晴れの日は嫌い。

うさぎのカメラ

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雨の日に約束。4

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 杉原先輩は体育館裏の小さい庇のある段差に座って長身なのに小さく丸くなっていました。
そして制服の内ポケットから四角い物を取り出していて……私は止めに入りました。
「杉原先輩、何してるんですか?」
 先輩は一瞬ギクリッとした顔つきでこちらを見て、また困ったように笑っています。
「あらら……見付かっちゃった?」 
「……」
 煙草なんて詳しくは知らないですが、それが煙草ということだけは分かりました。
「次に見付かったら停学なんだ。でも笹倉がいるならまた一年停学でもいいかなってね」
 杉原先輩はまだあの笑顔のまま答えています。
 ……貴方は一体何を考えているのですか? 
「こっちおいで、笹倉。濡れちゃうよ?」
 先輩は隣の段差をぽんぽんと叩きます。
 「いえ、私は授業がありますから、戻ります」
 授業が始まってしまうから早くしないと…!!
「いいの?戻ったら吸っちゃうかもよ、煙草」
 ……なんて脅でしょうか。
 (いい人だと思ったのですが……どうやら違ったようです)
 仕方なく私は隣に座りました。
 すると、杉原先輩はぽんぽんと優しく私の頭を叩きました。 
「結構センパイ思いなんだ?」
 先輩は優しく笑って『もっと自己チューだと思ってた、ゴメンね』と、ポソリと呟いていました。
…… たった今、授業の始まりのチャイムが鳴ってしまいました。 
「……杉原先輩のせいで、私は生まれて初めて授業サボってしまいました」
 雨を眺めていて先に沈黙を破ったのは私でした。 「ゴメンね」
 (……とてもそう思っていなさそうです) 
「俺も実はセンセイ以外に煙草止められたの笹倉が初めてだったりして」 
「ぇ……?」
 私はその言葉に驚いてしまいました。
 学生なのに、未成年なのに誰も止めないなんて……!! 
「スリルとか、刺激が欲しいのかな?」
 ハッとしました。
 ……私と同じなんですか? 
「笹倉は『イケナイコト』ってしたくなること……ない?」
 先輩に顔を向けたら、いきなり顎を取られ頬を捕まれてしまいました。
 (噛みつかれてしまいますっ?!)
 そう思いながらも、私は全く抵抗する余裕がありませんでした。
 ですが、噛みつかれるのではなく、重ねられたのは口でした。
 頬を掴まれた両手で口を開けさせられ舌を絡み取られました。
 いきなりことでわけが分からず、どうしていいの分からなかったので……その行為が終わるまで、じっとしていました。
 ただ苦しくて、息をついた瞬間に口が離れていきました。
「口淋しくてね」
 今日見た杉原先輩ではないような表情を見せられて、私はやはり反応が出来ませんでした。 
「笹倉が今みたいなこと、させてくれるなら、……煙草止めれるかもね?」
 そう涼やかに笑って私を見ています。
 (刺激が……欲しいのですか?)
 ですが絶対に私とは違う理由だろうと思いました。
 変態じみた意味ではないでしょう……。
 それでも。 
「……いいですよ」
 私は少しだけ間を置いてから返事をしました。
 杉原先輩は驚いた顔をしてから、困ったように笑っています。 
「へぇー、案外あっさりしてて杉原センパイはビックリなんだけど?」
 でもそれは、お互いに利用するためだけです。
「……ですが、晴れている日はもっとお願いします」
 (……私は『あの行為』を上書きしたいんです)
 私にとってはそれだけのことなのですが、その言葉に杉原先輩はさらに驚いたような顔になってから、『あははっ』と笑いました。 
「なぁにそれ?俺より笹倉が刺激が欲しいみたいだよ」
 杉原先輩は肩を振るわせて、まだ笑っています。
(そうです……なんてとても言えません)
「それでは……杉原先輩の下の名前、教えてもらってもいいですか?」 
「俊だよ。ずぎはら しゅん」 

「改めまして、杉原 俊先輩。私は笹倉 叶、ささくら かなえです」

 私は杉原先輩と約束をしました。
 それは雨の日の六時限目のことでした。


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