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「…あの、これ、どういう状況ですか?」
ローゼは、呼び出された寮のリリーの部屋のドアを開けるなり呆気に取られた表情で固まった。
部屋の中には、リリーとデボラが居る。秋期が始まってからこの二人とはよく部屋を行き来しているので、それは不思議ではない。
リリーは「もう私はローゼの主人じゃないんだもの。これからはローゼの友人よ」と言ってくれたのだ。
ただ、今日はリリーとデボラ以外にも部屋に人が居た。
リリーの右隣に座るのはエリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢。左隣にはエレノア・ウィンブロー伯爵令嬢。
向かいのソファには奥からサフィ・デップマン伯爵令嬢、ドロワ・カーティス子爵令嬢、そしてデボラが座っている。
これは…コーネリア様以外の悪役令嬢が勢揃い…だわ。
「ローゼはここに座って」
デボラが立ち上がって自分が座っていた所へとローゼを促す。
デボラは人数分の紅茶を手際よくテーブルに置くと、食卓の椅子を持って来て、ローゼの隣へと置いて座った。
リリーとデボラはニコニコしていて、他の四人はじっとり睨むようにローゼを見ている。
「リリー様、これはどう言う事ですの?」
エリカサンドラがリリーに言う。
「あのね、ローゼの事を知ってもらえば、みんな意地悪する気がなくなるんじゃないかと思ったのよ。お友達になれとまでは言わないけど…」
「こっこんな女と友達になんて、なれる訳ありませんわ!」
「そうです。無理です」
エリカサンドラが手に持っていた扇でローゼの方を指して言うと、エレノアが同調して頷いた。
「えいっ」
リリーが自分の扇で、リリーの前へ伸ばされたエリカサンドラの扇を上からペシンと叩く。ポトリと扇がリリーのスカートの上に落ちた。
「そうやって扇で人を指すのは下品よ。エリカ様」
にっこり笑って扇を手に取りエリカサンドラへ両手で差し出すリリー。
エリカサンドラはバツが悪そうに「扇を叩き落とすのも上品とは…」と呟きながら扇を受け取った。
「エレノアはどうして無理だと思うの?」
リリーがエレノアの方を向いて言う。エレノアはリリーの弟クリスティンの幼なじみだ。と、言う事はリリーの幼なじみでもある。
「え?あの、だって…クリスが…」
「クリスは確かにローゼに夢中でエレノアを蔑ろにしていると思うわ。でも、それはあくまでもクリスがエレノアを蔑ろにしているのであって、ローゼが何か関係あるのかしら?」
「…だって、この女がクリスを誘惑して…」
「具体的にローゼが何をしたのかしら?」
エレノアは視線をうろうろと彷徨わせている。ローゼが何かをしたエピソードを思い付かないからだ。
「エリカ様も、サフィ様、ドロワ様も、貴女たちのお相手に、ローゼが何をしたのか、考えてみて」
「……」
リリーの言葉に黙って考える令嬢たち。
「私も、マリックがあんまりローゼ、ローゼと言うし、私の事を放っておくから、腹が立って、憎くて…ローゼの持ち物を隠したり、嫌味を言ったりしたし、家から下剤持って来て飲ませようかと思ったりしたんですけど…」
デボラがそう言うと、リリーが
「下剤!?」
と声を上げる。
「実行してませんよ」
デボラは苦笑いすると、話を続ける。
「夏期休暇にひょんな所でローゼと会って話して…マリックに対してローゼから働きかけた事など何一つないし、ローゼはマリックを好きでもないし、まして、自分を好きにさせたいなんて思ってもいないのが分かったんです」
「……でも」
サフィが自分の膝の上に置いた手を握りしめる。
「この人が働きかけた訳ではないのは、その通りかも知れません。でもランドール様が急にピンクを好きになったり、私と話していても上の空だったり、遠目でこの人を眺めている時の表情とか……辛くて…」
「デップマン様…分かるわ…」
隣のドロワが眉を寄せて言う。
「…ただ、私の舞踏会での発言が、事実ではなかった事は…素直に謝罪したいと思います」
「事実ではないと…?」
ドロワがそう聞くと、サフィは頷く。
「我が家に王太子殿下がお見えになって…父に守秘義務違反での異動を告げられた際に説明を受けました」
サイオン殿下が?
ローゼは咄嗟にリリーを見る。リリーはローゼと目が合うと頷いた。
「ええ。そう聞いているわ」
「私も、その件は誤解がないように、とロイズ殿下からお聞きしましたわ」
エリカサンドラも言う。
「だから…」
サフィは立ち上がると、ローゼに向かって頭を下げた。
「自分が辛いからって、貴女の尊厳を傷付ける様な事を言って…誇張された噂になってしまって…本当にごめんなさい」
「え、あの」
ローゼも立ち上がる。
が、サフィに何と言って良いか分からない。
リリーを見ると、ゆっくりと頷く。
リリーに「言いたい事があるなら言いなさいな」と言われた気がして、ローゼは拳を握って声を発した。
「…あの、これ、どういう状況ですか?」
ローゼは、呼び出された寮のリリーの部屋のドアを開けるなり呆気に取られた表情で固まった。
部屋の中には、リリーとデボラが居る。秋期が始まってからこの二人とはよく部屋を行き来しているので、それは不思議ではない。
リリーは「もう私はローゼの主人じゃないんだもの。これからはローゼの友人よ」と言ってくれたのだ。
ただ、今日はリリーとデボラ以外にも部屋に人が居た。
リリーの右隣に座るのはエリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢。左隣にはエレノア・ウィンブロー伯爵令嬢。
向かいのソファには奥からサフィ・デップマン伯爵令嬢、ドロワ・カーティス子爵令嬢、そしてデボラが座っている。
これは…コーネリア様以外の悪役令嬢が勢揃い…だわ。
「ローゼはここに座って」
デボラが立ち上がって自分が座っていた所へとローゼを促す。
デボラは人数分の紅茶を手際よくテーブルに置くと、食卓の椅子を持って来て、ローゼの隣へと置いて座った。
リリーとデボラはニコニコしていて、他の四人はじっとり睨むようにローゼを見ている。
「リリー様、これはどう言う事ですの?」
エリカサンドラがリリーに言う。
「あのね、ローゼの事を知ってもらえば、みんな意地悪する気がなくなるんじゃないかと思ったのよ。お友達になれとまでは言わないけど…」
「こっこんな女と友達になんて、なれる訳ありませんわ!」
「そうです。無理です」
エリカサンドラが手に持っていた扇でローゼの方を指して言うと、エレノアが同調して頷いた。
「えいっ」
リリーが自分の扇で、リリーの前へ伸ばされたエリカサンドラの扇を上からペシンと叩く。ポトリと扇がリリーのスカートの上に落ちた。
「そうやって扇で人を指すのは下品よ。エリカ様」
にっこり笑って扇を手に取りエリカサンドラへ両手で差し出すリリー。
エリカサンドラはバツが悪そうに「扇を叩き落とすのも上品とは…」と呟きながら扇を受け取った。
「エレノアはどうして無理だと思うの?」
リリーがエレノアの方を向いて言う。エレノアはリリーの弟クリスティンの幼なじみだ。と、言う事はリリーの幼なじみでもある。
「え?あの、だって…クリスが…」
「クリスは確かにローゼに夢中でエレノアを蔑ろにしていると思うわ。でも、それはあくまでもクリスがエレノアを蔑ろにしているのであって、ローゼが何か関係あるのかしら?」
「…だって、この女がクリスを誘惑して…」
「具体的にローゼが何をしたのかしら?」
エレノアは視線をうろうろと彷徨わせている。ローゼが何かをしたエピソードを思い付かないからだ。
「エリカ様も、サフィ様、ドロワ様も、貴女たちのお相手に、ローゼが何をしたのか、考えてみて」
「……」
リリーの言葉に黙って考える令嬢たち。
「私も、マリックがあんまりローゼ、ローゼと言うし、私の事を放っておくから、腹が立って、憎くて…ローゼの持ち物を隠したり、嫌味を言ったりしたし、家から下剤持って来て飲ませようかと思ったりしたんですけど…」
デボラがそう言うと、リリーが
「下剤!?」
と声を上げる。
「実行してませんよ」
デボラは苦笑いすると、話を続ける。
「夏期休暇にひょんな所でローゼと会って話して…マリックに対してローゼから働きかけた事など何一つないし、ローゼはマリックを好きでもないし、まして、自分を好きにさせたいなんて思ってもいないのが分かったんです」
「……でも」
サフィが自分の膝の上に置いた手を握りしめる。
「この人が働きかけた訳ではないのは、その通りかも知れません。でもランドール様が急にピンクを好きになったり、私と話していても上の空だったり、遠目でこの人を眺めている時の表情とか……辛くて…」
「デップマン様…分かるわ…」
隣のドロワが眉を寄せて言う。
「…ただ、私の舞踏会での発言が、事実ではなかった事は…素直に謝罪したいと思います」
「事実ではないと…?」
ドロワがそう聞くと、サフィは頷く。
「我が家に王太子殿下がお見えになって…父に守秘義務違反での異動を告げられた際に説明を受けました」
サイオン殿下が?
ローゼは咄嗟にリリーを見る。リリーはローゼと目が合うと頷いた。
「ええ。そう聞いているわ」
「私も、その件は誤解がないように、とロイズ殿下からお聞きしましたわ」
エリカサンドラも言う。
「だから…」
サフィは立ち上がると、ローゼに向かって頭を下げた。
「自分が辛いからって、貴女の尊厳を傷付ける様な事を言って…誇張された噂になってしまって…本当にごめんなさい」
「え、あの」
ローゼも立ち上がる。
が、サフィに何と言って良いか分からない。
リリーを見ると、ゆっくりと頷く。
リリーに「言いたい事があるなら言いなさいな」と言われた気がして、ローゼは拳を握って声を発した。
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