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サイオン・ルーセントは二十四歳、この国の王太子だ。婚約者はローゼの主人リリー・マーシャル公爵令嬢。
中性的で美しい顔立ち、背は高く、均整の取れたスタイルの美青年だ。
…凄い。王太子のオーラ凄い。
画面で見るより…何か本人が発光してるみたいに見える。
ローゼの前に立つサイオンのオーラに、ローゼは声を発する事もできなかった。
「そのピンクの髪…イヴァンが連れて来ると言っていたエンジェル男爵家の娘か」
髪と同じ青味が強い紫の瞳がローゼを捉える。
どうしよう。目が…逸らせない。
声も出せないのでローゼは小さく頷く。
「名は?」
「ロ…ローゼ・エンジェルと…申します…」
ようやく声を絞り出す。
「ローゼか。ローゼ嬢はリリーの侍女だったか?」
リリー様!
リリーの名前を聞いて、ハッとしたローゼはようやくサイオンから視線を逸らした。
「は、はい」
「イヴァンたちも見学し終わったら私の部屋へ来る事になっているんだ。先に行っていよう」
「え?」
「ついておいで」
サイオンはローゼに優しく微笑み掛けると、渡り廊下を歩き出す。
ローゼも動悸の激しい胸を押さえながらサイオンに着いて歩き出した。
-----
「ローゼ!」
サイオンの部屋の応接室に入ると、リリーがソファに座っていた。
「リリー様!」
「クリスたちが王城の見学に行くとは聞いていたけど、ローゼも一緒だったの?」
「そうなんです」
「ローゼ嬢、座ると良い」
リリーの向かい側に座りながらサイオンが言う。
「でも…」
「あら、ローゼは今日はお客様よ?」
「…はい」
おずおずとリリーの隣に座る。すると王宮の侍女がローゼの前に紅茶を置いてくれた。
リリー様の隣に一緒に座るだなんて…
「ローゼは王宮に来るのは初めてよね?」
「はい」
紅茶を口にするが緊張で味はよくわからない。
リリーが王宮を訪れる時は筆頭侍女のベティを連れて行くのだ。将来サイオンと結婚した後にもリリーはベティを伴って王宮に上がる予定になっている。
「ローゼ嬢、兄上はお元気かい?」
サイオンがローゼを見ながら言う。
「あ、はい。元気…です」
昨年のクリスマス以来会っていないけど、お手紙では元気そうだものね。
ローゼより十二歳上の兄クレイグは、ローゼが物心ついた頃にはもう学園に入り寮生活をしていたし、ローゼが八歳、クレイグが二十歳の時にはローゼはマーシャル公爵家へ行儀見習いに出たのでほぼ一緒に暮らした事はない。
クレイグは男爵位を継いでいるが、二十七歳になった今も独身だ。
「サイオン殿下はローゼのお兄様をご存知なの?」
リリーが小首を傾げて問う。
あああ、リリー様かわいい。婚約者様の前だからか、いつもより五割増でかわいいわ!
「ああ。クレイグ殿は私が学園に入った年の生徒会書記で、女生徒に大変な人気だったんだ」
「サイオン殿下よりも?」
「私とは系統が違うから何とも」
サイオンが苦笑いしながら答える。
サイオンの高貴さと美しさは恋慕より憧憬や敬愛の対象だが、クレイグは男爵令息で親しみやすく、見目も良い上に癒し系の穏やかな性格で、言わばアイドル的な人気があったのだ。
「サイオン!ローゼさんを独り占めするなんて狡いぞ」
そう言いながらイヴァンが部屋に入って来る。
王太子の部屋にこんな入り方ができるなんて、本当にニューマン先生とサイオン殿下は仲が良いのね。
「兄上」
「失礼いたします」
イヴァンの後ろからロイズと、生徒会役員が一人一人礼をしながら入って来た。
「イヴァン、俺は独り占めなんてしていないぞ」
「あ、リリー様がいらっしゃったんですね。じゃあサイオン、両手に花でもっと罪が重いぞ」
「おっと。そう来たか」
くすくすと笑うサイオンとイヴァン。
サイオン殿下ってニューマン先生と話す時は一人称が「俺」なのね。リリー様と二人きりの時もそうなのかな?
侍従が人数分の椅子を運んで来て全員でお茶を飲む。
…サイオン殿下は私に特別な興味や好意があるようには見えないわ。さすが王太子、ゲームの影響なんてないのね。
ローゼは紅茶を飲みながら楽しそうなサイオンとリリーを眺めた。
サイオン・ルーセントは二十四歳、この国の王太子だ。婚約者はローゼの主人リリー・マーシャル公爵令嬢。
中性的で美しい顔立ち、背は高く、均整の取れたスタイルの美青年だ。
…凄い。王太子のオーラ凄い。
画面で見るより…何か本人が発光してるみたいに見える。
ローゼの前に立つサイオンのオーラに、ローゼは声を発する事もできなかった。
「そのピンクの髪…イヴァンが連れて来ると言っていたエンジェル男爵家の娘か」
髪と同じ青味が強い紫の瞳がローゼを捉える。
どうしよう。目が…逸らせない。
声も出せないのでローゼは小さく頷く。
「名は?」
「ロ…ローゼ・エンジェルと…申します…」
ようやく声を絞り出す。
「ローゼか。ローゼ嬢はリリーの侍女だったか?」
リリー様!
リリーの名前を聞いて、ハッとしたローゼはようやくサイオンから視線を逸らした。
「は、はい」
「イヴァンたちも見学し終わったら私の部屋へ来る事になっているんだ。先に行っていよう」
「え?」
「ついておいで」
サイオンはローゼに優しく微笑み掛けると、渡り廊下を歩き出す。
ローゼも動悸の激しい胸を押さえながらサイオンに着いて歩き出した。
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「ローゼ!」
サイオンの部屋の応接室に入ると、リリーがソファに座っていた。
「リリー様!」
「クリスたちが王城の見学に行くとは聞いていたけど、ローゼも一緒だったの?」
「そうなんです」
「ローゼ嬢、座ると良い」
リリーの向かい側に座りながらサイオンが言う。
「でも…」
「あら、ローゼは今日はお客様よ?」
「…はい」
おずおずとリリーの隣に座る。すると王宮の侍女がローゼの前に紅茶を置いてくれた。
リリー様の隣に一緒に座るだなんて…
「ローゼは王宮に来るのは初めてよね?」
「はい」
紅茶を口にするが緊張で味はよくわからない。
リリーが王宮を訪れる時は筆頭侍女のベティを連れて行くのだ。将来サイオンと結婚した後にもリリーはベティを伴って王宮に上がる予定になっている。
「ローゼ嬢、兄上はお元気かい?」
サイオンがローゼを見ながら言う。
「あ、はい。元気…です」
昨年のクリスマス以来会っていないけど、お手紙では元気そうだものね。
ローゼより十二歳上の兄クレイグは、ローゼが物心ついた頃にはもう学園に入り寮生活をしていたし、ローゼが八歳、クレイグが二十歳の時にはローゼはマーシャル公爵家へ行儀見習いに出たのでほぼ一緒に暮らした事はない。
クレイグは男爵位を継いでいるが、二十七歳になった今も独身だ。
「サイオン殿下はローゼのお兄様をご存知なの?」
リリーが小首を傾げて問う。
あああ、リリー様かわいい。婚約者様の前だからか、いつもより五割増でかわいいわ!
「ああ。クレイグ殿は私が学園に入った年の生徒会書記で、女生徒に大変な人気だったんだ」
「サイオン殿下よりも?」
「私とは系統が違うから何とも」
サイオンが苦笑いしながら答える。
サイオンの高貴さと美しさは恋慕より憧憬や敬愛の対象だが、クレイグは男爵令息で親しみやすく、見目も良い上に癒し系の穏やかな性格で、言わばアイドル的な人気があったのだ。
「サイオン!ローゼさんを独り占めするなんて狡いぞ」
そう言いながらイヴァンが部屋に入って来る。
王太子の部屋にこんな入り方ができるなんて、本当にニューマン先生とサイオン殿下は仲が良いのね。
「兄上」
「失礼いたします」
イヴァンの後ろからロイズと、生徒会役員が一人一人礼をしながら入って来た。
「イヴァン、俺は独り占めなんてしていないぞ」
「あ、リリー様がいらっしゃったんですね。じゃあサイオン、両手に花でもっと罪が重いぞ」
「おっと。そう来たか」
くすくすと笑うサイオンとイヴァン。
サイオン殿下ってニューマン先生と話す時は一人称が「俺」なのね。リリー様と二人きりの時もそうなのかな?
侍従が人数分の椅子を運んで来て全員でお茶を飲む。
…サイオン殿下は私に特別な興味や好意があるようには見えないわ。さすが王太子、ゲームの影響なんてないのね。
ローゼは紅茶を飲みながら楽しそうなサイオンとリリーを眺めた。
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