逆転機ニルヴァーシュ -朝斬りの夜明け-【バンダナコミック01】

ボス子ちゃま

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11話ー『四度目の転生』

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「ーーあっ? 死んだよな?」

 そんなすっとぼけた一言を放ちながら、俺の意識は再び覚醒した。

「ターニャさん、到着しましたよ。
 ここが竜宮王国ウェブレディオの城門前になります」

 そう言って見知ったじいさんが、馬車の運転席から首を回してにこりと微笑む。

「えっ?」

 と言う、まだ自分の現状を理解しきれていない、か細い声。
 そんな声の後、じいさんは手を伸ばして何やら求めて来た。
 ペチッ、て手を置き、俺は首を傾げる。
 すると御者のじいさんは、目を伏せながら緩慢な動作で首を振る。

「いくら可愛いからって、それはダメです」

 固く決心していたような声音の後、御者のじいさんはこほんと席払いを入れる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

 その言葉に御者のじいさんはコクリと頷くと、

「支払いの準備が整ったら声かけてね?」

 首を前へと振り向かせると、鼻歌混じりに青空を見上げ始める。

(一体これどういう事だ?
 俺は、確かにグレゴリオの機体に背後から撃ち抜かれて……)

 そう、それで死んだ筈だ。
 胸元に青薔薇のコサージュが付いた、白いフリフリスカートのドレスに身を包んでいる俺は、自分の身体を弄って傷跡が無いかを確かめる。

(ない……どこにも)

 知っている限りの感覚が、再び蘇る。

(俺って、また転生したのか?)

 そうとしか言いようがない感覚。
 一つだけ違うことがあるとすれば、前回目覚めた地点とは、若干だが異なると言うことだ。
 それに疑問は、他にもある。

(俺って死んで転生する時は、未来に転生するんじゃないのか?)

 少なくとも一回目は、そうだった。
 王歴2024年の12月31日にアランと籠の目の冒険者に殺され、王歴2031年の6月1日に転生した。
 そして、その当日にグレゴリオに襲われ、俺は再び死んだ。
 それから目を覚ますと、今度は2031年の6月1日。
 それも馬車から降りる過去のところまで遡っている。
 このことから考えられることは、

(ひょっとして俺って、死に戻りしてるのか?)

 異世界ファンタジーなどの創作物で読んだことがある。
 記憶を継承した状態で、死んでから過去へと戻ってタイムリープする能力だ。
 一度目、あの7年前の事件で殺された日、見知らぬ人物の声が聞こえた気がした。

(ひょっとして、その時?)

 最早そうとしか考えられない。
 あの声の主が誰かは分からないが、今の俺には“死に戻り”の能力が備わっている。

(そう言えばあの時、言っていた気がする)

 この事件を解き明かす為の力を君に授ける。
 その代わり、世界を君に救って欲しい。
 もし、君が三度目の生を願うならーー。

(あの時の言葉が確かだとするなら、事件を解き明かす為の力って言うのは、さてはこの“死に戻り”の能力のことを言ってるんじゃないのか?)

 そんな不確かな予感が胸中でざわつく。
 世界を救って欲しい。
 つまりそれは、この世界がヤバいってことだ。
 どうヤバくて、なにを救えば良いのかは分からない。
 だけど、一つだけ言えることがある。

(確かにこの能力があれば、7年前の事件を解き明かすことが出来るかも知れない)

 死んでも何度でもやり直せる能力。
 それが“死に戻り”なのだから。

(試してみるだけの価値はある)

 今はまだ分からないことまみれだけど、それを分かろうとしていく過程にこそ意味がある。
 ーーなら、やるっきゃねえよな!!

「じいさん!! 目的地の変更は可能か!?」

 俺には既に、この先で何が待ち受けているのかを知っている。
 待っているのは、この身の破滅。
 ならば俺は、その破滅フラグを踏まないようにしながら、新しい人生を歩んで事件の謎を解き明かせば良い!!

(ーー知った上で攻略に望むんだッ!!)

 ある意味、最強のチート能力だッ!!
 二度目の転生の直後、俺はぴえんに鑑定魔法を使われたことで、恐らくは名前があの7年前の事件の関係者に知れ渡ったのだ。
 そしてグレゴリオが、俺を殺しに現れた。

(分かっているなら、対策は簡単!!)

 要するにぴえんに鑑定させなければ良い。
 その為には、まずは一度隣国のヴィントヘルム帝国を経由してーー!!

「ダメですよ、ターニャさん。
 そうやって支払いの準備を誤魔化そうとしても」

 一人でこれからの入国攻略に舞い上がっていたところ。
 御者のじいさんは、首を回してため息を吐いた。

「変更ってどこに?
 向かうのは良いけど、お金はちゃんとあるの?」

(そう言われてみれば、そうだった……)

 俺って、金がないんだった……。
 ポケットの中をまさぐると、出てきたのは7年前に貰った麻袋。
 ホブゴブリンを倒した際にアランから貰った、たった10枚ぽっちの銀貨である。

「ちなみに支払いっていくらぐらい?」

 このターニャと言う少女が、そもそもどこからやって来たのかは分からない。
 隣国のヴィントヘルムから王都までの道のりで、大体馬車なら10銀貨ぐらいだった気はする。

「ちょうど銀貨10枚ですよ」

 無慈悲にも告げられるじいさんの言葉に、俺はがっくりと肩を落とした。

「まけて貰えることって出来ないか?」

「ダメですねえ。
 可愛さに負けたら、この商売は続けられないですから」

「そこを何とか!!」

「ダメな物は、ダメですよターニャさん」

 頑なに首を振るじいさんに、俺は諦めてしぶしぶ麻袋を受け渡した。

「毎度あり。またのご入用を」



「はぁ~。俺ってなんで金がねえのかなぁ……」

 とほほと言うため息を吐き捨てながら、俺は再び憲兵兄弟の前に立っていた。

「嘘でもついておけば良かったかな~」

 お金がないなんて、じいさんに言わなければ良かった。
 そうしたら、隣国のヴィントヘルムまで馬車を走らせてくれたかも知れない。

「まぁ、もう手遅れだけど……」

 どうせ問いかけられる言葉は、分かっている。

「ヘイ、ブラザー。この竜宮王国ウェブレディオに入国する為には、ICチップの確認が必要になるぜ?」
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