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 教員の控室でイヴァンが机に向かっていて、その斜め後ろの椅子にローゼが座っている。生徒指導をしているように見せ掛ける、最近の二人の定位置だ。
「え?ローゼ、舞踏会出ないのか?」
「はい」
「何故?俺ローゼをエスコートしようと思って楽しみにしてたのに」
「ええっ!先生…生徒をエスカレートするつもりだったんですか?いくらお付き合いしてる設定でも有り得ませんよ」
「ええ~」
「ええ~じゃないです。百歩譲っても有り得るとしたら私の卒業パーティーぐらいですね」
「大分先だなぁ」
 つまらなそうに呟くイヴァンにローゼは苦笑いする。
 その頃にはとっくにゲームも終わってるし、お付き合いの振りも終わってるだろうけど。
「舞踏会なんて、攻略対象者や悪役令嬢とトラブルになる予想しかできないですもん。回避が一番です」
「でも嫌がらせとか減ったんだろ?」
「はい。全盛期の三分の一ですね」
「ゼロにはならないか」
「まあ…」
 ローゼとイヴァンが密かにお付き合いをしていると噂をが流れて、他の攻略対象者が諦めたのかと言えばそうではない。イヴァンにわからないように隠れてローゼを口説いている。
 むしろどうにか二人きりになろうとして来てローゼも躱すのが大変なのだ。
 悪役令嬢たちも、自分の相手の気持ちが戻って来た訳ではないので、嫌がらせも完全にはなくならない。
「じゃあ舞踏会の間一緒にいようか?」
「大丈夫です。そのまま夏期休暇だし、リリー様たちより一足先にマーシャル家に帰りますから」
「夏期休暇になったら会えなくなっちゃうな。マーシャル家にはクリスティンがいるし、迫られないか心配だ」
「…頑張って逃げます」
 イヴァンはローゼを見ながら微笑む。
「何かあったら俺の所に来なよ。学園ここフラットいえにいるから」
「ははは。ありがとうございます…」
 クリスティンも実力行使するほど馬鹿ではないとは思うけど。
 苦笑いするローゼを見ながら、心の中でイヴァンは呟いた。

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「ローゼはどこだ?」
「ローゼはいないのか?」
「ダンスに誘おうと思っていたのに…」
「俺こそファーストダンスを申し込もうと思っていたのに」
「ファーストダンスは俺とだ」
「いや俺ですよ」
 生徒会長ランドールが壇上で舞踏会の開会の挨拶をしている間、舞台の脇に並んだ役員ルーク、クリスティン、マリックが小声でそんなやり取りとしている。
 役員たちから少し離れた所に立つイヴァンに、ロイズがさり気なく近付いて来た。
「…ローゼを隠したのか?」
「人聞きの悪い事を。彼女自身の意思ですよ」
 互いに小声で言う。
「ローゼの、意思か…」

 舞台の影にはゲストのサイオンと、婚約者のリリー。
 サイオンもさり気なく会場内に視線を巡らせているのがイヴァンには分かる。
 
 ダンスが始まり、イヴァンは教師として会場内の担当箇所を見て回る。
 すると、舞台の近くにいた時、講堂の入口の方向から人が騒いでいる声が聞こえて来た。
 女性の声?
 イヴァンのいる舞台の近くから、講堂の入口はかなり遠い。音楽も流れ人々がさざめく会場でこれだけ声が聞こえるとは。
 講堂の入口へ行こうとすると、遠くに見える人集りの隙間からピンクの髪の毛が見えた。
 え?ローゼ?
 いや、誰かのドレスの色かも…
 早足で入口へ近付こうとするイヴァンの耳に女性の金切り声が飛び込んで来た。
「何よそんな格好で!目立って男の目を引き付ける作戦!?」
「……す」
 対する相手の声はよく聞こえない。
 でも、ローゼの声のような…
「貴女っていつもそうよね!私はそんなつもりじゃありません~ってかわいこぶって!そうやって『可哀想な私』を慰めてもらうのが快感なんでしょう?」
「そうよ。そうやっていつも私たちを悪者に仕立てて!」
「…がい……」
「何が違うのよ!」
「先生と付き合ってるなら他の男に色目を使うのやめなさいよね!」
「色目なんて使ってません」
 近付くにつれ、声がハッキリと聞こえる。
 やはりローゼと、エリカサンドラ、ドロワ、サフィ、エレノア、デボラの五人か。
「色目を使ってる自覚がないのは無意識だからでしょ?」
 ランドールの婚約者サフィが口元を扇で隠して口角を上げる。
「…さすが、実の父親まで籠絡するだけあるわね」

 ザワッ
 サフィの言葉に、会場は騒めき、そして静まり返った。


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