逆転機ニルヴァーシュ -朝斬りの夜明け-【バンダナコミック01】

ボス子ちゃま

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30話ー『朝霧海原』

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「やっぱりミントのあの告白が死亡トリガーか……」

 チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえる頃、俺はベッドの上で目を覚ました。
 胴体を起こして隣のベッドに視線を向けると、そこにはすやすやと寝息を立てるミントの姿が見受けられる。
 時刻は、既に朝の6時半。
 天井のはりをボウと眺めて、

「何とか朝を迎えることが出来たか……」

 結局これで死亡のトリガー原因は確定した。
 そして今は、それを難なく回避してみせた状況になる。

「結局、犯人は分からずじまいだけど、一旦このことは忘れるべきか……」

 そもそもの話、俺には魔道具店の再建計画と言う、やるべきことがこの2週間でいっぱいだ。

「まずは素材集めの為に、向かうダンジョンフィールドを決めないと……」

 そう言って俺は、アイズから貰った革袋をミントの枕元に置いてやる。
 それからゆっくりと立ち上がって、2階最奥の部屋を後にした。



「で、結局アンアンしたんですか?」

 階段を降りてすぐ、目つきの悪い店員さんからそう言われて話しかけられる。

「そんな訳ないだろ?」

「やっぱりやったんでしょう?」

「だからやってないって、なんでそう思うんだよ?」

「だってアタシから目を背けてますし」

 そう言われて俺の心臓は、どきりと跳ねる。
 目を背けていなかったと言えば、嘘になる。
 ただ、別にミントとしたかしないかで言えば、昨晩に限ってはしていない。

(自分を一度殺して来た相手を間近で見るって言うのは、やっぱ抵抗感があるよな……)

 グレゴリオの時もそうだったけど、再会するのは心臓に悪い。
 そう思って俺はため息を吐き出し、先に朝食を済ませようと、隣接されているフードコートへと足を踏み入れる。
 ーー店内の様子は、早朝だと言うのに、無数の冒険者でごった返している。

「まるでネカフェや漫画喫茶みてえな光景だ……」

 黙々とジャム付きのトーストを頬張る者から、新聞紙を嗜みつつホットコーヒーの入ったマグカップを傾ける者まで。
 そこには無数の冒険者が、既に談笑を交えながら着席している光景が存在した。
 二日酔いの為か、座席からは転がり落ち、酔い潰れて寝てしまっているオッサンを足で跨ぐ。
 ちょうどその時、壁際からすこし離れたテーブル席に目が向いた。

「ふふーん!! ようやくアタシたちのレベルが13になったわ!!」

「ええ!! やりましたよお姉ちゃん!!
 私たちマジ無敵って感じじゃないです!?」

 そう言って二人の姉妹らしき少女が、ギルドのモーニングに手をかけながら明るい笑みを浮かべていた。
 一人は、青目青髪に鬼のような一本角を生やした剣士職の少女。
 もう一人は、赤目赤髪に鬼のような二本角を生やした魔法職の少女だ。
 二人は揃って足元に小さなリュックサックを降ろしており、見なくとも駆け出しの冒険者であることは、一目瞭然だった。
 気になったのは、その赤目赤髪の「お姉ちゃん」と言われた少女のツリ目。
 妹の瞳とは異なり、明らかに見覚えのある瞳の形をしているように思える。

「あ、アーシャ!?」

 突然のことに、俺は口をパクパクと開閉してしまう。
 どう見ても子どもの頃のアーシャにそっくりな少女が、そこには居たのだった。



「ん? お姉ちゃん。
 なんかこの子が、ずっと横から私たちのことを見て来てますよ?」

「ふふん、それはねスコル。
 きっとそこのボーイは、アタシたちのことをエロい目で見ているのよ?」

「そうなんですか!? お姉ちゃん!?
 流石はパティお姉ちゃん、なんでも知ってますねえ!!」

「いや~!! そんなことは、ないない!!」

 そう言ってパティと呼ばれた姉のほうが、顔の前でぶんぶんと手を振って謙遜する。
 それを見ている妹のスコルが、顔を真っ赤に染めて興奮している様子だった。

(まったくちげえ……!!)

 思い上がりも、ここまで来ると甚だしい。
 こほん、と咳払いを一つ払い、俺は試しに少女らに話しかけてみることにした。

「君たちアーシャって言う女の子に心当たりはないか?」

「そうね、アーシャね……。
 ボーイは、ついにそこまで辿り着いてしまったのね?」

「なに!? やっぱりアーシャを知っているのか!?」

「ふふーん、アタシはなんでも知っているわ!!
 アーシャ……それはドラクエで、エッチな下着を身に着けている女のことね!!」

「いや、それはアーシャだし、ドラクエじゃなくてFFじゃねえの?」

 こいつ……なんでもは知らねえな。
 明らかに知ったかぶりをしているみたいだ。
 アーシャが子どもの頃は、ここまでバカではなかった気がする。
 やっぱり人違いか?

(仮に俺みたいにアーシャが転生して生きていたとして……。
 こんなバカみたいな性格で談笑しているとは、流石に考えづらいからなぁ……)

「ーー悪い。俺の人違いだ。
 ちょっと昔の友人に似ていたもんで……」

 そう言って俺は、隣の席に腰を落ち着ける。

(それにしても似ているなぁ~)

 ウエイターがテーブル席に運んで来た、朝食の苺ジャムが乗ったトーストに手をかけつつ、俺は二人の姉妹の様子を視線だけで伺っていた。
 二人の会話が耳に入って来て、まるでラジオを聞きながら朝食を取っているみたいな気分だった。
 陶磁器のカップに注がれたブラックコーヒーに、砂糖とミルクを注いで色味をつけると、ティースプーンを用いて色味が馴染むまでよくかき混ぜる。
 仕上がったカフェオレを傾けて口に運ぶと、隣からは明るい談笑が聞こえて来ていた。

「ところでお姉ちゃん、次はどこのダンジョンフィールドに向かいますかぁ?」

 尋ねた妹のスコルは、トーストにチーズとハムを挟んだホットサンドを食しながら、もぐもぐと咀嚼を繰り返して姉の意志決定を伺っている。

「うーん、そうねぇ~!! まぁレベルが13になったことだし、次は朝霧海原なんて良いかも知れないわね!!」

 そう言ってココア入りのマグカップを傾けた姉のパティの隣で、俺は思わず飲んでいたカフェオレを吹き出しそうになった。
 ゲホゲホとむせ返って、鼻に水分が逆流して涙が出そうになるのを必死に堪える。

(あ、朝霧海原だって!?)

 それって、必要冒険者レベル519の水中エリアのことじゃないか!!

(無理無理!! そんなのレベル13じゃ無理に決まってる!!)

「おぉ~!! 流石は、パティお姉ちゃんですぅ~っ!!
 なんでも知ってる~!! ふぅ~!!」

(そいつなんでも知らねえよ!! 知ったかぶりだよ、気がつけよ!!)

 心の中で冷静にツッコミを入れつつ、しかしながらそれは名案だと俺は思う。

(朝霧海原って言えば、確か王都から北に位置する海のダンジョンフィールドだよな……)

 俺も昔、行ったことはあるけど、結局アレは見つけられなかった。

「朝霧海原って言えば、秘密のダンジョンがあるって言う噂で有名な場所なのよね!!」

「ほぇ~、そうなんですか?」

「えぇ、そうよ。水の都のアトランティス、海底のダンジョンフィールドの奥深くに、その秘密のダンジョンは存在するって言われている。
 今のアタシなら、ひょっとしたら見つけられるかも知れないわ!!
 なんと言っても、アタシたちーー!!」

「おっ!! もうレベル13ですからね!!」

「そういうこと!!」

(ーーどこが、そういうことなんだ!?)

 必要冒険者レベル519以上になるのが、その水の都のアトランティスと呼ばれる、秘密のダンジョンフィールドだぞ!?
 レベル13の冒険者が行ったところで、普通に考えて自殺行為だろう!?

(それとも本気で行けるのか?)

 そんなことがあるのか?

(ーーけど、俺も行ってみようかな……)

 水の都アトランティス……。

(魔導戦記を使った海底ダンジョン探索に……)

 そう内心で呟くと、俺は朝食を済ませて席を立った。
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