ヤミのマギア~ヤンデレ♂がヤンデレしか登場しない乙女ゲームのヒロイン……の親友キャラ♀に転移した~

桜野うさ

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ロード:真のクリア条件の提示

闇のマギア

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 突如現れたヒカルの姿にミナセは息を飲んだ。
 ホムラは小さな声で「神……」と、呟いた。

「なぁ、こいつって博物館で見た奴だよなぁ? なんでここにいんの? なんか透けてるし」

 ダイチは騒いでいる。
 他の二人は驚いているせいか、ダイチの問いかけには答えなかった。

 三者三様の反応を見せる男たちとボクに向かい、ヒカルは薄く笑った。その表情はどこか尊大にも感じる。

「全員連れて来るとは手際がいい。……少し煩いがな」

 ボクはポケットから、ヒカルに頼まれていたマギア保管用クリスタルを取り出した。

「この状況ならそれは不要だ。直接奴らの闇を払ってやる」

 ヒカルはそう言うと手の平にマギアの力を溜めて行った。

「どうして真堂ヒカルがここに……」

 絶句していたミナセはやっとのことでそう呟くと、ボクに視線をくれた。

「……姫野さん、何か知ってるの?」

 そして不安げに眉を寄せる。

「説明は後よ。もっとヒカルに体を近づけて」

 ボクはミナセの背中をそっと押した。
 封印の力が働いているため、ヒカルはここから一歩も動けない。

 闇を払うところまではこれで無事に終了か。
 ここまでは案外簡単だったな。

 ボクが安堵の息をついた時、酷い悪寒が背筋をすぅっと撫で上がった。

 頭上に黒い線が現れた。
 線はジッパーのようにぱっくりと口を開いた。
 その中からは、大量の魔物が顔を覗かせていた。

「……ちっ、ミヤに見つかったか」

 ヒカルは歯噛みすると、溜め込んだマギアを魔物に向かって解き放った。
 花火が打ちあがった時みたいに、辺りが一瞬大きく光った。
 魔物たちは消滅した。
 だが、すぐに次の集団が黒い空間から降りて来た。

「魔物……? 嘘だ……。あいつらは三百年前に滅んだはずで……」

 ミナセは放心状態で、うごめく魔物を見つめている。
 魔物――小鬼《ゴブリン》は隙だらけのミナセに狙いを定めた。
 黒いブーメランのような攻撃が奴に襲い掛かる。

 当たると思った刹那、その攻撃は隆起した床によって阻まれた。
 ダイチの防御魔法だ。

「しっかりしろよミナ!」

 次々と放たれる魔物からの攻撃を、ダイチは持ち前の反射神経のよさで防いで行く。

 すぐに炎が一直線に魔物の群れに伸びて行き、魔物は焼き払われた。
 ホムラが攻撃魔法を放ったのだ。

「だってこんなの……信じられないよ……」
「信じらんねぇけど起きちまったもんは仕方ねーだろ! 戦うぞ!」

 ダイチは震えるミナセの肩を力強く掴んだ。

「このままじゃおれたち全員死ぬじゃん。マモリちゃんだって!」

 そこでミナセはハッとした。

「姫野さん、逃げて!」

 ボクに向かって叫ぶ。

「ここは僕たちで何とかするから!」

 黒い線は頭上に次々と現れ、そこからは止めどなく魔物が生み出されている。
 魔物たちの一部は祈りの間の外へ向かって行った。

 陽彩ちゃんまでこいつらに襲われるかもしれない。

「頼んだわね」

 ボクはそう言うと、弾かれたように外に向かった。

 はずだった。

 体が動かない。

 この感覚は知っている。
 以前食らった、ミナセによる身体支配のマギアだ。

 ミナセは金色に輝く瞳でこちらを見ていた。
 真堂ミヤに支配されている証だ。

「駄目だよ。あの子の邪魔をしちゃ」
「おいミナ……なにやってんだよ!」

 腕に縋りつくダイチを、ミナセは力いっぱい付き飛ばした。

「ミ……ナ……?」

 ダイチは地面に尻をつけながら、何が起きているのかわからないと言った顔で言葉を失っていた。

 小鬼の群れがダイチに襲い掛かった。
 即座に炎の渦が群れを包み込む。
 ギャッ、ギャーと悲痛な叫び声が耳をつんざいた。

「王侍、咲衣、どうした」
「ミ、ミナがおかしくなっちまった……」

 ミナセが片手を頭上にやると、炎の渦に雨が降り注いだ。
 かき消えた炎の中にいた、体の焦げた小鬼がよたよたとこちらに向かって来た。

 さらにミナセは水の塊りを召喚すると、ダイチにぶつけて奴を水に閉じ込めた。
 ダイチはそこから出ようと抵抗しているが、水の塊りは牢獄のように奴を捕らえて離さない。
 あのままじゃ息ができなくていずれ窒息死する。
 ミナセの奴、見かけに寄らずなんてエグい技を使うんだ……。

 ホムラがダイチを閉じ込める水の牢獄を炎で囲った。
 激しい音を立てて水はすべて蒸発した。

「咲衣!」

 咳き込みながら水を吐くダイチにホムラが近寄った。

「無事か?」

 ホムラの問いに答えず、ダイチは地面に両手をついた。
 その途端、床が勢いよく盛り上がってホムラの腹に激突した。
 ダイチ相手で油断していたのだろう、今の攻撃はかなりもろに入ったようだ。
 苦し気な呻き声が聞こえた。

「咲……衣、お前も……」
「狩人も早くあの子のものになれよ。そんで一緒にあいつ殺そうぜ♪」

 ダイチがボクに視線を向け、小首を傾げた。
 その瞳は金色に染まっていた。

「お前さ、そーとーガマンしてるんだろ?」

 ダイチはくるりと振り返り、ホムラの腕を取った。
 ホムラはそれを払いのけようとしていたが体が動かないようだ。

「抵抗しても無駄なんだし、もう委ねちまえよ」

 ダイチはホムラの腕を持ち上げ、ボクに向けた。

「何を……させる……気だ」
「邪魔者を焼き払えー!」

 ホムラの手にマギアの力が集中する。
 奴の瞳が金色に輝いた時、そのマギアは炎となってボクに襲い掛かって来た。

 あんなの食らったら死ぬだろう。
 死んだらどうなるんだ。
 また中間地点に飛ばされて『ロード』することになるのか?

 以前はゲームに用意されているバッドエンドに飛んだが、今は原作にない展開だ。
 まさか本当に死ぬ?
 陽彩ちゃんが危険なのに……!

 くそっ、動けっ! 動けっ! この体!
 身体支配なんかに負けるな!

「うおぉっ」

 ボクの願いが通じたのか、体ががくんと動いた。

 眼前に迫っていた炎は、突如出現した水の壁によって防がれていた。

「姫野、さん……今の内に、逃げ……て」

 ミナセは絞り出すような声で言った。
 瞳の色が戻っている。
 精神力で無理やり支配から逃れているように見えた。
 またいつミヤに支配されるかわからない、ぎりぎりの様子だ。

「は……やく」

 ボクは強く頷き、祈りの間を飛び出した。


 全力で螺旋階段を駆け上がり、向かう先は寮の自室だ。
 陽彩ちゃんがいるとすればそこか図書室だろう。

 地上に出るとボクは声を失った。
 空は赤く染まり、紫色の雲が渦巻いていた。
 そこにはいくつもの黒い口がぱっくりと開いており、無限に魔物を産み出していた。

 あちこちで生徒たちが魔物に襲われていた。
 無残な死体が地面に散らばっている。
 地獄絵図だ。

 早く彼女のところに行かなくちゃ。
 ボクはさらに急いで自室に向かう。

「陽彩ちゃん!」

 勢いよく部屋の扉を開くと、目に入ったのは真堂ミヤの黒い手に握られた、気を失った陽彩ちゃんの姿だった。
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