8 / 83
7
しおりを挟む
7
「ロイズ殿下があからさまに落ち込んでおられるの、きっと貴女のせいよねぇ?ローゼ様?」
ローゼの目の前で、扇で口元を隠し流し目でローゼを睨んでいる令嬢はロイズの婚約者のエリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢だ。
「…は…?」
放課後、学園の校舎の屋上へ出る扉の前で、ローゼはエリカサンドラとその取り巻きたちに囲まれていた。
「何だか殿下は『ローゼを怖がらせてしまった』と言われてるらしいけれど、貴女みたいな図太い神経の方が何を怖がるのかしら?」
「…私には何も心当たりはありません」
ああ、この間のお休みにリリー様に癒されておいて本当に良かった。HP回復したから耐えられるわよ。ね、ローゼ。
「何よその言い方!ロイズ殿下や他の生徒会の方々にちやほやされるからっていい気にならないで!」
いい気になんてなってない。むしろ好かれたって嫌な気しかしないのに…
ローゼは唇を噛んだ。
「殿下が私に舞踏会にドレスを贈ると言われないのも、貴女の差し金でしょう?」
「…ドレス?」
「とぼけないで。今まで殿下は舞踏会と卒業パーティーに私にドレスを贈ってくださっていたの。なのに今回はまだ何も言われないなんて…」
エリカサンドラはキッとローゼを睨んだ。
学園では、春期の終わりには夏季休暇に入る前の舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となるのだ。
舞踏会まであと一カ月、確かにドレスをオーダーするにはもう時期が遅い。
「貴女が殿下に今度から私にドレスを贈ってくださいだとか、私に意地悪するエリカ様にドレスなんて贈る事ないですとか言ってるんでしょう!?」
「私は何も…」
「嘘おっしゃい!」
エリカサンドラは手に持っていた扇をローゼに投げ付ける。
「痛っ」
骨の部分がローゼの頬に当たった。
「ロイズ殿下の婚約者は私なんだから!殿下が貴女に構うのはほんの気の迷いよ!くれぐれもいい気にならない事ね!」
エリカサンドラは叫ぶ様にそう言うと、踵を返し階段を降りて行く。取り巻きも口々にローゼに文句を言いながらエリカサンドラに着いて階段を降りる。取り巻きの一人がローゼの足元に落ちた扇を拾って後に続いた。
「はあ…」
完全に人気がなくなったのを確認してから、ローゼは息を吐きながら階段を降りる。
あのゲームのヒロインに私みたいな過去があるなんて設定なかったんだけどなぁ。
少しでも嫌がらせを減らすために誰かのルートに入ってしまった方が良いのかも。
…でも誰の?
生まれてこの方異性を好きになった事もないし、攻略対象者の誰を選んでもその婚約者たちの誰かを泣かせるんだし。
それにゲームの力で私を好きになってるの、わかってるといくら好意を示されても虚しいし。
階段を降りて、鞄を置いていた教室へ入ると、ローゼの机の上にある破れた教科書が目に入る。
「はは。またあ?」
ローゼは苦笑いを浮かべる。
口角の上がった口元が震えて、涙が落ちた。
「…もう、やだ」
ローゼはその場にしゃがみ込んだ。
-----
「ローゼさん」
しゃがみ込んで自分の膝に顔を埋めたローゼを呼ぶ声が後ろからする。イヴァンの声。
「…何ですか?」
「嫌がらせ、やめさせましょうか?」
「え?」
ローゼは顔を上げて振り向く。
イヴァンがニコニコしながら少し離れた所に立っていた。
「ローゼさんは真後ろ、特に至近距離から声を掛けられるの、苦手ですよね?」
「…あまり得意な人はいないと思いますけど?」
「ははは。確かにそうですね」
イヴァンが近付いて来て、ローゼに手を差し出す。
「嫌がらせをやめさせるって、どうやってですか?」
ローゼはイヴァンの手をじっと見つめる。
この手を取って良いのだろうか。
「簡単ですよ」
「簡単?」
「私の…イヴァン・ニューマンのルートに入ってください」
イヴァンはニッコリと笑って言った。
「ロイズ殿下があからさまに落ち込んでおられるの、きっと貴女のせいよねぇ?ローゼ様?」
ローゼの目の前で、扇で口元を隠し流し目でローゼを睨んでいる令嬢はロイズの婚約者のエリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢だ。
「…は…?」
放課後、学園の校舎の屋上へ出る扉の前で、ローゼはエリカサンドラとその取り巻きたちに囲まれていた。
「何だか殿下は『ローゼを怖がらせてしまった』と言われてるらしいけれど、貴女みたいな図太い神経の方が何を怖がるのかしら?」
「…私には何も心当たりはありません」
ああ、この間のお休みにリリー様に癒されておいて本当に良かった。HP回復したから耐えられるわよ。ね、ローゼ。
「何よその言い方!ロイズ殿下や他の生徒会の方々にちやほやされるからっていい気にならないで!」
いい気になんてなってない。むしろ好かれたって嫌な気しかしないのに…
ローゼは唇を噛んだ。
「殿下が私に舞踏会にドレスを贈ると言われないのも、貴女の差し金でしょう?」
「…ドレス?」
「とぼけないで。今まで殿下は舞踏会と卒業パーティーに私にドレスを贈ってくださっていたの。なのに今回はまだ何も言われないなんて…」
エリカサンドラはキッとローゼを睨んだ。
学園では、春期の終わりには夏季休暇に入る前の舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となるのだ。
舞踏会まであと一カ月、確かにドレスをオーダーするにはもう時期が遅い。
「貴女が殿下に今度から私にドレスを贈ってくださいだとか、私に意地悪するエリカ様にドレスなんて贈る事ないですとか言ってるんでしょう!?」
「私は何も…」
「嘘おっしゃい!」
エリカサンドラは手に持っていた扇をローゼに投げ付ける。
「痛っ」
骨の部分がローゼの頬に当たった。
「ロイズ殿下の婚約者は私なんだから!殿下が貴女に構うのはほんの気の迷いよ!くれぐれもいい気にならない事ね!」
エリカサンドラは叫ぶ様にそう言うと、踵を返し階段を降りて行く。取り巻きも口々にローゼに文句を言いながらエリカサンドラに着いて階段を降りる。取り巻きの一人がローゼの足元に落ちた扇を拾って後に続いた。
「はあ…」
完全に人気がなくなったのを確認してから、ローゼは息を吐きながら階段を降りる。
あのゲームのヒロインに私みたいな過去があるなんて設定なかったんだけどなぁ。
少しでも嫌がらせを減らすために誰かのルートに入ってしまった方が良いのかも。
…でも誰の?
生まれてこの方異性を好きになった事もないし、攻略対象者の誰を選んでもその婚約者たちの誰かを泣かせるんだし。
それにゲームの力で私を好きになってるの、わかってるといくら好意を示されても虚しいし。
階段を降りて、鞄を置いていた教室へ入ると、ローゼの机の上にある破れた教科書が目に入る。
「はは。またあ?」
ローゼは苦笑いを浮かべる。
口角の上がった口元が震えて、涙が落ちた。
「…もう、やだ」
ローゼはその場にしゃがみ込んだ。
-----
「ローゼさん」
しゃがみ込んで自分の膝に顔を埋めたローゼを呼ぶ声が後ろからする。イヴァンの声。
「…何ですか?」
「嫌がらせ、やめさせましょうか?」
「え?」
ローゼは顔を上げて振り向く。
イヴァンがニコニコしながら少し離れた所に立っていた。
「ローゼさんは真後ろ、特に至近距離から声を掛けられるの、苦手ですよね?」
「…あまり得意な人はいないと思いますけど?」
「ははは。確かにそうですね」
イヴァンが近付いて来て、ローゼに手を差し出す。
「嫌がらせをやめさせるって、どうやってですか?」
ローゼはイヴァンの手をじっと見つめる。
この手を取って良いのだろうか。
「簡単ですよ」
「簡単?」
「私の…イヴァン・ニューマンのルートに入ってください」
イヴァンはニッコリと笑って言った。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる