るのも辛いんだろうな…
「リリー様、何をおっしゃりたいのか大体判りますが…以前にも言いましたが、私はクリス様にはエレノア様と幸せになっていただきたいと思っているんです」
 ベティは真顔で言う。
「そう…私、ベティはいいだから、その内いい人に出会えると思うわよ」
「ドウモアリガトウゴザイマス」
「あら。棒読みね」
「それにしても…リリー様はあまり落ち込んでおられないんですか?」
「そう見える?」
 リリーは解けた髪を触りながら俯く。
「…少し」
「ローゼがね、亡くなる前に少し会えたの。その時、湖で…『リリー様が世界で一番幸せになりますように』って祈ったんだって…言ったの…」
 リリーの膝の上に涙がポトリと落ちる。
「リリー様…」
「だからね、絶対に幸せになってやろうと思うのよ。私」

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 王城の医療棟に移ったデボラが、ベッドで座っていると、開け放たれた扉から廊下に立つ人影が見えた。
 あれは…
「クレイグ様?」
 デボラが声を掛けると、人影は部屋に入って来る。
「…デボラ嬢、具合はどう?」
 クレイグは口角を上げて言う。
「今日は熱も下がって気分が良いんです」
 ローゼとデボラが攫われてから十日が経つ。
 熱が上がったり下がったりしていたが、昨日家から持って来てもらった薬が効いたのか今日は身体の怠さも少なく、気分が良かった。薬と云っても体力回復のサプリメントのような物だ。
「そう。今日は、気分が良いんだね」
 笑顔を向けるクレイグ。
 あれ?でもクレイグ様…何だかいつもと違う?
 ローゼの葬儀の日以外毎日私の様子を見に来てくださってるけど…疲れてるのかな?
 昨日はローゼの寮の部屋の片付けに行くって言われてたし、色々手続きもあるみたいだし。
「あの…クレイグ様、お疲れでしたら毎日来てくださらなくても私はもう大丈夫ですよ?」
「……」
 あれ?笑顔が消えた。
 もしかしてローゼの代わりに、同級生で友達の私に会いに来るのが気晴らしになってたりするの?
「…先程、デボラ嬢の幼なじみがお見舞いに来てくれてたみたいだね」
「あ、はい。そうですね」
 今日は友達が三人、お見舞いに来てくれた。歳と家が近い幼なじみで、昔から四人組でよく遊んでいた、一つ歳上の女の子と、一つ歳下の男の子、そしてマリックだ。
 マリックだけが少し残り、五分ほど二人で話をした。扉が開け放たれていたのはマリックと二人きりになったからだ。
気分が良いのかな?」
「え?」
 確かに久しぶりに友達と話して楽しかったけど…
 クレイグはまたデボラに笑顔を向ける。
「いや。また明日来る」
 そう言って、クレイグは病室を出て行った。

「何か…クレイグ様、変だったな…」
 デボラが呟くと
「そうね」
 と返事がある。
 マントのような服にフードを被った男の子がデボラの病室に入って来る。
「誰?」
 男の子?フードで顔がよく見えない。

 男の子は口の前で人差し指を立てて「しー」と小さな声で言った。


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