上 下
5 / 83

4

しおりを挟む
4

 サイオン・ルーセントは二十四歳、この国の王太子だ。婚約者はローゼの主人リリー・マーシャル公爵令嬢。
 中性的で美しい顔立ち、背は高く、均整の取れたスタイルの美青年だ。
 …凄い。王太子のオーラ凄い。
 画面で見るより…何か本人が発光してるみたいに見える。
 ローゼの前に立つサイオンのオーラに、ローゼは声を発する事もできなかった。

「そのピンクの髪…イヴァンが連れて来ると言っていたエンジェル男爵家の娘か」
 髪と同じ青味が強い紫の瞳がローゼを捉える。
 どうしよう。目が…逸らせない。
 声も出せないのでローゼは小さく頷く。
「名は?」
「ロ…ローゼ・エンジェルと…申します…」
 ようやく声を絞り出す。
「ローゼか。ローゼ嬢はリリーの侍女だったか?」
 リリー様!
 リリーの名前を聞いて、ハッとしたローゼはようやくサイオンから視線を逸らした。
「は、はい」
「イヴァンたちも見学し終わったら私の部屋へ来る事になっているんだ。先に行っていよう」
「え?」
「ついておいで」
 サイオンはローゼに優しく微笑み掛けると、渡り廊下を歩き出す。
 ローゼも動悸の激しい胸を押さえながらサイオンに着いて歩き出した。

-----

「ローゼ!」
 サイオンの部屋の応接室に入ると、リリーがソファに座っていた。
「リリー様!」
「クリスたちが王城の見学に行くとは聞いていたけど、ローゼも一緒だったの?」
「そうなんです」
「ローゼ嬢、座ると良い」
 リリーの向かい側に座りながらサイオンが言う。
「でも…」
「あら、ローゼは今日はお客様よ?」
「…はい」
 おずおずとリリーの隣に座る。すると王宮の侍女がローゼの前に紅茶を置いてくれた。
 リリー様の隣に一緒に座るだなんて…
「ローゼは王宮に来るのは初めてよね?」
「はい」
 紅茶を口にするが緊張で味はよくわからない。
 リリーが王宮を訪れる時は筆頭侍女のベティを連れて行くのだ。将来サイオンと結婚した後にもリリーはベティを伴って王宮に上がる予定になっている。
「ローゼ嬢、兄上はお元気かい?」
 サイオンがローゼを見ながら言う。
「あ、はい。元気…です」
 昨年のクリスマス以来会っていないけど、お手紙では元気そうだものね。
 ローゼより十二歳上の兄クレイグは、ローゼが物心ついた頃にはもう学園に入り寮生活をしていたし、ローゼが八歳、クレイグが二十歳の時にはローゼはマーシャル公爵家へ行儀見習いに出たのでほぼ一緒に暮らした事はない。
 クレイグは男爵位を継いでいるが、二十七歳になった今も独身だ。

「サイオン殿下はローゼのお兄様をご存知なの?」
 リリーが小首を傾げて問う。
 あああ、リリー様かわいい。婚約者様の前だからか、いつもより五割増でかわいいわ!
「ああ。クレイグ殿は私が学園に入った年の生徒会書記で、女生徒に大変な人気だったんだ」
「サイオン殿下よりも?」
「私とは系統が違うから何とも」
 サイオンが苦笑いしながら答える。
 サイオンの高貴さと美しさは恋慕より憧憬や敬愛の対象だが、クレイグは男爵令息で親しみやすく、見目も良い上に癒し系の穏やかな性格で、言わばアイドル的な人気があったのだ。

「サイオン!ローゼさんを独り占めするなんて狡いぞ」
 そう言いながらイヴァンが部屋に入って来る。
 王太子の部屋にこんな入り方ができるなんて、本当にニューマン先生とサイオン殿下は仲が良いのね。
「兄上」
「失礼いたします」
 イヴァンの後ろからロイズと、生徒会役員が一人一人礼をしながら入って来た。
「イヴァン、俺は独り占めなんてしていないぞ」
「あ、リリー様がいらっしゃったんですね。じゃあサイオン、両手に花でもっと罪が重いぞ」
「おっと。そう来たか」
 くすくすと笑うサイオンとイヴァン。
 サイオン殿下ってニューマン先生と話す時は一人称が「俺」なのね。リリー様と二人きりの時もそうなのかな?

 侍従が人数分の椅子を運んで来て全員でお茶を飲む。

 …サイオン殿下は私に特別な興味や好意があるようには見えないわ。さすが王太子、ゲームの影響なんてないのね。
 ローゼは紅茶を飲みながら楽しそうなサイオンとリリーを眺めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多
恋愛
 侯爵令嬢のレティシアは恵まれていなかった。  両親には忌み子と言われ冷遇され、婚約者は浮気相手に夢中。  そしてトドメに、夢の中で「半月後に死ぬ」と余命宣告に等しい天啓を受けてしまう。  そんな状況でも、せめて最後くらいは幸せでいようと、レティシアは努力を辞めなかった。  すると不思議なことに、状況も運命も変わっていく。  そしてある時、冷徹と有名だけど優しい王子様に甘い言葉を囁かれるようになっていた。  それを知った両親が慌てて今までの扱いを謝るも、レティシアは許す気がなくて……。  恵まれない令嬢が運命を変え、幸せになるお話。 ※「小説家になろう」「カクヨム」でも公開しております。

処理中です...