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「いやああああ」
と叫んだアメリアは、芝生の上に座り込み頭を押さえている。
「アメリア!?」
シドニーが部屋を飛び出して行く。
「アメリア様!」
お仕着せの女性がアメリアに取り縋る。
ローゼは二階の窓から呆然とアメリアを眺めていた。
「あそこ!あそこに亡霊が!」
アメリアが片手で頭を押さえて、もう片方の手でローゼのいる窓を指差す。
咄嗟にその場にしゃがみ、ローゼは身を隠した。
「アメリア様何も見えませんよ?」
お仕着せの女性が言うと、アメリアは
「いいえ!ピンクの髪の女の子がいたわ!あれは私を恨んでいるのよ!私を呪いに来たんだわ!」
と叫ぶ。
お母様にとっての「ピンク髪の女の子」は…私は自分を呪う存在なんだ…
窓際でしゃがみ込んだまま、ローゼはブルブルと震える自分の肩を抱いた。
暫く経ち、シドニーがローゼのいた部屋の扉を開ける。
「ローゼ、済まなかったな。もうアメリアも落ち着いて…」
その部屋に、ローゼの姿はなかった。
-----
母のいる家に留まる事ができなくて、洗ってもらった少年姿の服に着替え、屋敷を出たローゼは少ない荷物を持って、馬車が行き交う道を歩いていた。
来た方向とは違う道を進んでいたらしく、上り坂を登り切ると昨日屋敷に向かって歩いた道からは見えなかった湖が見えた。
「あの湖…」
お母様が…
やっぱり私って、前世でも、生まれ変わっても、誰からも愛されない存在なんだなあ。
むしろ、私が生まれたせいでお母様もお兄様も不幸になったんじゃない?
「私が…いなければ…」
負のオーラと言うか、そういう物がきっと私には染み付いてるんだ。
私じゃなければ、他の、どこかの誰かがローゼとして生まれて来て、でもきっと私とは違ってあんな事件も起こらず、両親と兄に愛されて育った明るく素直で純真なヒロインのままゲームが始まって、攻略対象者と惹かれ合い、悪役令嬢に苛められながらも楽しく恋をして、誰かを選んで結ばれていた。
ぐるぐると考えながら歩いていたら、どのくらい時間が経ったのか、すぐ目の前に迫った湖に夕暮れのオレンジの太陽の光が反射していた。
「海みたい…キレイ…」
そんなに大きな湖ではないが、向こう岸まではかなりある。マーシャル公爵家の領地で見た、海に沈む夕陽に似ているとローゼは思った。
ヒロインに生まれたのが私じゃなくても、ヒロインが王太子殿下を攻略すればリリー様が婚約破棄される事には変わりないけど…
ううん。ヒロインが私じゃないなら、ヒロインは公爵家に行事見習いになんて行かないし、婚約破棄からの展開に加えて、飼い犬に手を噛まれるような思いを上乗せする事はなかったわ。
サイオン殿下が私じゃないヒロインに攻略される…か。
ローゼはサイオンに口付けられた自分の手の甲を見る。
あの口付けも、私を見つめる青紫の瞳も、「ローゼというヒロイン」へ向けたもので、私へ向けられた物じゃないのに…わかっているのに、そう思うと胸が苦しい。
私がもし、ここでいなくなったら、ゲームはどうなるのかな?
道を外れて、ふらふらと草むらを歩き、湖に近付く。
さっきまでオレンジに光っていた水面に、青や紺色が混ざってキラキラと光っている。
前世で、最期に見た、景色に似てる。
…もしも、この湖に身を投げて、死んでしまえば、ゲームの力は失くなる?
ゲームの力がなくなれば、サイオン殿下とリリー様の婚約解消もなくなって、攻略対象者もヒロインを好きではなくなって、元々の婚約者や恋人と元の仲に戻れるのかな?
お兄様も、厄介な妹が居なくなって、結婚して幸せになれる…?
ローゼは暗くなり始めた湖畔に立ち竦んだ。
「いやああああ」
と叫んだアメリアは、芝生の上に座り込み頭を押さえている。
「アメリア!?」
シドニーが部屋を飛び出して行く。
「アメリア様!」
お仕着せの女性がアメリアに取り縋る。
ローゼは二階の窓から呆然とアメリアを眺めていた。
「あそこ!あそこに亡霊が!」
アメリアが片手で頭を押さえて、もう片方の手でローゼのいる窓を指差す。
咄嗟にその場にしゃがみ、ローゼは身を隠した。
「アメリア様何も見えませんよ?」
お仕着せの女性が言うと、アメリアは
「いいえ!ピンクの髪の女の子がいたわ!あれは私を恨んでいるのよ!私を呪いに来たんだわ!」
と叫ぶ。
お母様にとっての「ピンク髪の女の子」は…私は自分を呪う存在なんだ…
窓際でしゃがみ込んだまま、ローゼはブルブルと震える自分の肩を抱いた。
暫く経ち、シドニーがローゼのいた部屋の扉を開ける。
「ローゼ、済まなかったな。もうアメリアも落ち着いて…」
その部屋に、ローゼの姿はなかった。
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母のいる家に留まる事ができなくて、洗ってもらった少年姿の服に着替え、屋敷を出たローゼは少ない荷物を持って、馬車が行き交う道を歩いていた。
来た方向とは違う道を進んでいたらしく、上り坂を登り切ると昨日屋敷に向かって歩いた道からは見えなかった湖が見えた。
「あの湖…」
お母様が…
やっぱり私って、前世でも、生まれ変わっても、誰からも愛されない存在なんだなあ。
むしろ、私が生まれたせいでお母様もお兄様も不幸になったんじゃない?
「私が…いなければ…」
負のオーラと言うか、そういう物がきっと私には染み付いてるんだ。
私じゃなければ、他の、どこかの誰かがローゼとして生まれて来て、でもきっと私とは違ってあんな事件も起こらず、両親と兄に愛されて育った明るく素直で純真なヒロインのままゲームが始まって、攻略対象者と惹かれ合い、悪役令嬢に苛められながらも楽しく恋をして、誰かを選んで結ばれていた。
ぐるぐると考えながら歩いていたら、どのくらい時間が経ったのか、すぐ目の前に迫った湖に夕暮れのオレンジの太陽の光が反射していた。
「海みたい…キレイ…」
そんなに大きな湖ではないが、向こう岸まではかなりある。マーシャル公爵家の領地で見た、海に沈む夕陽に似ているとローゼは思った。
ヒロインに生まれたのが私じゃなくても、ヒロインが王太子殿下を攻略すればリリー様が婚約破棄される事には変わりないけど…
ううん。ヒロインが私じゃないなら、ヒロインは公爵家に行事見習いになんて行かないし、婚約破棄からの展開に加えて、飼い犬に手を噛まれるような思いを上乗せする事はなかったわ。
サイオン殿下が私じゃないヒロインに攻略される…か。
ローゼはサイオンに口付けられた自分の手の甲を見る。
あの口付けも、私を見つめる青紫の瞳も、「ローゼというヒロイン」へ向けたもので、私へ向けられた物じゃないのに…わかっているのに、そう思うと胸が苦しい。
私がもし、ここでいなくなったら、ゲームはどうなるのかな?
道を外れて、ふらふらと草むらを歩き、湖に近付く。
さっきまでオレンジに光っていた水面に、青や紺色が混ざってキラキラと光っている。
前世で、最期に見た、景色に似てる。
…もしも、この湖に身を投げて、死んでしまえば、ゲームの力は失くなる?
ゲームの力がなくなれば、サイオン殿下とリリー様の婚約解消もなくなって、攻略対象者もヒロインを好きではなくなって、元々の婚約者や恋人と元の仲に戻れるのかな?
お兄様も、厄介な妹が居なくなって、結婚して幸せになれる…?
ローゼは暗くなり始めた湖畔に立ち竦んだ。
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