39 / 50
39話ー『消えた凶器』
しおりを挟む
「艦長ッ!! よくぞご無事でッ!!」
艦尾のデッキに四つん這いになった俺に、ジョンは片膝をついて心配そうに顔色を覗き込んでくる。
船の側面に取り付けられた梯子を登った俺は、デッキに這い上がると、さも息切れしたように弱りきった状態を演じていた。
心配げに眉根を下げるジョンは、感極まった様子で目尻に涙を浮かべている。
そして俺の死体(艦長)を見ているパティとスコルは、ぺたんとその場で尻もちをつくと、涙ながらに俺の死体を呆然と眺めていた。
「はぁ、助かったよジョン……。だが、こちらの少年のほうが……」
そう言って俺は、俺(艦長)が安らかに眠りにつく様子を見る。
「仕方がありませんよ、艦長。あの状況でしたから……。
しかし……一体誰が、艦長を海になんか突き落としたんだ……」
そう言って悔しそうに唇を噛むジョンは、首を振って瞳を伏せる。
(俺の見立てが正しければ、恐らく犯人はこの人だ……)
元国家王国騎士のクルーであるジョン。
(ーーだが、まだ決定的な証拠が無い……)
それにジョンは、艦長が船尾に居る間は、艦内の中に居た。
俺もそのことは、確認している。
水密扉の鍵を内側から施錠して、艦内の中に居たのだ。
そんなジョンには、一見すれば艦長には触る隙すらない様に思える。
(けど、あのトリックを使えば、この謎は必ず解き明かされる。
問題なのは、どうやってジョンが、艦長を海に突き落としたのかだ……)
それを調べる為にも、俺は一度ゆっくりと立ち上がる。
ふらついた足取りを見せながら、
「こんな事態だ。すこし休ませてくれ」
そう言って俺は艦尾から離れて人目を欺くと、真っ直ぐにダッシュして艦首のほうへと走り始めた。
★
こっそりと開かれた水密扉の中へと移動し、鋼鉄製の船床を走りながら、近くにあった階段を降りる。
8番潜水艦の内部は、どうやら3階建てになっているらしく、フロアの一番底まで辿り着くと、魔導戦機の置かれた格納庫の部屋へとやって来た。
床は水浸しで、そこに置かれていエイのような頭部に、肩パッドをつけたような逆三角形体型の魔導戦機からは、ポタポタと今使ったばかりのように水滴が滴っている。
「やっぱり俺の読み通りだ」
恐らくジョンは、この魔導戦機を使って、格納庫から水中の中へと脱出を果たしたんだ。
「この部屋の横にある配電盤を操作し、ひとたび船床を開けば、すぐそこは水中だからな」
問題なのは、どうやってアークシャークを呼び寄せたかだけど……。
水密扉を使った密室トリックは、これで解き明かした。
残るは、アークシャークの問題。
それとデッキに立っていたであろう艦長を、どうやって海の底から海中に引きずりこんだかだ。
ぐるりと首を回して格納庫の中を眺めると、船床の一部に赤い染みのような物が、べったりと広がっている部分を発見する。
「そうか!!」
ーー読めたぞ!!
このアークシャークを使ったトリックの謎が!!
(残る問題は、あと一つ……)
「海底に潜った魔導戦機を使ったとして、デッキに立っていた艦長を“背後から”突き落とすなんて、本当に可能なのか?」
装備品の類を調べてみる。
だけど、それっぽい装備品はどこにも見当たらない。
「この魔導戦機が使える装備品は、アーム型の三本爪の両腕に、肩につけられた魚雷装備か……」
これらを使って艦長を背後から落とし、海底に引きずり込むのは、どう考えても不可能だ。
「そう言えば、どうして艦長は、背中一面に打撲痕があったんだ?」
俺の記憶が確かなら、アークシャークから負ったであろう噛み傷とは別に、艦長の背中には、ものすごい広さで打撲痕が見受けられた。
(まるで大きな鞭で叩きつけられたような……)
考えごとをしながら、水滴のついている魔導戦機の背後に回る。
そこで俺は、ある物を発見してしまった。
そこに落ちていたのは、鉄を切って加工したりする為に必要な、丸ノコと呼ばれる機材だ。
(そうか!! 分かったぞ!?)
間違いない!!
ジョンは、あの方法を使って、艦長を海の中へと引きずりこんだんだ!!
(っと、危ねえ!! 誰か来たみたいだ!!)
誰かが、この格納庫に走ってやって来る気配がしたので、俺はすかさず階段下に忍びこんで身を潜める。
ーー降りて来たのはジョンだった。
白いシャツに青いストライプ柄が入った、まるで囚人服のような衣服。
頭には、船乗りらしく白いキャップを被り、忌々しげに歯噛みしている姿が目に飛び込む。
「クソッ!! 何であの艦長が生きてんだッ!!」
(やっぱり俺の読みは、正しかったか……)
悪態をつきながら壁を蹴り上げたジョンは、どうやら艦長を探して、この格納庫まで降りて来たようだ。
「やっぱりあなたが犯人だったんですね?」
そう言って俺は、すべてを知った顔つきでジョンの前へと躍り出る。
ーーさぁ、始めようか!!
ーー人生初となる推理ショーをッ!!
艦尾のデッキに四つん這いになった俺に、ジョンは片膝をついて心配そうに顔色を覗き込んでくる。
船の側面に取り付けられた梯子を登った俺は、デッキに這い上がると、さも息切れしたように弱りきった状態を演じていた。
心配げに眉根を下げるジョンは、感極まった様子で目尻に涙を浮かべている。
そして俺の死体(艦長)を見ているパティとスコルは、ぺたんとその場で尻もちをつくと、涙ながらに俺の死体を呆然と眺めていた。
「はぁ、助かったよジョン……。だが、こちらの少年のほうが……」
そう言って俺は、俺(艦長)が安らかに眠りにつく様子を見る。
「仕方がありませんよ、艦長。あの状況でしたから……。
しかし……一体誰が、艦長を海になんか突き落としたんだ……」
そう言って悔しそうに唇を噛むジョンは、首を振って瞳を伏せる。
(俺の見立てが正しければ、恐らく犯人はこの人だ……)
元国家王国騎士のクルーであるジョン。
(ーーだが、まだ決定的な証拠が無い……)
それにジョンは、艦長が船尾に居る間は、艦内の中に居た。
俺もそのことは、確認している。
水密扉の鍵を内側から施錠して、艦内の中に居たのだ。
そんなジョンには、一見すれば艦長には触る隙すらない様に思える。
(けど、あのトリックを使えば、この謎は必ず解き明かされる。
問題なのは、どうやってジョンが、艦長を海に突き落としたのかだ……)
それを調べる為にも、俺は一度ゆっくりと立ち上がる。
ふらついた足取りを見せながら、
「こんな事態だ。すこし休ませてくれ」
そう言って俺は艦尾から離れて人目を欺くと、真っ直ぐにダッシュして艦首のほうへと走り始めた。
★
こっそりと開かれた水密扉の中へと移動し、鋼鉄製の船床を走りながら、近くにあった階段を降りる。
8番潜水艦の内部は、どうやら3階建てになっているらしく、フロアの一番底まで辿り着くと、魔導戦機の置かれた格納庫の部屋へとやって来た。
床は水浸しで、そこに置かれていエイのような頭部に、肩パッドをつけたような逆三角形体型の魔導戦機からは、ポタポタと今使ったばかりのように水滴が滴っている。
「やっぱり俺の読み通りだ」
恐らくジョンは、この魔導戦機を使って、格納庫から水中の中へと脱出を果たしたんだ。
「この部屋の横にある配電盤を操作し、ひとたび船床を開けば、すぐそこは水中だからな」
問題なのは、どうやってアークシャークを呼び寄せたかだけど……。
水密扉を使った密室トリックは、これで解き明かした。
残るは、アークシャークの問題。
それとデッキに立っていたであろう艦長を、どうやって海の底から海中に引きずりこんだかだ。
ぐるりと首を回して格納庫の中を眺めると、船床の一部に赤い染みのような物が、べったりと広がっている部分を発見する。
「そうか!!」
ーー読めたぞ!!
このアークシャークを使ったトリックの謎が!!
(残る問題は、あと一つ……)
「海底に潜った魔導戦機を使ったとして、デッキに立っていた艦長を“背後から”突き落とすなんて、本当に可能なのか?」
装備品の類を調べてみる。
だけど、それっぽい装備品はどこにも見当たらない。
「この魔導戦機が使える装備品は、アーム型の三本爪の両腕に、肩につけられた魚雷装備か……」
これらを使って艦長を背後から落とし、海底に引きずり込むのは、どう考えても不可能だ。
「そう言えば、どうして艦長は、背中一面に打撲痕があったんだ?」
俺の記憶が確かなら、アークシャークから負ったであろう噛み傷とは別に、艦長の背中には、ものすごい広さで打撲痕が見受けられた。
(まるで大きな鞭で叩きつけられたような……)
考えごとをしながら、水滴のついている魔導戦機の背後に回る。
そこで俺は、ある物を発見してしまった。
そこに落ちていたのは、鉄を切って加工したりする為に必要な、丸ノコと呼ばれる機材だ。
(そうか!! 分かったぞ!?)
間違いない!!
ジョンは、あの方法を使って、艦長を海の中へと引きずりこんだんだ!!
(っと、危ねえ!! 誰か来たみたいだ!!)
誰かが、この格納庫に走ってやって来る気配がしたので、俺はすかさず階段下に忍びこんで身を潜める。
ーー降りて来たのはジョンだった。
白いシャツに青いストライプ柄が入った、まるで囚人服のような衣服。
頭には、船乗りらしく白いキャップを被り、忌々しげに歯噛みしている姿が目に飛び込む。
「クソッ!! 何であの艦長が生きてんだッ!!」
(やっぱり俺の読みは、正しかったか……)
悪態をつきながら壁を蹴り上げたジョンは、どうやら艦長を探して、この格納庫まで降りて来たようだ。
「やっぱりあなたが犯人だったんですね?」
そう言って俺は、すべてを知った顔つきでジョンの前へと躍り出る。
ーーさぁ、始めようか!!
ーー人生初となる推理ショーをッ!!
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる