ヤミのマギア~ヤンデレ♂がヤンデレしか登場しない乙女ゲームのヒロイン……の親友キャラ♀に転移した~

桜野うさ

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ラストダンジョン解放イベント

【番外編】その頃の二人目と三人目の男(※別キャラ視点)

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咲衣ダイチは地下へと続く螺旋階段の近くで目を覚ました後、マギア・アカデミーの敷地内を彷徨っていた。
 階段の入り口は瓦礫で塞がっていた。
 不思議なことに瓦礫からは自分のマギアを感じた。
 こんなところでマギアを使った覚えはないのに。

 視界に入るのは人間の死体と魔物ばかりだ。

 なるべくマギアを温存したいので隠れて進む。

 早くミナセやマモリに会いたい。
 この際ホムラでもいい……と、願いながら。

「ひとりとかさみしーじゃん」

 魔成獣小屋の側を通り過ぎようとした時、何者かの気配を感じた。
 窓からそっと中を覗く。
 そこにいたのはホムラだった。

 あいつ何してるんだ?

 ホムラは小さな炎を出し、魔成獣が入れられている檻の鍵を焼き切った。
 驚いて声が出たせいでホムラに気づかれた。
 魔物だと思ったのだろう。こちらに炎を向けて来る。
 焼かれるのはたまらない。

「おれだよ! おれ!」
「咲衣か」

 ダイチの姿を見てもホムラは警戒心を弱めなかった。

「お前は本当にお前なのか?」
「いきなりむずかしーこと聞くなよ! それ哲学って奴かー?」
「先程、お前は正気ではなかったからな」

 ダイチは祈りの間での記憶を思い出した。
 正気を失ったようなミナセに襲われたこと、自分も体と心のコントロールを何者かに奪われたこと。

「い、今はへーきだ! それよりお前何してんだよー」
「魔物にやられないようにこいつらを逃がしている」

 檻の中にいたままでは抵抗できずに死ぬ。
 ホムラはそれを懸念したのだろう。

「お前って結構やさしーんだな。いいぜ、おれも手伝ってやるよ」
「……助かる」

 二人で手分けして魔成獣を森へ逃がした。
 奥に行けば魔物がいるという噂のある場所だが、あちこち魔物だらけになってしまった今ではここの方が安全だろう。
 食料になる植物も生えている。

 ダイチはホムラに寄り添うファイアーウルフを見て小首を傾げた。
 他の魔成獣はすべて森へと向かって行ったのに一頭だけ残っている。

「そいつは森へやらねーのか?」

 ホムラは頷くとファイアーウルフの頬に手をやった。
 ファイアーウルフは目を細め、ホムラの手に顔を擦りつけた。

「懐いてんだなー。夏休みも小屋の掃除とかしてたらしいしな」

 ダイチはそう言いながら、ひとりと一頭の間にはもっと深い絆があるのを直感した。
 親友同士のような、さらに近い関係のような。

 ホムラは何も答えなかった。

「なぁ、飯食いに行かねー? おれ腹減ったー」
「ああ」

 ひとりじゃなくなった途端に空腹に気づいたのは内緒だ。


 いつもは人で賑わっている食堂は、静まり返っていた。
 あちこちに死体が転がっていた。
 どれも損傷がひどく、思わず吐きそうになる。

 ダイチは不安になってホムラを見た。
 ホムラはいつものように無表情だった。

「食料は豊富にあるな」
「けどおれ、食欲無くなったかも……」
「できる時に補給しておけ」
「こんな死体ばっかのとこで飯なんかむりー」
「別の場所に持って行くか」

 ホムラは棚を物色し、弁当箱になりそうな器を手に取った。

「そーしようぜ。もっと景色のいいとこで食おー!」

 ホムラは窓の外を見た。
 ダイチもつられてそちらに視線をやった。

 空は赤く染まり、紫色の雲が渦巻いていた。
 そこには黒い口がいくつも開いており、魔物を産み出し続けていた。

「室内の方がよさそうだな」
「ん、そーだなー」

 ダイチも棚から器を取り出し、まだ温かい料理を詰め込んだ。

 余った料理は冷蔵室にしまって購買に向かう。
 飲み物や日持ちする食料も必要だ。

 購買にはパンや菓子が置いてある。

「あっ、これミナが好きな奴じゃん! 後であいつにやーろおっと」

 ダイチはイチゴキャンディーをポケットに入れる。

「王侍はそれが好きなのか」
「おう! まぁあいつ甘いのだったらなんでも好きだけどな! あ、これ内緒だっけ。まーいっか♪」
「お前は相変わらず王侍が好きだな」
「そりゃおれたち『親友』だからな!」

 得意満面に言ってみたものの、実際に自分たちが「親友」と呼べる関係なのかはわからない。

 ダイチはミナセに水の牢獄に閉じ込められた時のことを思い出して震えた。
 溺れ死にかけたのも恐ろしかったが、何よりミナセが本気で自分を殺そうとしていたのがショックだった。

 いくら誰かに操られていたって「親友」を殺すか?
 本当はおれのことなんてどうでもいいんじゃ……。

 ネガティブな考えに支配されそうになり、ダイチは頭を振った。

「狩人、さっきは助けてくれてありがとな!」
「さっき?」
「ほら、おれが水に閉じ込められた時さー」
「気にするな」

 十分な食料を得たので、二人は外に出ることにした。

「今の内に休める場所を確保した方がいい。夜になると魔物は強化する」
「お前そういうの詳しいんだなー」
「ああ」
「うーん、休める場所って言ったらやっぱ寮とかー?」

 寮に行くと入り口が瓦礫で塞がれていた。

「駄目か」
「おれに任せろー!」

 ダイチは瓦礫に両手をついた。
 瓦礫は二つの巨大な塊りになり、両引き戸みたい動いて真ん中に隙間を作った。

「やるな」
「へへっ! もっと褒めてもいいぜ!」

 瓦礫の隙間から寮に入ると魔物が入って来ないように閉じた。

 内部もあちこちが瓦礫で埋まっていたが、ダイチがマギアで道を作って行った。

 二人はある部屋の前で立ち止まった。

「オレが使用していた部屋だ」

 扉を開けると、壁に大きなひびこそ入っていたが被害はあまりなかった。
 念のためにダイチがマギアで壁を補強した。

「いっぱいマギア使ったらもっと腹減ったー」

 ダイチは料理に手をつけ始めた。
 口にいっぱい放り込んでもぐもぐと咀嚼する。

「やっぱ食堂の飯は最高だなー。食えなくなるのが残念だぜ」

 ホムラはダイチの様子をじっと見つめていた。

「お前も食えよ」
「ああ」

 そう答えたが、ホムラは相変わらず食べるダイチを眺めている。

「……お前ってさー、そうやっていっつもおれのこと睨んでくるけど、おれのこと嫌いなわけー?」
「いや」
「じゃあなんで睨むんだよ!」
「……違う」

 うーん? と、ダイチは大きく首を捻った。

 ホムラは言葉を探した後で「リス……」と答えた。

「はぁ? よくわかんねーけどちゃんと食えよ! お前のこと頼りにしてんだから、万全のたいせーって奴にしててくれ」
「ああ」

 ファイアーウルフは二人から少し離れたところで大人しく座っていた。

「あいつも何か食うかなー? 肉とかー?」
「好物は果物だ」
「狼なのにー?」

 ホムラはファイアーウルフに持って来た食事を与えた。

「人間と同じもの食うんだなー」

 ダイチは不思議そうにその様子を見ていた。


 今日は早めに眠ることにした。
 いつ魔物に襲われるかわからないし、いつ自分が自分で無くなるかもわからない。
 休める時に休んでおかないと不味いことになる。

 ミナセが使っていたベッドは綺麗に整えられていた。
 ぐちゃぐちゃのまま使い続けている自分とは大違いだ、と、ダイチは思う。

 疲れているのに眠れなかった。
 ホムラは、そういう訓練でも受けているようにすぐに眠っていた。

 眠れない夜は嫌なことばかり思い出すし、無駄なことばかり考えてしまう。

 親や親族から何の期待もされていないこと。
 二人の兄から見下されているように思うこと。
 ミナセがいつか自分を見捨てるかもしれないこと。

 そもそもミナセがもう死んでいるかもしれないこと。
 マモリも無事かわからない。

 こうなると余計に眠れなくなる。

「やばいなー」

 ダイチが呟くと、ホムラが「眠れないのか?」と、聞いて来た。

「起きてたのか」
「今起きた」
「おれがうるさかったせいー? 悪かったなー」
「そういう風にできているだけだ。気にするな」

 ホムラは言葉が少ないので、何が言いたいのかわからない時がよくある。

「……なぁ、お前って不安で眠れねー時ってねーの?」
「ない」
「うらやまし―奴」

 ダイチは寝返りを打ち、ホムラの方を向いた。

「おれ、めちゃくちゃ優秀な兄貴がいるんだ。しかも二人!」
「そうか」
「おれも頑張ってんのに、父さんも母さんもじーちゃん達も兄貴ばーっかり期待しててさー。おれは家族からいてもいなくてもどっちでもいいって思われてんだよなー」
「いや、家族は大切だ」
「そんなのお前が恵まれてるだけじゃん」

 ホムラは黙っていた。
 ダイチは不安になった。
 何か不味いことを言ってしまったのは空気で感じたが、何が不味かったのかはわからない。

「……お前の家族って、どんな奴なんだ?」
「両親と兄がひとり。皆優しかったが、両親は殺された」
「えっ?」

 さっき不穏な空気を感じたのはそのせいだったのかと理解すると共に、ダイチは言った言葉を後悔した。

「……悪かったよ、何も知らねーくせに勝手なこと言ってさ」
「いや」
「おれって本当、自分のことばっかだなー」

 ダイチはかつて自分にそう言った、黒髪ツインテールの少女の姿を思い出した。
 今一番気になっている女の子だ。
 こちらの気を惹く言動を熟知しているかのような、小悪魔的な魅力がある。

 親友も夢中になっている。女の子を好きになった経験がないからか簡単に本気になっていた
 ああいう上級者っぽい女の子に真面目な奴が本気で惚れるなんて、裏切られた時に傷つく未来しか見えないのに。

 そうなれば自分が慰めてやればいい。
 傷が深ければ深いほど癒してくれる人間にのめり込む。
 だから初恋を応援したい反面、めちゃくちゃ傷つけばいいのにとか最低なことを考えてしまう。

 上級者な女の子はおれ向きだから代わりになんとかしてやるし。

 どっちも欲しい。
 やっぱりおれは自分のことしか考えてないな。
 こんな奴はいつか誰からも見捨てられてしまう。

「自分のことばかりなのはお前だけではない」

 ホムラが呟いた。

「けどお前は違うんだろう」
「……いや」
「そうかぁ? 魔成獣も逃がしてやったり優しいとこあんじゃん。ミナもお前のことよく優しいって言ってるぜ」
「オレは何かを犠牲にしても成し遂げたいことがあった」
「それって何だよ」
「……大切な者を幸せにすることだ」
「いいことなんじゃねーの?」
「……違う」
「何で? お前とお前の大切な奴が幸せならそれでいいじゃん」
「相手は犠牲を望んでない」

 ホムラは言葉が少ないので、言いたいことが断片的にしかわからなかった。
 けれどわかったこともある。

「やっぱりお前は自分のことばっかじゃねーよ」

 ダイチは天井を仰いだ。
 これまで寝る時に見ていたのと同じ色と柄だったが、ほんの少し違和感を覚える。

「起こして悪かったな。おれも頑張って寝るよ」
「ああ」

 朝起きたら元通りの日常だったらいいのに。
 誰か知らないけど島をめちゃくちゃにするなんて酷い奴だ。

 めちゃくちゃになっているのはこの島だけか……?

 もしかしたら世界中の空に黒い口が開いていて、そこから大量の魔物が吐き出されているのかもしれない。

 世界中みんな死んでる。
 兄貴たちも。
 自分をないがしろにした奴ら全員。

 悪くないじゃん、それ。

 みんなを殺しまくった奴の気持ちなんかわかんねーって思ったけど、そいつって結構おれと似てるかもな。

 などと考えながら寝返りを打つ。

 明日こそミナセやマモリを見つけよう。

 二人は今頃何をしているんだろう。
 一緒にいてイチャイチャしてたらムカつくな。
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