晴れの日は嫌い。

うさぎのカメラ

文字の大きさ
上 下
56 / 71

晴れた日とデートと心の動き。8

しおりを挟む
「この子、俺の子だった」
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」

 ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
 それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。


 実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
 お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。

「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」

 我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
 一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。


「お母さんと話をしに行こう」

 学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
 世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
 アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
 エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。


 アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
 草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。

「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」

 エカがツッコミを入れる通り。
 岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。

「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」

 元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
 咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。

「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」

 ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。

「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」

 花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。

「ルル、ただいま」

 アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
 世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。

『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』

 念話が優しい波長で心に流れてくる。
 精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。

『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」

 アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。

『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』

 その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。

「……」

 言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
 何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
 次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。

『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生ルイ】……です……」

 問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。

『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』

 ルルがまた微笑む。

『……おかえり、ルイ……』

 その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...