11 / 50
11話ー『四度目の転生』
しおりを挟む
「ーーあっ? 死んだよな?」
そんなすっとぼけた一言を放ちながら、俺の意識は再び覚醒した。
「ターニャさん、到着しましたよ。
ここが竜宮王国ウェブレディオの城門前になります」
そう言って見知ったじいさんが、馬車の運転席から首を回してにこりと微笑む。
「えっ?」
と言う、まだ自分の現状を理解しきれていない、か細い声。
そんな声の後、じいさんは手を伸ばして何やら求めて来た。
ペチッ、て手を置き、俺は首を傾げる。
すると御者のじいさんは、目を伏せながら緩慢な動作で首を振る。
「いくら可愛いからって、それはダメです」
固く決心していたような声音の後、御者のじいさんはこほんと席払いを入れる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
その言葉に御者のじいさんはコクリと頷くと、
「支払いの準備が整ったら声かけてね?」
首を前へと振り向かせると、鼻歌混じりに青空を見上げ始める。
(一体これどういう事だ?
俺は、確かにグレゴリオの機体に背後から撃ち抜かれて……)
そう、それで死んだ筈だ。
胸元に青薔薇のコサージュが付いた、白いフリフリスカートのドレスに身を包んでいる俺は、自分の身体を弄って傷跡が無いかを確かめる。
(ない……どこにも)
知っている限りの感覚が、再び蘇る。
(俺って、また転生したのか?)
そうとしか言いようがない感覚。
一つだけ違うことがあるとすれば、前回目覚めた地点とは、若干だが異なると言うことだ。
それに疑問は、他にもある。
(俺って死んで転生する時は、未来に転生するんじゃないのか?)
少なくとも一回目は、そうだった。
王歴2024年の12月31日にアランと籠の目の冒険者に殺され、王歴2031年の6月1日に転生した。
そして、その当日にグレゴリオに襲われ、俺は再び死んだ。
それから目を覚ますと、今度は2031年の6月1日。
それも馬車から降りる過去のところまで遡っている。
このことから考えられることは、
(ひょっとして俺って、死に戻りしてるのか?)
異世界ファンタジーなどの創作物で読んだことがある。
記憶を継承した状態で、死んでから過去へと戻ってタイムリープする能力だ。
一度目、あの7年前の事件で殺された日、見知らぬ人物の声が聞こえた気がした。
(ひょっとして、その時?)
最早そうとしか考えられない。
あの声の主が誰かは分からないが、今の俺には“死に戻り”の能力が備わっている。
(そう言えばあの時、言っていた気がする)
この事件を解き明かす為の力を君に授ける。
その代わり、世界を君に救って欲しい。
もし、君が三度目の生を願うならーー。
(あの時の言葉が確かだとするなら、事件を解き明かす為の力って言うのは、さてはこの“死に戻り”の能力のことを言ってるんじゃないのか?)
そんな不確かな予感が胸中でざわつく。
世界を救って欲しい。
つまりそれは、この世界がヤバいってことだ。
どうヤバくて、なにを救えば良いのかは分からない。
だけど、一つだけ言えることがある。
(確かにこの能力があれば、7年前の事件を解き明かすことが出来るかも知れない)
死んでも何度でもやり直せる能力。
それが“死に戻り”なのだから。
(試してみるだけの価値はある)
今はまだ分からないことまみれだけど、それを分かろうとしていく過程にこそ意味がある。
ーーなら、やるっきゃねえよな!!
「じいさん!! 目的地の変更は可能か!?」
俺には既に、この先で何が待ち受けているのかを知っている。
待っているのは、この身の破滅。
ならば俺は、その破滅フラグを踏まないようにしながら、新しい人生を歩んで事件の謎を解き明かせば良い!!
(ーー知った上で攻略に望むんだッ!!)
ある意味、最強のチート能力だッ!!
二度目の転生の直後、俺はぴえんに鑑定魔法を使われたことで、恐らくは名前があの7年前の事件の関係者に知れ渡ったのだ。
そしてグレゴリオが、俺を殺しに現れた。
(分かっているなら、対策は簡単!!)
要するにぴえんに鑑定させなければ良い。
その為には、まずは一度隣国のヴィントヘルム帝国を経由してーー!!
「ダメですよ、ターニャさん。
そうやって支払いの準備を誤魔化そうとしても」
一人でこれからの入国攻略に舞い上がっていたところ。
御者のじいさんは、首を回してため息を吐いた。
「変更ってどこに?
向かうのは良いけど、お金はちゃんとあるの?」
(そう言われてみれば、そうだった……)
俺って、金がないんだった……。
ポケットの中をまさぐると、出てきたのは7年前に貰った麻袋。
ホブゴブリンを倒した際にアランから貰った、たった10枚ぽっちの銀貨である。
「ちなみに支払いっていくらぐらい?」
このターニャと言う少女が、そもそもどこからやって来たのかは分からない。
隣国のヴィントヘルムから王都までの道のりで、大体馬車なら10銀貨ぐらいだった気はする。
「ちょうど銀貨10枚ですよ」
無慈悲にも告げられるじいさんの言葉に、俺はがっくりと肩を落とした。
「まけて貰えることって出来ないか?」
「ダメですねえ。
可愛さに負けたら、この商売は続けられないですから」
「そこを何とか!!」
「ダメな物は、ダメですよターニャさん」
頑なに首を振るじいさんに、俺は諦めてしぶしぶ麻袋を受け渡した。
「毎度あり。またのご入用を」
★
「はぁ~。俺ってなんで金がねえのかなぁ……」
とほほと言うため息を吐き捨てながら、俺は再び憲兵兄弟の前に立っていた。
「嘘でもついておけば良かったかな~」
お金がないなんて、じいさんに言わなければ良かった。
そうしたら、隣国のヴィントヘルムまで馬車を走らせてくれたかも知れない。
「まぁ、もう手遅れだけど……」
どうせ問いかけられる言葉は、分かっている。
「ヘイ、ブラザー。この竜宮王国ウェブレディオに入国する為には、ICチップの確認が必要になるぜ?」
そんなすっとぼけた一言を放ちながら、俺の意識は再び覚醒した。
「ターニャさん、到着しましたよ。
ここが竜宮王国ウェブレディオの城門前になります」
そう言って見知ったじいさんが、馬車の運転席から首を回してにこりと微笑む。
「えっ?」
と言う、まだ自分の現状を理解しきれていない、か細い声。
そんな声の後、じいさんは手を伸ばして何やら求めて来た。
ペチッ、て手を置き、俺は首を傾げる。
すると御者のじいさんは、目を伏せながら緩慢な動作で首を振る。
「いくら可愛いからって、それはダメです」
固く決心していたような声音の後、御者のじいさんはこほんと席払いを入れる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
その言葉に御者のじいさんはコクリと頷くと、
「支払いの準備が整ったら声かけてね?」
首を前へと振り向かせると、鼻歌混じりに青空を見上げ始める。
(一体これどういう事だ?
俺は、確かにグレゴリオの機体に背後から撃ち抜かれて……)
そう、それで死んだ筈だ。
胸元に青薔薇のコサージュが付いた、白いフリフリスカートのドレスに身を包んでいる俺は、自分の身体を弄って傷跡が無いかを確かめる。
(ない……どこにも)
知っている限りの感覚が、再び蘇る。
(俺って、また転生したのか?)
そうとしか言いようがない感覚。
一つだけ違うことがあるとすれば、前回目覚めた地点とは、若干だが異なると言うことだ。
それに疑問は、他にもある。
(俺って死んで転生する時は、未来に転生するんじゃないのか?)
少なくとも一回目は、そうだった。
王歴2024年の12月31日にアランと籠の目の冒険者に殺され、王歴2031年の6月1日に転生した。
そして、その当日にグレゴリオに襲われ、俺は再び死んだ。
それから目を覚ますと、今度は2031年の6月1日。
それも馬車から降りる過去のところまで遡っている。
このことから考えられることは、
(ひょっとして俺って、死に戻りしてるのか?)
異世界ファンタジーなどの創作物で読んだことがある。
記憶を継承した状態で、死んでから過去へと戻ってタイムリープする能力だ。
一度目、あの7年前の事件で殺された日、見知らぬ人物の声が聞こえた気がした。
(ひょっとして、その時?)
最早そうとしか考えられない。
あの声の主が誰かは分からないが、今の俺には“死に戻り”の能力が備わっている。
(そう言えばあの時、言っていた気がする)
この事件を解き明かす為の力を君に授ける。
その代わり、世界を君に救って欲しい。
もし、君が三度目の生を願うならーー。
(あの時の言葉が確かだとするなら、事件を解き明かす為の力って言うのは、さてはこの“死に戻り”の能力のことを言ってるんじゃないのか?)
そんな不確かな予感が胸中でざわつく。
世界を救って欲しい。
つまりそれは、この世界がヤバいってことだ。
どうヤバくて、なにを救えば良いのかは分からない。
だけど、一つだけ言えることがある。
(確かにこの能力があれば、7年前の事件を解き明かすことが出来るかも知れない)
死んでも何度でもやり直せる能力。
それが“死に戻り”なのだから。
(試してみるだけの価値はある)
今はまだ分からないことまみれだけど、それを分かろうとしていく過程にこそ意味がある。
ーーなら、やるっきゃねえよな!!
「じいさん!! 目的地の変更は可能か!?」
俺には既に、この先で何が待ち受けているのかを知っている。
待っているのは、この身の破滅。
ならば俺は、その破滅フラグを踏まないようにしながら、新しい人生を歩んで事件の謎を解き明かせば良い!!
(ーー知った上で攻略に望むんだッ!!)
ある意味、最強のチート能力だッ!!
二度目の転生の直後、俺はぴえんに鑑定魔法を使われたことで、恐らくは名前があの7年前の事件の関係者に知れ渡ったのだ。
そしてグレゴリオが、俺を殺しに現れた。
(分かっているなら、対策は簡単!!)
要するにぴえんに鑑定させなければ良い。
その為には、まずは一度隣国のヴィントヘルム帝国を経由してーー!!
「ダメですよ、ターニャさん。
そうやって支払いの準備を誤魔化そうとしても」
一人でこれからの入国攻略に舞い上がっていたところ。
御者のじいさんは、首を回してため息を吐いた。
「変更ってどこに?
向かうのは良いけど、お金はちゃんとあるの?」
(そう言われてみれば、そうだった……)
俺って、金がないんだった……。
ポケットの中をまさぐると、出てきたのは7年前に貰った麻袋。
ホブゴブリンを倒した際にアランから貰った、たった10枚ぽっちの銀貨である。
「ちなみに支払いっていくらぐらい?」
このターニャと言う少女が、そもそもどこからやって来たのかは分からない。
隣国のヴィントヘルムから王都までの道のりで、大体馬車なら10銀貨ぐらいだった気はする。
「ちょうど銀貨10枚ですよ」
無慈悲にも告げられるじいさんの言葉に、俺はがっくりと肩を落とした。
「まけて貰えることって出来ないか?」
「ダメですねえ。
可愛さに負けたら、この商売は続けられないですから」
「そこを何とか!!」
「ダメな物は、ダメですよターニャさん」
頑なに首を振るじいさんに、俺は諦めてしぶしぶ麻袋を受け渡した。
「毎度あり。またのご入用を」
★
「はぁ~。俺ってなんで金がねえのかなぁ……」
とほほと言うため息を吐き捨てながら、俺は再び憲兵兄弟の前に立っていた。
「嘘でもついておけば良かったかな~」
お金がないなんて、じいさんに言わなければ良かった。
そうしたら、隣国のヴィントヘルムまで馬車を走らせてくれたかも知れない。
「まぁ、もう手遅れだけど……」
どうせ問いかけられる言葉は、分かっている。
「ヘイ、ブラザー。この竜宮王国ウェブレディオに入国する為には、ICチップの確認が必要になるぜ?」
10
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる