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雨の日に約束。2
しおりを挟む「叶さん、杉原先輩に傘貸したって本当ですか?」
午前の授業が終わり、昼休みに入って私は直ぐクラスメイトの皆さんにに声をかけられました。
「え?はい、そうですけど。……それがどうかしましたか?」
「叶さん!杉原先輩には近づかない方がいいよ!!」
「……何故ですか?」
何故そんな事を言うのでしょう。
自分でも何故こんなことをしたのか分かりませんでしたし、興味本意で行動したことでしたが、普通なら雨に濡れている人がいて、予備に傘を持っていたら貸すのが当たり前なんじゃないのでしょうか?
「笹倉さん、それ本当の話だったんだ」
隣の席の男子生徒もその話を聞いていたらしく、話しに加わってきていました。
「私は何かおかしいことをしたのですか?」
私は今まで友達がいたことがないので、こういうときはどうするものか分からないのですが……。
ですがここは思ったことも言わないとと思い、こう切り出してみることにしました。
「いくら雨が好きでも濡れていたら風邪を引いてしまうかもしれないです」
私がそう言うと、クラスメイトからの返事は、
「杉原先輩からは悪い噂しか聞かないから、叶さんは餌食になるかもって心配してるんだよ?!」
……『餌食』ですか? それはどういうことでしょう。
「あれ、酷いなぁ。それは俺への陰口?!」
朝に聞いた声がクラスに大きく響きわたりました。
その声は杉原先輩でした。
先輩は開いていた廊下側の窓から肘をついてこちらを笑顔で見ていました。
「ひぇっ!!」
「杉原先輩っ、……これはその」
クラスメイト達はだいぶ焦って見えました。
先輩は目上の人ですから当たり前です。
「今のは言葉のあやみたいなもんで……」
「どんなあやかな?」
「……ただの噂ですけどっ!!」
クラスメイトの皆さんは必死そうに言い訳をしているように見えるのですが、先輩は『邪魔するよ』と気にしない様子で勝手に教室に入ってきて、
「まぁ俺の悪評は否定しないし、それだけのこともやってきたしね」
と言ってニコニコと笑っています。
(朝の先輩と違う表情です)
私はその違う表情の先輩を見て、何故か違和感を感じました。
それに先輩は気が付いているのでしょうか?
「その杉原先輩は、何故この教室に来られたのですか?」
私のその質問に先輩はあっさりと答えてくれた。
「傘貸してくれたか笹倉 叶ちゃんがどういう子か気になったから、昼飯でもいっしょしたいなって思ってさ」
杉原先輩は『どいてどいて』とクラスメイト達を手で追い払い、私の席の前の椅子を陣取りました。
(……結構強引なんですね)
「笹倉あんがとね、傘。あれ明日まで借りといていい?」
『帰り濡れちゃうからさ』、と机に肘をいています。
「いいですよ。私にはいつも使っている傘がありますから」
私は笑顔でそう返事をしました。
(……こんな感じの人だったんですね)
特に不快感は感じませんでした。
悪い噂……それが気になりましたが、流石に本人に聞くのは良くないですね。
私は気にしないよう…いつものように、スクールバッグから家政婦が作ってくれたお弁当とタンブラーを取り出しました。
「笹倉、これ傘のお礼だよ」
「……え?」
先輩はビニール袋から瓶に入ったコーヒー牛乳を私の前に置きました。
(……コーヒーより紅茶の方が好きなのですが)
私は顔に出していたのでしょうか、先輩は困ったように笑っていました。
「あれ?……ひょっとして嫌いだった?」
(またです、この表情……)
この困ったような笑顔をされてしまうと、何故だか私まで困ってしまいます。
「まぁ、でも騙されたと思って飲んでみてよ。ここのコーヒー牛乳、意外とあっさりしてて美味しいよ?」
私は今までにこういった経験がないので、どう接したらいいのか分からなかったのですが。
……ですがこれは杉原先輩の好意なのです。
「……はい、ありがとうございます」
私はいただくことにしました。
そして私は、気が付きました。 先輩がビニール袋から出したお昼ごはんのパンには飲み物がないのです。
(自分で飲もうとしたものなんですね……)
「では、先輩はこれどうぞ」
と、私はタンブラーを先輩の前に置きました。
「私のいつも使ってるもので申し訳ないですが、パンは水分がないと入っていきませんから」
出来るだけ笑顔で返しましたが、杉原先輩は私の取った行為に驚いたのでしょうか?
(……今度こそ突き返されますか……?)
またそんな間でした。
「思ったより笹倉は優しい子だったわー。あんがとね」
そう言いながらタンブラーを受け取ってくれました。
良かったです。
人の好意を受け取れる人ですから、悪い人ではないはずです。
(悪い噂は、ときとして肥大するものですからね……)
先輩に頂いたコーヒー牛乳は思っていたより甘味がなく、さっぱりしていました。
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