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36話ー『夜伽ボンハーネット』
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「おっと、わるいな」
その声に振り向いたミントは、手にしていたスマホの電源を静かに切る。
ルナイトキャットの食堂で朝食を済ませ終えたミントは、早速だが魔道具の考案作業に取り掛かろうとしていた。
「いやぁー、それにしても今朝のトーストは最高ですね~」
久しぶりに食べる朝食は、苺ジャムにマーガリンを乗せた簡素なモーニングだが、それでもミントの今までの生活を思えば、これでかなりご馳走だ。
(ターニャさんが素材集めに出向いている間、私のほうでなんとか考案作業を済ませなくては……)
そんな想いを胸に振り返ったミントの視線の前には、見知った顔で優しげな笑みを浮かべて微笑んでいた。
「あれ? アイズさん?」
先ほど誰かが何かにぶつかったような声が聞こえたが、アイズはその手前のテーブル席に腰を落ち着けていた。
耳元に当てていたスマートフォンを切ると、アイズはゆっくりと立ち上がってこちらの方へと歩いてくる。
「おはよう」
そう言ってにこやかに挨拶をされたミントは、「えへへっ」と苦笑いをこぼして瞳を細めた。
◆
「さっき珍しい魔道具を使ってたわね?」
ミントの対面に着席して早々、アイズは小首を傾げながらミントの使っていた魔道具に興味ありげな反応を示す。
その魔道具は、変声用の魔道具であり、ミントが素材集めの手配をする際によく使う代物だ。
「この魔道具は、使用する人の声を自在に変えることができる優れ物なんです」
そう言ってミントが半笑いを浮かべると、アイズはそのサファイア色の瞳をうっとりとさせる。
「へぇ~声を? すごく便利そうな魔道具ね?」
ミントの胸中に反して、アイズはぐいぐいとその心の距離を縮めてくる。
「アイズさんも魔道具に興味が?」
「えぇ、こう見えても私、魔道具集めが趣味なのよ」
そう言って子供っぽい笑みを見せたアイズは、王都でも有名なアイドル冒険者の一人である。
歌姫と名のつく通り、とある音楽チームでセンターを張っていて、その歌唱力はピカ一だ。
芸能人としか思えないほどの、まばゆかしい圧倒的なオーラ量を誇り。
見る者を一目で虜にしてしまうその美貌は、同性であるミントでさえ疼いてしまうほどの美しさだ。
それに加えてアイズは、芸能人とは思えないほどの気さくな笑みを振りまいている。
ここまでやられたとあっては、ミントの中ではもうお手上げだ。
心の内側にスッと入り込まれるような、そんな笑みがとても蠱惑的に思えて仕方がない。
冷静さを一度取り戻す為に、ミントはアイスコーヒーの入ったカップに口をつける。
チューチューと吸口を吸うと、氷がカラカラと動き、そんな音色がミントの動揺に蓋をしようとざわめいていた。
「ーー流石は、あのカイト・ボンハーネットのお孫さんと言ったところね」
そう言ってアイズも同様に、手にしているカップの吸口へと口をつける。
「祖父の名前を知っているんですか?」
「えぇ、そりゃあもう。
先代の名前は、カイト・ボンハーネット魔道具店。
魔道具士として、天才的な発明をしていたあのお方を知らないだなんて、魔道具好きからすればモグリも良いところね。
私も常連だったから、あなたのおじいちゃんの名前は、よく知っているわよ?」
「へぇ~!! アイズさんが、お祖父ちゃんの代からの常連さんだったなんて~!!」
そう言って感極まったミントは、その次の瞬間には「あれ?」と小首を傾げる。
「でも……それって、ひょっとして私の代で来て貰えなくなってませんか?」
「えぇ、気のせいよミントさん? そんな細かいことを気にしたらめげるわよ?」
「めちゃくちゃ気にしますよ!!」
そう言ってガビーンと青ざめたミントは、ガクッと項垂れて肩を落とす。
「けど、実際のところ、私はあなたのおじいちゃんより、どちらかと言えばあなた自身に興味が湧いて来ているかもね?」
「私、自身にですか?」
「えぇ」
そう言われた言葉の意味が分からず、ミントは目を丸くして首を傾げるしかできない。
机に頬杖をついたアイズは、小悪魔のような笑みでそのサファイア色の瞳をにっこりと細めている。
「私が知りたいのは、あなたとターニャさんとの関係性。
昨晩はどうやら、20年ばかりも営んでいたそうじゃない?」
「20年? って……一体なんのことですか?」
「えぇ、激しかったわよ~? それはもう、なにせ20年もあなた達は、食事も取らずにギシギシアンアンしていたのだから。
獰猛な肉食獣のように貪り狂っていたわ。まさにケダモノね?」
言われている言葉の意味が、まったく分からない。
(ひょっとしてアイズさん、私とターニャさんとの関係に探りを入れようとしているんじゃ……?)
ーーだとしたら不味い。
ミントとターニャさんのあの関係性が、もしもアイズさんにバレるようなことがあれば、ミントはそれで一巻の終わりだ。
「殺したいほど誰かを好きになる気持ちと、殺したいほど誰かを嫌いになる気持ち。
この二つの感情の向き方って、とてもよく似ているとは思わない?」
意味ありげな言葉を吐き捨て、さらりと怖いことを吐き捨てるアイズ・クルシュト・レインテーゼ。
だからこそミントは、すぐにその場から立ち上がる。
「わわ、私、ちょっとやることがありますので!!」
そう言って脱兎のごとく、ルナイトキャットを足早に後にしたミントは、商店街を駆けると歓楽街を目指し始める。
◆
「この私から逃げおおせようなんて、100億万光年速いわ!!」
クルクルとバレリーナのように回転しながらアイズが追いかけてくる。
「なんでその動きで、走れるんですか!?
と言うか、100億万光年は、時間じゃなくて単位です!!」
「ーーッ!? あなたひょっとして、ニビジムに居るモブキャラクター!?」
「モブなのは百歩譲って認めても良いですけど、私のレベルじゃ精々トキワシティですよ!!」
そう言って逃げるミントの隣に、「ふむ」と腕を組んで走るアイズの姿が見える。
(ーーだから、なんでそれで走れるんですか!?)
ミントのアイズに対する恐怖心が、今まさにオーブンに入れたイースト菌のように膨れ上がる。
「ーー拙者、走るのは得意でござるよ、ニンニン」
がむしゃらに商店街を一目散に走るミントは、冒険者レベルで言うなら、そう高くはない。
必然的に追いかけっこになればアイズに勝てる訳はなく、嫌々首を振ろうが、すぐに追いつかれてしまう。
「分かっていないようね? 私は、国家王国騎士なんですよ?
望めばあなたを恋の罪と称して、この手で逮捕することだって出来る、素晴らしい権力があるわ!!」
「いや、それ明らかに職権乱用ですから、そんなこと望まないで下さいよッ!!
と言うかーー恋の罪ってなんですかッ!?」
「フンッ!! まったく知らっばくれるのが上手いわね!!
ーーこの女狐めッ!!」
「アイズさん、それが言いたいだけでしょう!?」
「そんなことないわよ」
恥じるように乙女心と共に打ち出されたアイズの掌底が、ボフッと見知らぬ通行人をすかさず吹き飛ばす。
カップルらしき冒険者の男が、鼻血を咲かせながら煉瓦造でできた建物の外壁にめり込むのが見えた。
「キャー!! タケシがぁ!!」
「悪いカスミ、俺もうダメかも知れねえ……」
突如としてダメになったカップルの片割れを眺めて、ミントはその額を真っ青に青ざめさせる。
見ればアイズは、メリメリとその拳を握りしめて燃えている。
比喩ではなく、本気だった。
「どうしてアイズさんが、私に対して怒りを向けているのか分かりません!!」
「そりゃあそうよ!! 何故なら、私にもよく分からないわ!!」
「いや、そこは分かっておいてくださいよ!?
何故も分からないのに、追われている私の身にもなってください!!」
「強いて言うなら、ドロボー猫をやっつけるのは、この私ってことなのかしらね!!
マーキングしたのね? マーキングしたのよ!!」
(アイズさんの言っていることは、めちゃくちゃだ)
ともかくここは彼女を巻かなくては、魔道具作りに支障を来たしてしまうかも知れない。
そう感じたミントは、ふと走りながらターニャの姿を思い浮かべる。
(きっとターニャさんも今頃、頑張って魔道具の素材集めをしてくれている!!)
ーーなら、私がここで躓く訳にはいかないッ!!
「うぉおおおおおっ!! 頑張れアタシ~!!」
人混みを縫うように駆け抜け、曲がり角を突っ切っる。
(アイズさんに捕まる前に魔道具店に着くんだ!!
そして鍵をかけよう!!)
ふんすと鼻息を漏らして意気込みを見せたミントは、全力疾走で自分の魔道具店を目指す。
(ミント・ボンハーネット魔道具店の看板まで、もうすぐそこだ!!)
古ぼけた木材の1階建て家屋。
見慣れた射的場や、占い師の館を足早に通り過ぎると、満を持して見慣れた店舗が視界に飛び込む。
正面の扉にやっとの思いで手をかけ、工房も兼ねた室内に雪崩のように倒れこむ。
無数の魔導書型の入れ物が陳列された埃っぽい本棚が、主の帰還を静かに迎え入れる。
「ーーや、やった!! これでアイズさんを!!」
「はい捕まえた~!! つーかまえーぴぃーっ!!」
(最悪ダァー)
げっそりとした表情でアイズに首根っこを押さえられたミントは、渋いおっさんのような真顔でアイズに振り返って、改まって挨拶する。
「あ、アニョハセヨ?」
「あ~? ノウマク・サンマンダ・バザラダンカン!!」
アイズに担ぎ込まれたミントの魔道具制作は、こうしてアイズと言う謎の珍客を迎え入れるつつ、前途多難に満ちた始まりを告げてしまった。
(はぁ……ターニャさんは、今ごろ何しているんでしょうか……?)
そんなミントの心の声は、風に乗って以心伝心のようにターニャへと届く。
その声に振り向いたミントは、手にしていたスマホの電源を静かに切る。
ルナイトキャットの食堂で朝食を済ませ終えたミントは、早速だが魔道具の考案作業に取り掛かろうとしていた。
「いやぁー、それにしても今朝のトーストは最高ですね~」
久しぶりに食べる朝食は、苺ジャムにマーガリンを乗せた簡素なモーニングだが、それでもミントの今までの生活を思えば、これでかなりご馳走だ。
(ターニャさんが素材集めに出向いている間、私のほうでなんとか考案作業を済ませなくては……)
そんな想いを胸に振り返ったミントの視線の前には、見知った顔で優しげな笑みを浮かべて微笑んでいた。
「あれ? アイズさん?」
先ほど誰かが何かにぶつかったような声が聞こえたが、アイズはその手前のテーブル席に腰を落ち着けていた。
耳元に当てていたスマートフォンを切ると、アイズはゆっくりと立ち上がってこちらの方へと歩いてくる。
「おはよう」
そう言ってにこやかに挨拶をされたミントは、「えへへっ」と苦笑いをこぼして瞳を細めた。
◆
「さっき珍しい魔道具を使ってたわね?」
ミントの対面に着席して早々、アイズは小首を傾げながらミントの使っていた魔道具に興味ありげな反応を示す。
その魔道具は、変声用の魔道具であり、ミントが素材集めの手配をする際によく使う代物だ。
「この魔道具は、使用する人の声を自在に変えることができる優れ物なんです」
そう言ってミントが半笑いを浮かべると、アイズはそのサファイア色の瞳をうっとりとさせる。
「へぇ~声を? すごく便利そうな魔道具ね?」
ミントの胸中に反して、アイズはぐいぐいとその心の距離を縮めてくる。
「アイズさんも魔道具に興味が?」
「えぇ、こう見えても私、魔道具集めが趣味なのよ」
そう言って子供っぽい笑みを見せたアイズは、王都でも有名なアイドル冒険者の一人である。
歌姫と名のつく通り、とある音楽チームでセンターを張っていて、その歌唱力はピカ一だ。
芸能人としか思えないほどの、まばゆかしい圧倒的なオーラ量を誇り。
見る者を一目で虜にしてしまうその美貌は、同性であるミントでさえ疼いてしまうほどの美しさだ。
それに加えてアイズは、芸能人とは思えないほどの気さくな笑みを振りまいている。
ここまでやられたとあっては、ミントの中ではもうお手上げだ。
心の内側にスッと入り込まれるような、そんな笑みがとても蠱惑的に思えて仕方がない。
冷静さを一度取り戻す為に、ミントはアイスコーヒーの入ったカップに口をつける。
チューチューと吸口を吸うと、氷がカラカラと動き、そんな音色がミントの動揺に蓋をしようとざわめいていた。
「ーー流石は、あのカイト・ボンハーネットのお孫さんと言ったところね」
そう言ってアイズも同様に、手にしているカップの吸口へと口をつける。
「祖父の名前を知っているんですか?」
「えぇ、そりゃあもう。
先代の名前は、カイト・ボンハーネット魔道具店。
魔道具士として、天才的な発明をしていたあのお方を知らないだなんて、魔道具好きからすればモグリも良いところね。
私も常連だったから、あなたのおじいちゃんの名前は、よく知っているわよ?」
「へぇ~!! アイズさんが、お祖父ちゃんの代からの常連さんだったなんて~!!」
そう言って感極まったミントは、その次の瞬間には「あれ?」と小首を傾げる。
「でも……それって、ひょっとして私の代で来て貰えなくなってませんか?」
「えぇ、気のせいよミントさん? そんな細かいことを気にしたらめげるわよ?」
「めちゃくちゃ気にしますよ!!」
そう言ってガビーンと青ざめたミントは、ガクッと項垂れて肩を落とす。
「けど、実際のところ、私はあなたのおじいちゃんより、どちらかと言えばあなた自身に興味が湧いて来ているかもね?」
「私、自身にですか?」
「えぇ」
そう言われた言葉の意味が分からず、ミントは目を丸くして首を傾げるしかできない。
机に頬杖をついたアイズは、小悪魔のような笑みでそのサファイア色の瞳をにっこりと細めている。
「私が知りたいのは、あなたとターニャさんとの関係性。
昨晩はどうやら、20年ばかりも営んでいたそうじゃない?」
「20年? って……一体なんのことですか?」
「えぇ、激しかったわよ~? それはもう、なにせ20年もあなた達は、食事も取らずにギシギシアンアンしていたのだから。
獰猛な肉食獣のように貪り狂っていたわ。まさにケダモノね?」
言われている言葉の意味が、まったく分からない。
(ひょっとしてアイズさん、私とターニャさんとの関係に探りを入れようとしているんじゃ……?)
ーーだとしたら不味い。
ミントとターニャさんのあの関係性が、もしもアイズさんにバレるようなことがあれば、ミントはそれで一巻の終わりだ。
「殺したいほど誰かを好きになる気持ちと、殺したいほど誰かを嫌いになる気持ち。
この二つの感情の向き方って、とてもよく似ているとは思わない?」
意味ありげな言葉を吐き捨て、さらりと怖いことを吐き捨てるアイズ・クルシュト・レインテーゼ。
だからこそミントは、すぐにその場から立ち上がる。
「わわ、私、ちょっとやることがありますので!!」
そう言って脱兎のごとく、ルナイトキャットを足早に後にしたミントは、商店街を駆けると歓楽街を目指し始める。
◆
「この私から逃げおおせようなんて、100億万光年速いわ!!」
クルクルとバレリーナのように回転しながらアイズが追いかけてくる。
「なんでその動きで、走れるんですか!?
と言うか、100億万光年は、時間じゃなくて単位です!!」
「ーーッ!? あなたひょっとして、ニビジムに居るモブキャラクター!?」
「モブなのは百歩譲って認めても良いですけど、私のレベルじゃ精々トキワシティですよ!!」
そう言って逃げるミントの隣に、「ふむ」と腕を組んで走るアイズの姿が見える。
(ーーだから、なんでそれで走れるんですか!?)
ミントのアイズに対する恐怖心が、今まさにオーブンに入れたイースト菌のように膨れ上がる。
「ーー拙者、走るのは得意でござるよ、ニンニン」
がむしゃらに商店街を一目散に走るミントは、冒険者レベルで言うなら、そう高くはない。
必然的に追いかけっこになればアイズに勝てる訳はなく、嫌々首を振ろうが、すぐに追いつかれてしまう。
「分かっていないようね? 私は、国家王国騎士なんですよ?
望めばあなたを恋の罪と称して、この手で逮捕することだって出来る、素晴らしい権力があるわ!!」
「いや、それ明らかに職権乱用ですから、そんなこと望まないで下さいよッ!!
と言うかーー恋の罪ってなんですかッ!?」
「フンッ!! まったく知らっばくれるのが上手いわね!!
ーーこの女狐めッ!!」
「アイズさん、それが言いたいだけでしょう!?」
「そんなことないわよ」
恥じるように乙女心と共に打ち出されたアイズの掌底が、ボフッと見知らぬ通行人をすかさず吹き飛ばす。
カップルらしき冒険者の男が、鼻血を咲かせながら煉瓦造でできた建物の外壁にめり込むのが見えた。
「キャー!! タケシがぁ!!」
「悪いカスミ、俺もうダメかも知れねえ……」
突如としてダメになったカップルの片割れを眺めて、ミントはその額を真っ青に青ざめさせる。
見ればアイズは、メリメリとその拳を握りしめて燃えている。
比喩ではなく、本気だった。
「どうしてアイズさんが、私に対して怒りを向けているのか分かりません!!」
「そりゃあそうよ!! 何故なら、私にもよく分からないわ!!」
「いや、そこは分かっておいてくださいよ!?
何故も分からないのに、追われている私の身にもなってください!!」
「強いて言うなら、ドロボー猫をやっつけるのは、この私ってことなのかしらね!!
マーキングしたのね? マーキングしたのよ!!」
(アイズさんの言っていることは、めちゃくちゃだ)
ともかくここは彼女を巻かなくては、魔道具作りに支障を来たしてしまうかも知れない。
そう感じたミントは、ふと走りながらターニャの姿を思い浮かべる。
(きっとターニャさんも今頃、頑張って魔道具の素材集めをしてくれている!!)
ーーなら、私がここで躓く訳にはいかないッ!!
「うぉおおおおおっ!! 頑張れアタシ~!!」
人混みを縫うように駆け抜け、曲がり角を突っ切っる。
(アイズさんに捕まる前に魔道具店に着くんだ!!
そして鍵をかけよう!!)
ふんすと鼻息を漏らして意気込みを見せたミントは、全力疾走で自分の魔道具店を目指す。
(ミント・ボンハーネット魔道具店の看板まで、もうすぐそこだ!!)
古ぼけた木材の1階建て家屋。
見慣れた射的場や、占い師の館を足早に通り過ぎると、満を持して見慣れた店舗が視界に飛び込む。
正面の扉にやっとの思いで手をかけ、工房も兼ねた室内に雪崩のように倒れこむ。
無数の魔導書型の入れ物が陳列された埃っぽい本棚が、主の帰還を静かに迎え入れる。
「ーーや、やった!! これでアイズさんを!!」
「はい捕まえた~!! つーかまえーぴぃーっ!!」
(最悪ダァー)
げっそりとした表情でアイズに首根っこを押さえられたミントは、渋いおっさんのような真顔でアイズに振り返って、改まって挨拶する。
「あ、アニョハセヨ?」
「あ~? ノウマク・サンマンダ・バザラダンカン!!」
アイズに担ぎ込まれたミントの魔道具制作は、こうしてアイズと言う謎の珍客を迎え入れるつつ、前途多難に満ちた始まりを告げてしまった。
(はぁ……ターニャさんは、今ごろ何しているんでしょうか……?)
そんなミントの心の声は、風に乗って以心伝心のようにターニャへと届く。
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