31 / 71
濡れたいキモチの雨。2
しおりを挟む「……杉原先輩?」
あの日以来の、今日また傘をささずに雨に濡れてる杉原先輩を見付けてしまいました。
「おはよ、叶」
最近呼んでくれるときの口調ですが、明らかに分かる『何時もと違う』杉原先輩でした。
……口元にキズがありました。
「……」
「叶?」
「どうしたんですか、……その口元のキズ」
「男の勲章!!」
「喧嘩を払ったんですか?」
『あははっ』と杉原先輩は声に出して笑いました。
「払ったらもっと大変なことになってるよ」
次の瞬間には、あの困ったような笑顔です。
先輩は何か雨に濡れたいことがあったのでしょうか……?
「先輩」
「ガッコ行こ?」
(……やはり、雨に濡れたいことがあったんですよね)
何故か今日は私に誰も声をかけてこきません。
朝早いですし疎らとはいえ生徒はいます。
文化祭二日目なのに、何故でしょうか?
(……)
今日の先輩はとても違和感があったのですが、直球に聞いても答えてくれない気がしていました。
ですから私は、『あること』を言葉にしたいと思います。
今の私には、少しだけ勇気のいることでした。
ですが、やはり知りたかったんです。
「杉原先輩」
「ん?」
「付き合ってくれますよね」
「……ツレション?」
やはり……聞いたんですよね。
杉原 俊先輩の義弟、私を虐めていたリーダー格の『杉原 亮』に……。
「いいですよ……先輩の好きなところに。ツレションでもどこでも」
「叶、ごめん」
「私は杉原 俊先輩が憎いわけではないですし、恐いわけでもないです」
『それにこれは先輩が謝ることではないですから……』と私は付け足しました。
「叶は虐めの加害者の義兄弟は怖くないんだ」
先輩は真剣な表情でした。
なので、尚更私も真剣に思いを伝えなければならないと思いました。
「加害者の関係者は全員罪人なんですか?」
先輩は間を少しだけ空けてから、
「……違うけど関係はある。」
そう答えてくれました。
「そうですよね。違うんですから先輩が謝らないでください」
「でも、謝らないといけないこともあるんだ」
謝らないといけないこと……ですか?
「それは場所変えてから話すよ」
「……」
私は少しだけ考えました。
(……もしかしたら、この雨は私の汚いところを洗い直してくれるのかも知れません……)
そして、私はさしていた傘を閉じました。
「……叶?」
「何ですか?」
「風邪引くんじゃないの?」
「私は結構丈夫なんです」
「昨日倒れたのに?」
あれは、精神的なものなのです。
「まわりが過保護すぎるんです」
『笹倉』という名前があるから。
最近は、それが何だか窮屈で仕方がないんです。
雨は今まで傘をさして歩くのが好きだったのですが、雨粒に当たっていた方が良かったときもあったのかもしれません。
「雨って、気持ちがいいですね」
私は雨の中で深呼吸しました。
「雨はキモチイイの、叶もようやく気付いた?」
前髪をかき上げながら笑顔でそう言ってくれました。
杉原先輩は何時もの杉原先輩に戻っていました。
私はそれを感じて、ようやく安心できたんです。
学校に着いたとき、下着まで濡れてしまっていたのには……流石に気持ち悪くなりました。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?


真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

さがしもの
猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員
(山岡 央歌)✕(森 里葉)
〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です
読んでいなくても大丈夫です。
家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々……
そんな中で出会った彼……
切なさを目指して書きたいです。
予定ではR18要素は少ないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる