あなたの遺伝子、ください

志藤みかづき

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第5章「あなたの遺伝子、いりません」

5.4 混ざり合い★

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 体のためにも出来るだけ早いほうが良いだろうということで、わたしはシャワーを浴び直してベットの上にいた。


 飾り気のない薄手のワンピース一枚身につけただけで、これからすることを考えると、なんだか心許ない。落ち着かない気持ちを持て余しながら、天蓋のベッドに横になり、タクトの訪れをただ静かに待つ。


「毛玉さん」


 ベッドサイドに待機していた毛玉さんに呼びかけ、タクトから貰った黒いリボンを結んでもらう。滑らかな生地の感触を瞼で感じる。そして視界が、闇で閉ざされる。


「タクトの色が、入っちゃったね」 


 両手を重ねて仰向きの姿勢を取り、深く呼吸を繰り返す。 ちょうど手のひらが、魔法陣の刻まれた下腹部にあたる。


 シャワーを浴びている最中、何気なく見た浴室の鏡に映る下腹部に、変化が起こっていた。正確には、魔法陣にだけど。

 もともとは、緻密に構成された十一重の魔法陣だった。赤を基本色として描かれ、一番外側の模様だけが白色だった。 
 それが今や、白色部分のところどころにピンクが入っていて。この混じったピンクが、誰の影響かだなんてことは考えるまでもなかった。


「タクト……」


 たしかに、タクトとのキスで魔力が補給され、膨らみも見せていない我が子は少しは落ち着いた。自分自身の不調も、今はもうほとんど感じていない。 



「やっぱり嫌。でも……。はやく、終わりますように」 


 子どものためにも、もうわたしに拒否権はない。待っている間の時間がとても長く感じる。机の上に置かれた時計の秒針が動く音がやけにはっきり聞こえるような気さえもする。
 まるで一秒が永遠のように感じられる。心臓が緊張のせいか激しく鼓動を刻み始める。


「あ…」


 手のひらを置いたワンピース越しに、下腹部の熱が高まったのがわかった。まるで、さらなる魔力を求めるようにと逸るような昂ぶりが、魔法陣から伝わってくる。 
 必要なこととはわかっていても憂鬱で、重い息を吐き出してしまう。
 リボンの内側で開けていた目を閉じ、真なる暗闇を見つめる。そうして気を紛らわせようと、取り留めもないことを考えているうちに、いつのまにか眠ってしまっていた。 





 ―――――ぴちゃっ……ぴちゃ……ぴちゃ……。 



 最初、アインヘルツの家のどこかで水漏れでもしているのかと思った。水音の大きさから、部屋の近くで起きているのかと心配になり、眠りから意識がゆっくり覚醒する。



「ン...ふぅ……!?」 



 そして、気がついた。水漏れなんかじゃない。違った。 
 目を覚ましても、リボンで閉ざされた視界は闇の中で。代わりに視覚以外の感覚が冴え渡る。


「ンンっ……!?」 



 全身を撫でますように手が這い回る。呼吸を奪うかのように唇が塞がれ、執拗に差し込まれた舌に口の中を蹂躙される。


「ぷ、はぁ……っ、と」


 素肌越しでもはっきりわかるほどワンピースが乱され、捲り上げられていて。 
 肌に空気を感じて、ひんやりとする。 
 外気が触れても冷たくない部分には、自分よりも高い体温があった。少しだけ、嫌じゃない熱さの正体は。 



「―――おそよう。こーんな激しいキスされてるのに全然起きないって、ちょっと自信なくすわあ」 


 タクトしかいない。
 唇を塞いでいた生ぬるい熱が離れるも、すぐにちゅちゅと音をさせながら、唇やその周りに甘えるような口づけが落とされる。 


「た、タク、んっ、ね、寝込み襲うとかっ、んんっ、ふぅんっ」 


 最低です。 
 そう罵りたいのに、絶え間なく唇を塞がれ、口を開こうものなら舌が侵入してきて舐め取られる。 


「はっ……んぁっ………ふぅ……ぅ、ンっ……ぁん…っ」 


 上顎の奥をゆったりと舌先で舐められ、くすぐられる。 
 確かめるような手つきでワンピースの裾から差し込まれた大きな手で胸を揉みしだかれ、思考が蕩けていく。下半身から痺れがくるように震え、わたしは気がつけば縋るように背中に手を回していた。 
 真っ黒な視界が、視力以外の感覚を研ぎ澄ます。ずっと嗅いでいたいような甘い匂いを感じながら、魔力補給のためにとキスされたときはあんなに苦手に感じたタクトとの触れ合いに熱中してしまっていた。 


「あーあ、な?変わったっしょ?
魔法陣が染められるとさ、カラダのほうは魔力を求めて堕ちてくるらしいんだよな」 


 タクトは片手で胸を愛撫しながら、器用にもう一方の手が身体の輪郭をなぞりながらゆっくりと下に下り、確かめるようにねっとりと下腹部に触れた。不足した魔力を求めて、今、もっとも敏感に、貪欲となって、タクトを求める場所。タクトの細い指が、魔法陣のもっとも外側をなぞるように、指の先で何度も触れる。


「んぅっ、あ、あ」


    そのたびにビクビクと身体をびくつかせ、鼻から抜けたような声が漏れる。 


「――――そうそうトーコはそうやって感じてな。腹の子のためには、俺の魔力で、もっと塗り替えないとっしょ?」 


「……んぅ、…や、やだ、待ってっ」 


 何故だろう。タクトに触れられるのが気持ち良い。


「待たねーって」 


 でも、リュイの、色が消える。 消えてしまう。


 タクトから与えられる熱に身を委ねるのが怖くなる。
 タクトの言葉を理解しているのか、下腹部が、魔法陣が、よりいっそう熱を帯びて、タクトという異性に媚びる。 
 隙間なくくっついていた身体が離れ、ばさばさと衣擦れの音がする。 タクトが身につけていた服を完全に脱ぎ終わるような気配がした。


「んじゃ失礼してっと……」


 クチュ、と音を立てられ、淡い茂みをかき分け、指が差し込まれた。 


「いやいや、濡れすぎっしょ?ほとんどソコ触ってねーのによ」


 わざと聞かせるように音を立てながら出し入れをされる。よく知ったような躊躇いのない指使いで、そのままナカを撫でられ、かき回され、割れ目をいじられ、突起も愛でられる。 
 息もつかないほどの快楽を与えられながら、タクトが簡単に濡れるわたしの淫乱さを嘲う。


「もう前戯とかいらねえんじゃね?待ち遠しいんだろ、トーコも、腹の子も」 


「んん……ああああっ」 


 そう言って、タクトは女のわたしには縁遠い熱の塊。押し当ててくる。

 まずい。気持ちいいけど、嫌だ。タクトを、拒絶しようとした。 

 でも、舌は絡め合ったせいでまともに動かず、簡単に蕩けた身体は全身の力が入らず、なすがまま押しつけられた熱を受け入れることしかできなかった。 
 大きく脚を開かされ、ずずずずと内側に無遠慮に侵入してくるソレを、抵抗もなく受け入れる。 
 待ち望んでいた熱量と質量を歓迎するかのように、ナカがきゅうきゅう収縮し、歓待していく。 


「あ、あぁ………っ、や、です、なんで……ぇ……」 


 気持ち悪かったはずなのに、気持ちよくてよくて仕方がない。 
 快楽か嫌悪か分からない涙が溢れ、リボンが濡れていく。
 わたしの心を裏切るように、身体が濡れる。そんなわたしの様子をタクトが笑っている気配がした。


「ほらな。この善がり具合はさ、トーコのカラダは男ならだれでもよかったって証明してるんじゃね」


 完全にバカにされる。


「ちっが―――」 


 違う、と叫ぼうとした。 


「ふあああっ」 


 だが抗議するよりも早く、一気にナカに肉棒を収められた。 


「ん、や、あ、あ、あんっ」 


 そうして奥をこねるようにぐいぐいと腰を回され、下から打ちつけるられる。 
 まるでお仕置きするかのような、乱暴に与えられる気持ちよさに、わけがわからなくなっていく。


 ぱんぱんとリズム良く腰を打ちつけられ、時折、唇を塞がれ唾液を注ぎ込まれる。 

  
 ベッドの海に沈めるように体重を掛けられ、激しい快楽の底に堕とされた。 


「く……っ」 


 苦しげな声とともに、わたしの一番奥に粘度の高い熱が吐き出された。 
 呼応するように魔法陣が強く熱を持ち、ふたりのからだに挟まれてよりアツくなる。 
 二倍、三倍の気持ちよさが、吐き出された熱と魔法陣によって増幅され、全身を駆け巡った。 
 制御できない獣のように自分のからだが、タクトの下で―――跳ね上がり、暴れるように、イった。 



 その拍子に、手が当たって、リボンが、ずれた。 


「ぇ……ぁ……?」 


 叫びすぎて掠れた声で、疑問が自然と零れる。


 だって、なんで、どうして?


「なんで……あなたが………?」



 ほのかな部屋の照明さえ眩しかった。目が暗闇から明るさに慣れ、開けた視界いっぱいに映ったのは、タクトなんかじゃなかった。


 穢れのない雪のように白い髪。
 血よりも深い赤い瞳。
  そんな中性的な美貌を持つ男は、この世界に来てから一人しか知らない。
 繋がった体勢のままに見下ろされ、蛇に睨まれた蛙のように固まる。


「あーあ、バレちゃった」 


 わたしを見下ろす男の向こう側で、椅子に座りテーブルに肘をついてこちらを観察しているタクトと目が合った。 


「バレんの早過ぎな。つか他人のセックス見るとか新鮮だわー」 


 なにこれ。理解が、追いつかない。 


 わたしの上に乗っかっている男の存在を認めたくなくて、必死にタクトの桜色の瞳を見つめて答えを得ようとする。だがタクトはへらへら笑うのみ。
 質問したくて、でも言葉にならなくて、口を開閉させていると、白い影が降ってきた。 


「余所見しないで」


 ちゅうっと吸いつくようにキスされ、視界を塞ぐようにじっと赤い瞳に覗き込まれる。 


「なんだか随分と久しぶりのように感じるね、トウコ。 
――――タクト・サクライ=アインヘルツと思いながら、ぼくに抱かれた今の気分はどうです?」 


 なんでリュイがここにいるのか。
 タクトではなく、どうして彼がわたしを抱いているのか。

  何もわからない。わからないけれど。


 リュイが、何故か、怒っているのだけはわかった。 
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