逆転機ニルヴァーシュ -朝斬りの夜明け-【バンダナコミック01】

ボス子ちゃま

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31話ー『謎めいた魔法機関車』

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 王都の北門入国口。
 そこには、魔導列車と呼ばれる魔法機関車が存在している。
 車両から二番目のボイラー室には、商業用に大量生産されたホムンクルスが二人ほど居座り、アクアライト鉱石で満ちた火室にそれぞれ木炭を投げ入れている。

「王都から朝霧海原に向かうなら、使うのはやっぱりこれだよな」

 魔導蒸気機関車ライアスは、王都から走っている無料の交通機関だ。
 北国に位置する隣国のヴィントヘルム帝国へと続いていて、海を渡って走ることのできるアクアラインの列車として、世界的にも珍しく有名な機関車の一つになる。
 せっせとスコップで投げ入れられる木炭は、「永遠の水源」とも言われるアクアライト鉱石とぶつかり、「バチッ」と火花を散らして大量の熱風を蒸気させていた。
 普通の水なら、燃焼させればさせるほど、加熱して消失した水分を補給する必要が出てくる。
 が、異世界産鉱石であるアクアライトに、その必要性は微塵もない。
 魔導戦機のエンジン駆動部に組み込まれたサンダライト鉱石や、脚部ブースターに内蔵されたファイアライト鉱石、及びエアロライト鉱石と同じ原理が働く。
 他の鉱石と同様に、半無限に水源を放出する効果があるその鉱石は、俺の“変わるくん”にも使われているほど産業的な部分で多いに活躍しているのが現状。
 動力タービンに送られている熱エネルギーは、木炭一つ投げ込むだけでも、大量の蒸気を発生させる。
 しかも水分を枯らすことがないので、汽車の運転に必要な業務がだいぶ少なくなった。
 熱エネルギーを煙突から水蒸気として排出しつつ、車輪の滑車を激しく回転させて前進して行くことができる乗り物だ。
 飛行機の両翼に組み込まれたターボエンジンなんかと、ほとんどよく似た構造の異世界産の機関車になっている。
 数多の分野で異世界産の資源が使われているこの王都では、魔法を筆頭に様々なダンジョン産取得生産物資を用いて、産業革命と言う名の科学技術がふんだんに組み込まれている科学的な異世界だ。

「探索できる期間は、ざっと数えても3日~4日だからな~」
 
 その間にミントは魔道具の考案に取り掛かり、俺の手により持ち帰られた素材を使い、さらに1週間ばかりを時間を制作へと費やす。
 そこからさらに宣伝の為に3日~4日を要する。
 それで、ちょうど2週間と言う期間になるが、この限られた時間で過密スケジュールをこなさなくてはならないので、徒歩で迎えるダンジョンフィールドよりかは、魔導機関車ライアスのような交通手段を使ったほうが手っ取り早く遠出ができる。
 ライアスの走行時速は、時速に換算して500km/h。
 王都の北門入国口から、直進500km/h北西に位置する朝霧海原までは、およそ約1時間もあれば到着する計算だ。

(これならば3日~4日と言う限られた期間を、フルに活用してダンジョン探索に費やすことができるし。
 往復時間の問題に関しても、ほとんどクリアしたも同然だ……)

 ーーしかし、他に気になる問題があるとすれば、

「マジで行く気だよ、この二人」

 乗車までに並んだ列の先頭から、ちょうどすぐの後方を一瞥する。
 そこには、さっきルナイトキャットで見かけた二人の姉妹が立っており、小さなリュックサックをぶら下げて、遠足気分で談笑に花を咲かしている。

(まぁ、どうせ行っても入場規制がかかるから、放っておいても大丈夫か……)

 冒険者レベル13の姉妹では、朝霧海原ステーションに到着したところで、潜水許可は降りないと思う。
 乗車口の手前まで歩くと、俺は背後の姉妹を無視して駅員の国家王国騎士から切符を貰う。

「はいよ、ぼうや。降りたい駅に着いたら、好きに降りて良いからな」

 車掌さんらしき帽子とスーツを身に着けた駅員国家王国騎士から、切符を貰うと俺は目の前で止まっている魔導機関車のステップに足をかける。
 1両あたりの長さは、25メートル。
 それが16両編成だから、全長は400メートルにもなる蒸気機関車だ。

「日本で例えるなら、ほとんど新幹線と同じ長さと規模だよな」

 そんなことを呟きながら、俺は乗車してすぐ、木製の取っ手に手をかける。
 棒連結器のちょうど上にあたる車両の床の両端には、無数の個室が並んでいてドアが閉められている。
 適当に左側の取っ手を掴み、木製の扉を開いて4号車の個室に入る。
 ちょうど目と鼻の先にあった、手前側の個室になる。
 中の座席は、どれもコンパートメント席と言って、一つ一つが仕切り窓で企てられた簡素な個室だ。
 とは言え天井がない訳ではなく、どこもプライバシーに配慮された設計となっている。

「4号車の座席数は、18かぁ……」

 到着するまでの1時間、特にこれと言ってやることもないので、暇つぶしがてら個室から顔を出して座席数を数えていた。

「むふっ、もうすぐアタシたちの偉大なる航路が開かれるわよ!!」

「グランドライン編に突入ですね!! お姉ちゃん!!」

 そう言って後ろに並んでいたパティとスコルの二人の姉妹は、ちょうど俺の個室の反対側の個室へと入りこんで行く。

(その航路、たぶん行き止まりだぞ?)

 グランドラインに入る前に、散って行った船の数を知らんのか?
 そう心の中でツッコミを入れた俺は、キョロキョロとその後も客席に入って行く人たちの様子を眺めていた。

(ん? 何だあの二人?)

 そうしていると、パティとスコルが入った個室の左隣に、見知らぬ黒づくめの人物たちが歩いて行く。
 その様子があまりにも違和感を覚えたので、俺は首を傾げて考えこむ。

(妙だな? 今は王歴2031年の6月1日の筈なのに……)

 それの何が妙かと言えば、着ている服装が変なのだ。
 俺の死に戻り転生がスタートしてから2日目の朝。
 つまり季節は“夏”である。

(それなのに黒服の長袖?)

 しかも頭には、カラスの形をした黒いシルクハットまで被っている。
 何から何まで黒づくめ。
 足元の靴にしても、すべてが黒い。
 黒は、最も太陽光を吸収しやすく、すべての波長の光を呑み込んでしまう色として知られている。

(とても夏場に着るような格好じゃない……)

 冷却魔法がなければ、異世界だって夏は夏だ。
 外は、それなりの温度があるし、6月ともなれば気温は30℃以上を上回る。
 季節がないのは、それこそダンジョンぐらいな物だ。
 ダンジョンフィールドには、四季と言う物が存在しない。
 だからこそ、略称をダンジョンとも呼ばれたりするその場所では、夏場であっても氷の世界が待ち受けていたりする。
 それらのすべての現象は、その場所だけ四季がないからこそ起こる現象なのだ。
 気になって部屋の入口から男たちの様子を伺う。
 黒づくめの男たちは見たところ二人組で、一人は灰色の長髪に細身の体躯。
 もう一人は、ずんぐりとした体型にスキンヘッド頭の男だ。
 俺は二人に気付かれないように、個室の裏側に隠れて聞き耳を立てる。

「兄貴、今日でこの魔導列車も終わりですね?」

「あぁ、例のブツの取引が済み次第。
 この魔導列車ごと乗客を爆破しろとのボスの命令だ。
 このブツがヤツらの手に渡れば、それだけで隣国のヴィントヘルムと、次の戦争の口実と火種を作れるだろうからなぁ……」

「ーー証拠隠滅……ってヤツですね?」

「あぁ、世界で最も最強クラスのバースデージョブを有した、籠の目の冒険者だ……。うちのボスは優秀だよ」

(なッ……!? 籠の目の冒険者だとーーッ!?)

 7年前の事件の手掛かりが、こんな所に転がり込むとは。

(ーーしかし、どうする?)

 ヤツらを今すぐにでも取っちめてやりたいのは山々だが、ここで迂闊に手を出せば俺の正体がバレかねない。
 ミントの作ってくれた魔導具“変わるくん”で変装をして少年の姿にはなっているが、籠の目の冒険者は7年前の事件の首謀者だ。
 少しでも正体がバレるような真似をすれば、俺は必ず殺されるだろう。

(死亡トリガーの回数制限が分からない以上、試しに死んでみるなんてバカな真似もできないしな……ッ!!)

 死に戻りをしているからと言って、迂闊に死んではいられない。
 ひょっとしたら、この能力にはライフストックのような制限があって、それを消費して復活しているスタイルだったら、俺は次に死んだら復活できない可能性だって残されている。
 それを思えば、ここで派手な動きはできない。

(ーークソッ!!)

 とは言え、どうする!?
 ここでヤツらをみすみす取り逃がすのか!?

(いや、それはできない。俺の探偵としての性が疼いちまう!!)

 死に戻り転生がスタートしてから、ようやく初めて掴んだ籠の目の冒険者の貴重な情報だと言うのに……ッ!!

(それに気になるのは、この魔導列車を爆破すると言うワードだ……。
 例のブツの取引とは、一体なんなんだ?
 どうしてそれ・・を渡すと、隣国のヴィントヘルムと戦争になる?)

 隣国のヴィントヘルム帝国は、この世界で前世の記憶を取り戻してから、俺が産まれ育った故郷の国でもある。
 そんな国を戦争になんて、絶対に巻き込んでたまるかよ……ッ!!

(ーーともかくッ!! 俺がなんとかしてその例の取引とやらを、その前に阻止しなくては……ッ!!)

 ーー乗車1分。
 不穏な黒い影が忍ぶ、謎めいた魔導機関車ライアスは、爆破予告をした二人の黒づくめの危険な男たちを乗せ、汽車の滑車音をガタゴトと立てて走り始めた。
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