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「ゲーム?」
「攻略対象者?」
「悪役令嬢?」
サイオン、クレイグ、リリーがそれぞれ言う。
応接室に二つある一人用ソファにサイオンとクレイグ、長ソファの真ん中にローゼ、ローゼの右にリリー、左にデボラが座り、クレイグの執務室から持って来た一人用ソファにイヴァンが座っている。
ローゼは皆の前で自分の前世、この世界へ転生した事、この世界が前世でのゲームの世界である事を話した。
一通り話し終わると、ローゼは「ふう」と息を吐く。
デボラとイヴァンは黙って頷いた。
「…つまり、俺もイヴァンもローゼの言う『ゲームの力』でローゼに惹かれたと?」
サイオンはじっとローゼを見ながら言う。
「そうです」
ローゼは俯きながら頷く。
「『ゲームの力』で…」
ため息混じりに言うサイオンの声にローゼは膝の上に置いた手をきゅっと握る。
ああ…これでサイオン殿下も目が覚めるわ。少なくとも婚約解消はやめてくれる筈。
「じゃあ私もデボラさんもその『悪役令嬢』なの?」
リリーが横からローゼの顔を覗き込む。きょとんとした表情。怒ったり憎んだり呆れたりはしていないようだ。
「…リリー様は悪役令嬢なんかじゃありません。女神さまです」
ローゼが言うと、リリーはふふっと笑う。
「相変わらずねぇローゼは」
「だってリリー様は私に嫌がらせしたり、冷たく当たったりなさらないじゃないですか!?」
「それは、ローゼをよく知っているからじゃないかしら?」
リリーは小首を傾げて言うとローゼの向こうに居るデボラを見る。
「ね。デボラさんもそう思わない?」
「え?」
不意に声を掛けられて戸惑うデボラにリリーは言う。
「デボラさんは悪役令嬢としてローゼに意地悪してたんでしょう?」
「…ええ」
「今はどうかしら?」
「今?」
「今もデボラさんはローゼに意地悪したい?」
「え?いいえ。ローゼとは友達になったので」
デボラが首を振って言うと、ローゼは思わず「と、友達…」と呟く。
「え?友達になったと思ってたんだけど、ローゼ的には違った?」
デボラがそう言うと、ローゼは力一杯首を横に振る。
「ううん!友達!デビィは私のお友達です!」
わ「私の友達」…生まれて初めての…前世で生まれてから、初めての響きだわ。
「つまり、ローゼの人となりを知らないから、ゲームの脚本通りに意地悪するんだと思うの。彼女たちにとってのローゼは『ローゼと云う一人の女の子』じゃなく『ヒロイン』だから」
「ああ…ヒロインと云う記号であって、一人の人間とは認識していない感じですかね?」
「そうそう。そうよ」
「なるほど。そうかも知れません」
デボラは納得したように頷いた。
-----
「コーネリア・バイロンです」
エンジェル家の応接室に入って来たコーネリアは王宮の侍女の制服姿でその場にいる六人に礼を取った。
ローゼの他に「ゲーム」の事を知っている転生人、と言う事でコーネリアを呼んだのだ。
コーネリアが来るまでの間に、イヴァンはクレイグやデボラにコーネリアは自分の偽装恋人でローゼとも親しい事、悪役令嬢の一人である事、サイオンの弟の第二王子ロイズの侍女として王宮に勤めている事を説明していた。
「仕事中だったのか?」
イヴァンがエンジェル家の執事が執務室から持って来たもう一つの一人用ソファへ座るようコーネリアを促しながら聞くと、コーネリアは頷く。
「私がここに座って良いの?」
公爵令嬢で王太子の婚約者が長ソファで、王宮の侍女の自分が一人用ソファに座るのは…と躊躇うコーネリアにサイオンが言う。
「今日は俺もリリーも『ローゼの友人』としてここに来ている。身分は対等だ。やり難い処もあるだろうができるだけ気にしないようにしてくれ」
「…はい」
頷いたコーネリアはそのソファに座る。
「ロイズ殿下が『ローゼが戻ったなら早く行ってやれ』と言って休暇をくださって…」
「ロイズ殿下が…」
ローゼが呟くように言うと、コーネリアは頷く。
「ロイズ殿下もローゼさんが居なくなってとても心配されていたのよ。今日もローゼさんに会いたそうになさっていたわ。でも明日から秋期が始まるし、すぐに学園で姿を見る事ができるだろうからって言われて…」
コーネリアの言葉にサイオンが「はあ…」とため息を吐きながら頭を抱えた。
「サイオン?」
イヴァンがサイオンを見ると、頭を抱えたままサイオンが言う。
「イヴァンは一応ローゼの恋人で、リリーは主人。弟は理性的に会いに来たい気持ちを我慢しているのに、ローゼにとって何者でもない俺がここに居ると云うのは…」
「俺はそういう理性で抑えられない行動を取るサイオンも結構好きだけどなあ」
「そうね。私も殿下のそう云う姿を拝見したの初めてですけど…人間らしくて良いと思います」
イヴァンとリリーが言う。
「それは、それだけ王太子殿下がローゼを好きだって事、ですよね?」
デボラが言うと、サイオンを顔を上げてデボラを見る。
「あ、王太子殿下に不敬な事を…すみません!調子に乗りました!」
背筋を伸ばして慌てて言うデボラに、サイオンはふっと微笑んだ。
「ゲーム?」
「攻略対象者?」
「悪役令嬢?」
サイオン、クレイグ、リリーがそれぞれ言う。
応接室に二つある一人用ソファにサイオンとクレイグ、長ソファの真ん中にローゼ、ローゼの右にリリー、左にデボラが座り、クレイグの執務室から持って来た一人用ソファにイヴァンが座っている。
ローゼは皆の前で自分の前世、この世界へ転生した事、この世界が前世でのゲームの世界である事を話した。
一通り話し終わると、ローゼは「ふう」と息を吐く。
デボラとイヴァンは黙って頷いた。
「…つまり、俺もイヴァンもローゼの言う『ゲームの力』でローゼに惹かれたと?」
サイオンはじっとローゼを見ながら言う。
「そうです」
ローゼは俯きながら頷く。
「『ゲームの力』で…」
ため息混じりに言うサイオンの声にローゼは膝の上に置いた手をきゅっと握る。
ああ…これでサイオン殿下も目が覚めるわ。少なくとも婚約解消はやめてくれる筈。
「じゃあ私もデボラさんもその『悪役令嬢』なの?」
リリーが横からローゼの顔を覗き込む。きょとんとした表情。怒ったり憎んだり呆れたりはしていないようだ。
「…リリー様は悪役令嬢なんかじゃありません。女神さまです」
ローゼが言うと、リリーはふふっと笑う。
「相変わらずねぇローゼは」
「だってリリー様は私に嫌がらせしたり、冷たく当たったりなさらないじゃないですか!?」
「それは、ローゼをよく知っているからじゃないかしら?」
リリーは小首を傾げて言うとローゼの向こうに居るデボラを見る。
「ね。デボラさんもそう思わない?」
「え?」
不意に声を掛けられて戸惑うデボラにリリーは言う。
「デボラさんは悪役令嬢としてローゼに意地悪してたんでしょう?」
「…ええ」
「今はどうかしら?」
「今?」
「今もデボラさんはローゼに意地悪したい?」
「え?いいえ。ローゼとは友達になったので」
デボラが首を振って言うと、ローゼは思わず「と、友達…」と呟く。
「え?友達になったと思ってたんだけど、ローゼ的には違った?」
デボラがそう言うと、ローゼは力一杯首を横に振る。
「ううん!友達!デビィは私のお友達です!」
わ「私の友達」…生まれて初めての…前世で生まれてから、初めての響きだわ。
「つまり、ローゼの人となりを知らないから、ゲームの脚本通りに意地悪するんだと思うの。彼女たちにとってのローゼは『ローゼと云う一人の女の子』じゃなく『ヒロイン』だから」
「ああ…ヒロインと云う記号であって、一人の人間とは認識していない感じですかね?」
「そうそう。そうよ」
「なるほど。そうかも知れません」
デボラは納得したように頷いた。
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「コーネリア・バイロンです」
エンジェル家の応接室に入って来たコーネリアは王宮の侍女の制服姿でその場にいる六人に礼を取った。
ローゼの他に「ゲーム」の事を知っている転生人、と言う事でコーネリアを呼んだのだ。
コーネリアが来るまでの間に、イヴァンはクレイグやデボラにコーネリアは自分の偽装恋人でローゼとも親しい事、悪役令嬢の一人である事、サイオンの弟の第二王子ロイズの侍女として王宮に勤めている事を説明していた。
「仕事中だったのか?」
イヴァンがエンジェル家の執事が執務室から持って来たもう一つの一人用ソファへ座るようコーネリアを促しながら聞くと、コーネリアは頷く。
「私がここに座って良いの?」
公爵令嬢で王太子の婚約者が長ソファで、王宮の侍女の自分が一人用ソファに座るのは…と躊躇うコーネリアにサイオンが言う。
「今日は俺もリリーも『ローゼの友人』としてここに来ている。身分は対等だ。やり難い処もあるだろうができるだけ気にしないようにしてくれ」
「…はい」
頷いたコーネリアはそのソファに座る。
「ロイズ殿下が『ローゼが戻ったなら早く行ってやれ』と言って休暇をくださって…」
「ロイズ殿下が…」
ローゼが呟くように言うと、コーネリアは頷く。
「ロイズ殿下もローゼさんが居なくなってとても心配されていたのよ。今日もローゼさんに会いたそうになさっていたわ。でも明日から秋期が始まるし、すぐに学園で姿を見る事ができるだろうからって言われて…」
コーネリアの言葉にサイオンが「はあ…」とため息を吐きながら頭を抱えた。
「サイオン?」
イヴァンがサイオンを見ると、頭を抱えたままサイオンが言う。
「イヴァンは一応ローゼの恋人で、リリーは主人。弟は理性的に会いに来たい気持ちを我慢しているのに、ローゼにとって何者でもない俺がここに居ると云うのは…」
「俺はそういう理性で抑えられない行動を取るサイオンも結構好きだけどなあ」
「そうね。私も殿下のそう云う姿を拝見したの初めてですけど…人間らしくて良いと思います」
イヴァンとリリーが言う。
「それは、それだけ王太子殿下がローゼを好きだって事、ですよね?」
デボラが言うと、サイオンを顔を上げてデボラを見る。
「あ、王太子殿下に不敬な事を…すみません!調子に乗りました!」
背筋を伸ばして慌てて言うデボラに、サイオンはふっと微笑んだ。
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