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2話ー『一発逆転の大仕事』
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「よぉノボル!! そっちのホブゴブリンはどうだった?」
「こっちは、ホブゴブリンが大量よノボル!!」
二人の冒険者が、遠巻きから俺に手を振って笑う。
一人は、燃えるように逆立った空色の髪の青年。
そしてもう一人は、籠の目と呼ばれる赤い瞳を有した、炎髪スーパーロングの紅一点。
ディートハルト大陸の東部に位置する、ここ王都首都マナガルム。
その第三円陣と称して建てられた三つの魔物避けの外壁が、都市部をぐるりと囲った楕円形の超巨大城下町。
その中でも一番外側に位置する、この第三内地ヨルのエリアで、俺たち暁の旅団の三人はそれぞれ仕事を終えて再会を果たしていた。
「あぁ!! コッチの方も余裕だったよ!!
ついでにアランにもしっかりと色を付けて貰って来たところだ!!」
「へぇ~!! あのアランのオッサンが色を付けてくれるなんて珍しいじゃんかぁ!!」
「これでアタシらの活躍がどんどん王都に蔓延るわね~!!
地位も名声も富も独占状態な訳よッ!!」
「ーーあぁ!! まぁ、そういう事だな!!」
コボルト狩りに精を出して上機嫌そうな笑みを浮かべる二人組。
その内の一人ーーカイト・スヴェンソンが、その自慢の青髪をふんわりと掻いて空を眺める。
「まっ、僕たちにかかれば朝飯前でしょ!!」
たるんだお腹に優しげなタレ目の瞳。
金色の留め具がついた緑色のムートンジャケット。
その襟元に白いストールを巻いたカイトの姿は、一見すれば立派な紳士のそれである。
しかしながらその背中には、貴族風の出で立ちに不釣り合いなロングソードと大盾が背負われており。
上品そうな格好の中には、しっかりと騎士としての大胆さが刻み込まれているように感じられる。
身長160センチ。体重80キロ。
クラスは、守護騎士。
ーー友人のカイト・スヴェンソンだ。
「カイトの言う通りね~!!
コボルト狩りなんて、ウチら暁の旅団にかかれば楽勝ベイベーって言うかさぁ~!!」
そんなカイトに同調して腰に手を当てているのは、同じく俺の幼馴染であるアーシャ・リクライン。
真紅に染まったツリ目の赤い瞳が特徴的な少女である。
炎髪のスーパーロングの髪が、首元に巻かれたマフラーと同時に寒空の下で風に靡く。
胸元が少しだけ押し上げられた肌色のチュニック。
その上から朱色のパーカーローブを羽織った、いかにも魔術師のようなスタイルの魔法使い。
手には、大きなルビーの宝石を詰め込んだ木の杖を。
そして足元には、黒色のオーバーニーソックスと栗色のローファーを着こなしている。
チェック柄のミニスカートの狭間から見える白い柔肌の黄金比率は、ピッタリ7:3の絶対領域。
色気たっぷりのムチムチとした太ももが、どこか退屈そうに揺れ動く。
きっとその動き通り内心で退屈しているのだとすぐにも分かる。
身長165センチ。体重は50キロ。
クラスは、魔法使い 。
ーー俺の婚約者のアーシャ・リクラインだ。
二人は俺がこの世界で、前世の記憶を取り戻した頃からの古い付き合いになる。
「しっかし最近は、どれも受けるクエストは退屈ね~」
「まぁ、ボクたち三人が強すぎるんだよアーシャ。
この辺りの魔物じゃ、正直ボクらぐらいじゃ雑魚ばかりになってしまったからね」
欠伸をかますと、つまらなそうに後頭部に手を回したアーシャを眺めて。
カイトはポリポリとその頬を掻いて苦笑いを浮かべる。
「そんな二人に面白い話を持って来たぜ?」
ニヒッ、と笑って俺は懐から麻袋を取り出す。
さっき換金して来たばかりの報酬をアーシャへと投げ渡すと、その退屈そうにたるんだ表情を紐解いてやる。
「おっと!!」
「ナイスキャッチ、アーシャ」
慌てて麻袋を前のめり気味にキャッチしたアーシャに。
眠たげな視線を送りながらカイトが答える。
アーシャは収納魔法を使ってアイテムストレージと呼ばれる別次元の空間に麻袋をしまうと、ムッとした表情で片眉を潜めた。
「何よ? 面白い話って?」
「そうよぉ。何よぉ面白い話って、ノボルくん」
アーシャの言葉をなぞり、謎にオネエ言葉でカイトもムッと顔をしかめる。
昼下がりの商店街には、まだ無数の人混みが見受けられる。
最近はどこの国でも「多様性」とやらが進んでいるらしく。
他種族間での交友が盛んになっていると聞く。
目覚ましい程に発展を遂げたこの王都マナガルムの街並みには、今や日本人としての記憶とは、だいぶかけ離れた者達で溢れ返っていた。
コツコツと足早に歩く異種族たちの視線が、通り過ぎ様に俺たち三人を見つめていく。
時にザワザワと談笑に華を咲かせている彼ら彼女らは、そうして「人混み」と言う名の雑踏風景の一部と化した。
そんな街並みの路面を歩いているのは、何も人類ばかりとは限らない。
なにせここは、異世界だ。
エルフやリザードマンを筆頭にした人外と呼ばれる者たちが多く滞在している。
中には、ウサ耳やネコ耳を生やした獣人族の者たちが多い。
その中でも人類はかなり希少、それに俺と同じ「黒髪」の者となれば余計に目立って珍しい。
どいつこいつも、居るのは赤やら黄緑やら黄色やら紫やら。
バリエーションに富んだ髪色や髪型をしていて、人っ子一人と同じ格好の者は少ない印象を受ける
頭髪は男ならモヒカンやツーブロック。
それにドレッドヘアやロン毛と言った、どこか世紀末風の髪型が多い感じがする。
女であるならツインテールやポニーテールを筆頭に。
あとはサイドテールやスーパーロングなど。
こちらもかなり個性を発揮した身なりの者が多い印象だ。
ーーもちろん、格好にしたって中世的だ。
そこには日本人らしさなど欠片もない。
鎧を着て剣を持つ騎士風の者たちから始まり。
果てには、ローブを羽織り杖を所持する魔法使い風の者たち。
踊り子風の者たちが、街の井戸から水を汲んで来たのか。
水いっぱいの瓶をこさえて、小洒落た飲食店の小屋の勝手口へと消えて行くのが見える。
そんな光景は、この世界ではあくまでも一般的な日常の一部だ。
前世の記憶を取り戻してからと言うもの。
俺はこの剣と魔法の世界ディートハルトで、その日本とはまた違った常識を、今日と言う日まで自然と受け入れて過ごして来ている。
コロコロと回る馬車の滑車の音色を耳にしながら、俺の横目では馬がパカパカと四肢を動かして過ぎ去って行くのを確認した。
「ねえ、面白い話ってなぁにぃ?」
未だにオカマ口調のカイトが、真っ先に俺の話に食いついて来た。
優しげなタレ目の瞳が懇願色に満ちていて、謎と言うの名の不安を解消したいのか。
その表情は、何故だか青褪めているようにも見えなくはない。
「きっとノボルのことだから、ひょっとしてワイバーンの討伐とかじゃない?
ここいらでデカい仕事と言えば、竜種の討伐がベターな訳だし」
早速、俺の話を勘繰って来たアーシャが個人的な推理を展開して、カイトの表情をチラリと眺める。
そんな二人に、俺は意地悪く指を3本と突き立てる。
「もっと大きい」
そんな小さい額ではないぞ。
そう言いたげに俺は首を振った。
「3本って言うと、金額のことよね?
一発300金貨ぐらいの仕事ってこと?
「じゃあ、やっぱりアーシャの推理は外れだな。
ワイバーンを倒して300万は高すぎるし、ドラゴンにしては明らかに安すぎる」
うーん、と揃って考え込む二人に対して、俺はにこりと笑ってネタバラシを開始する。
「取って来た仕事の金額は、一発で30億だ!!」
「ふんふん。30億ね……30億ッ!?」
何それ!?
とアーシャは飛び跳ねるように後退った。
カイトも例に漏れず、慌てて後退りを開始した。
「さっささっ、30億だってッ!?」
「いいっ、一体、何を倒せって言うのよ!?
バカバカしいッ!?」
二人の驚く顔を見るのは、かなり楽しい。
身体を抱き合ってくねくね、モジモジとさせていた。
「そんなの普通に考えて無理じゃねッ!?」
途端に弱音を吐き捨てるアーシャの姿は、とても可愛らしくて天真爛漫と言う言葉がよく似合うように思う。
この笑顔を守りたい。
その為にこの仕事を取って来たのだ。
「そうよそうよ!! 無理よノボルくん!!
アーシャもこう言ってるわよ!!」
一人だけオーバーアクションで、めちゃくちゃモジモジとし始めたカイトをひとまず無視する。
「俺たちが次に倒すべき目標は、あのブラックゴブリンだ」
そう言って俺は、アランから貰った使い捨ての地図を取り出す。
情報共有も兼ねて二人にその地図を手渡した。
「ブラックゴブリン?
それって最近噂のアイツのことか?」
「ーーあぁ、それが俺たちの最後の仕事だ。
国家王国騎士になれるチャンスを掴んで来たぞ。
倒せば一撃で30億ゴールド。
これだけの功績を立てれば、どんな冒険者だって一発で国家王国騎士入りも確実さ!!」
こんなひもじい生活とだって、余裕でおさらば出来るに違いない。
「おいおい!! マジかよノボルッ!!
ボクたちも遂に国家王国騎士に成り上がれる日が来たのかッ!?」
「あぁ、そういうことだな」
白い歯を浮かせて仰天するカイトに。
釘を差すように、
「コイツ相変わらずバカね」
と横から肩を竦めたのアーシャだった。
呆れたように「はっ」とため息を吐き捨てる。
「普通に考えて、ブラックゴブリンを倒して30億貰えるなんて仕事、黒い仕事に決まってるじゃない。
分かってるのよね? ノボル?」
そう言ってアーシャは、スッとその赤い瞳を真剣に細める。
そこにある顔色は、かなり厳しい。
きっとブラックゴブリンにまつわる噂を知っているんだろう。
「アタシもそのブラックゴブリンの噂なら、耳にタコが出来るぐらい聞いて来たわ。
けど、そのブラックゴブリンの仕事。
確か出かけた人が、全員死んで戻って来てないって言われてる」
「本当ですか? ノボルくん?」
「アーシャの口にした疑問はその通りだ。
実際に俺もアランから、ギルドの死亡者リストを拝見させて貰ったよ。
危険性については、充分に熟知した上で引き受けて来たつもりだ」
俺がそう言うと、アーシャは額に手をやって一度だけ目を伏せた。
「分かってると思うけど、アタシたちそれで死んだら終わりよ?」
「そうよノボルくん。アタシたち死んだら終わりなんですけど?」
アーシャの口調を真似て、カイトがその瞳を険しく彷徨わせる。
「もちろん分かってる。
そのことは、充分に理解しているつもりさ。
だけど俺は、この三人なら勝てると思ったから引き受けて来た」
勝てないと分かりきった勝負は、始めからしない主義だ。
「勝率はどのぐらい?」
「まぁ……厳しいが……。
俺の見込みだと、精々五分五分って所だな?」
「五分五分ね……」
俺の言葉を聞いてから、じっくりと口元に手を当てて考えるアーシャ。
「要するに五分五分で、アタシたちは今日中に死ぬって訳ね……」
俺とアーシャのやり取りを耳にしていたカイトは、ワシャワシャと逆立った青髪を掻きむしると、そのまま地べたに座り込んでしまう。
今にも泣きそうな表情で俺を見上げる。
「ボクたち、五分五分で今日中に死ぬんですか?」
「ーーそう、ニブイチでな。
バカでも分かるぐらい単純な確率じゃないか」
「ノボル、それってボクのことを遠回しにバカにしてない?」
「まさか!! バカをバカにするなんて、とっても酷いことだと思う!!」
「むーーーーっ」
「じーーーーっ」
「冗談言ってないで、二人とも真面目に話してよ。
今回は、かなり命がけの仕事になるのよ?」
「分かってるよ。だから冗談言ってるんじゃないか?」
そう言ってカイトは、「ふっ」と笑って立ち上がる。
「ノボルがそう言うなら、ボクも男として乗っても良い。
どの道、旅団の資金は、もうとっくに底をつきかけてる訳だしね。
それも込みで、ノボルはこの仕事を引き受けて来たんだろ?
じゃあ、ボクにできることはただ一つさ。
お前の信じるボクを信じろ。必ずお前らを守ってやる」
そう言ってカイトは、自慢げに背中に背負った大盾を指差す。
「まぁ、カイトがそう言うならアタシも乗るけど」
吹っ切れた様子で一つため息を落としたアーシャは、
「よーし!! 分かったわ!!
アタシは、その人生一発逆転の賭けに乗っても良いッ!!
どうせだったら人生一度きりなんだし!!
ーー華々しい人生を送りたい物ね?」
「全くどうして、そう簡単にBETできるかなぁ~」
アーシャの大胆なBETの宣言に、カイトは「やれやれ」と青髪を掻きむしる。
「はぁ~? 何でって……」
「ーーそんなの決まってるだろ(じゃない)?」
俺とアーシャはその直後、息をピッタリに顔を見合わせた。
立ち上がったカイトに向かって「信頼」の笑みを共に向ける。
「だって俺 (アタシ)たちパーティーの守護騎士 《ガーディアン》はーー鉄壁だろ(でしょ)?」
二人で揃って笑みを零した。
そんな言葉にカイトは眼を丸くして赤面した。
恥ずかしそうに頬をかいた友人の姿は、どこの誰よりも頼もしかった。
「こっちは、ホブゴブリンが大量よノボル!!」
二人の冒険者が、遠巻きから俺に手を振って笑う。
一人は、燃えるように逆立った空色の髪の青年。
そしてもう一人は、籠の目と呼ばれる赤い瞳を有した、炎髪スーパーロングの紅一点。
ディートハルト大陸の東部に位置する、ここ王都首都マナガルム。
その第三円陣と称して建てられた三つの魔物避けの外壁が、都市部をぐるりと囲った楕円形の超巨大城下町。
その中でも一番外側に位置する、この第三内地ヨルのエリアで、俺たち暁の旅団の三人はそれぞれ仕事を終えて再会を果たしていた。
「あぁ!! コッチの方も余裕だったよ!!
ついでにアランにもしっかりと色を付けて貰って来たところだ!!」
「へぇ~!! あのアランのオッサンが色を付けてくれるなんて珍しいじゃんかぁ!!」
「これでアタシらの活躍がどんどん王都に蔓延るわね~!!
地位も名声も富も独占状態な訳よッ!!」
「ーーあぁ!! まぁ、そういう事だな!!」
コボルト狩りに精を出して上機嫌そうな笑みを浮かべる二人組。
その内の一人ーーカイト・スヴェンソンが、その自慢の青髪をふんわりと掻いて空を眺める。
「まっ、僕たちにかかれば朝飯前でしょ!!」
たるんだお腹に優しげなタレ目の瞳。
金色の留め具がついた緑色のムートンジャケット。
その襟元に白いストールを巻いたカイトの姿は、一見すれば立派な紳士のそれである。
しかしながらその背中には、貴族風の出で立ちに不釣り合いなロングソードと大盾が背負われており。
上品そうな格好の中には、しっかりと騎士としての大胆さが刻み込まれているように感じられる。
身長160センチ。体重80キロ。
クラスは、守護騎士。
ーー友人のカイト・スヴェンソンだ。
「カイトの言う通りね~!!
コボルト狩りなんて、ウチら暁の旅団にかかれば楽勝ベイベーって言うかさぁ~!!」
そんなカイトに同調して腰に手を当てているのは、同じく俺の幼馴染であるアーシャ・リクライン。
真紅に染まったツリ目の赤い瞳が特徴的な少女である。
炎髪のスーパーロングの髪が、首元に巻かれたマフラーと同時に寒空の下で風に靡く。
胸元が少しだけ押し上げられた肌色のチュニック。
その上から朱色のパーカーローブを羽織った、いかにも魔術師のようなスタイルの魔法使い。
手には、大きなルビーの宝石を詰め込んだ木の杖を。
そして足元には、黒色のオーバーニーソックスと栗色のローファーを着こなしている。
チェック柄のミニスカートの狭間から見える白い柔肌の黄金比率は、ピッタリ7:3の絶対領域。
色気たっぷりのムチムチとした太ももが、どこか退屈そうに揺れ動く。
きっとその動き通り内心で退屈しているのだとすぐにも分かる。
身長165センチ。体重は50キロ。
クラスは、魔法使い 。
ーー俺の婚約者のアーシャ・リクラインだ。
二人は俺がこの世界で、前世の記憶を取り戻した頃からの古い付き合いになる。
「しっかし最近は、どれも受けるクエストは退屈ね~」
「まぁ、ボクたち三人が強すぎるんだよアーシャ。
この辺りの魔物じゃ、正直ボクらぐらいじゃ雑魚ばかりになってしまったからね」
欠伸をかますと、つまらなそうに後頭部に手を回したアーシャを眺めて。
カイトはポリポリとその頬を掻いて苦笑いを浮かべる。
「そんな二人に面白い話を持って来たぜ?」
ニヒッ、と笑って俺は懐から麻袋を取り出す。
さっき換金して来たばかりの報酬をアーシャへと投げ渡すと、その退屈そうにたるんだ表情を紐解いてやる。
「おっと!!」
「ナイスキャッチ、アーシャ」
慌てて麻袋を前のめり気味にキャッチしたアーシャに。
眠たげな視線を送りながらカイトが答える。
アーシャは収納魔法を使ってアイテムストレージと呼ばれる別次元の空間に麻袋をしまうと、ムッとした表情で片眉を潜めた。
「何よ? 面白い話って?」
「そうよぉ。何よぉ面白い話って、ノボルくん」
アーシャの言葉をなぞり、謎にオネエ言葉でカイトもムッと顔をしかめる。
昼下がりの商店街には、まだ無数の人混みが見受けられる。
最近はどこの国でも「多様性」とやらが進んでいるらしく。
他種族間での交友が盛んになっていると聞く。
目覚ましい程に発展を遂げたこの王都マナガルムの街並みには、今や日本人としての記憶とは、だいぶかけ離れた者達で溢れ返っていた。
コツコツと足早に歩く異種族たちの視線が、通り過ぎ様に俺たち三人を見つめていく。
時にザワザワと談笑に華を咲かせている彼ら彼女らは、そうして「人混み」と言う名の雑踏風景の一部と化した。
そんな街並みの路面を歩いているのは、何も人類ばかりとは限らない。
なにせここは、異世界だ。
エルフやリザードマンを筆頭にした人外と呼ばれる者たちが多く滞在している。
中には、ウサ耳やネコ耳を生やした獣人族の者たちが多い。
その中でも人類はかなり希少、それに俺と同じ「黒髪」の者となれば余計に目立って珍しい。
どいつこいつも、居るのは赤やら黄緑やら黄色やら紫やら。
バリエーションに富んだ髪色や髪型をしていて、人っ子一人と同じ格好の者は少ない印象を受ける
頭髪は男ならモヒカンやツーブロック。
それにドレッドヘアやロン毛と言った、どこか世紀末風の髪型が多い感じがする。
女であるならツインテールやポニーテールを筆頭に。
あとはサイドテールやスーパーロングなど。
こちらもかなり個性を発揮した身なりの者が多い印象だ。
ーーもちろん、格好にしたって中世的だ。
そこには日本人らしさなど欠片もない。
鎧を着て剣を持つ騎士風の者たちから始まり。
果てには、ローブを羽織り杖を所持する魔法使い風の者たち。
踊り子風の者たちが、街の井戸から水を汲んで来たのか。
水いっぱいの瓶をこさえて、小洒落た飲食店の小屋の勝手口へと消えて行くのが見える。
そんな光景は、この世界ではあくまでも一般的な日常の一部だ。
前世の記憶を取り戻してからと言うもの。
俺はこの剣と魔法の世界ディートハルトで、その日本とはまた違った常識を、今日と言う日まで自然と受け入れて過ごして来ている。
コロコロと回る馬車の滑車の音色を耳にしながら、俺の横目では馬がパカパカと四肢を動かして過ぎ去って行くのを確認した。
「ねえ、面白い話ってなぁにぃ?」
未だにオカマ口調のカイトが、真っ先に俺の話に食いついて来た。
優しげなタレ目の瞳が懇願色に満ちていて、謎と言うの名の不安を解消したいのか。
その表情は、何故だか青褪めているようにも見えなくはない。
「きっとノボルのことだから、ひょっとしてワイバーンの討伐とかじゃない?
ここいらでデカい仕事と言えば、竜種の討伐がベターな訳だし」
早速、俺の話を勘繰って来たアーシャが個人的な推理を展開して、カイトの表情をチラリと眺める。
そんな二人に、俺は意地悪く指を3本と突き立てる。
「もっと大きい」
そんな小さい額ではないぞ。
そう言いたげに俺は首を振った。
「3本って言うと、金額のことよね?
一発300金貨ぐらいの仕事ってこと?
「じゃあ、やっぱりアーシャの推理は外れだな。
ワイバーンを倒して300万は高すぎるし、ドラゴンにしては明らかに安すぎる」
うーん、と揃って考え込む二人に対して、俺はにこりと笑ってネタバラシを開始する。
「取って来た仕事の金額は、一発で30億だ!!」
「ふんふん。30億ね……30億ッ!?」
何それ!?
とアーシャは飛び跳ねるように後退った。
カイトも例に漏れず、慌てて後退りを開始した。
「さっささっ、30億だってッ!?」
「いいっ、一体、何を倒せって言うのよ!?
バカバカしいッ!?」
二人の驚く顔を見るのは、かなり楽しい。
身体を抱き合ってくねくね、モジモジとさせていた。
「そんなの普通に考えて無理じゃねッ!?」
途端に弱音を吐き捨てるアーシャの姿は、とても可愛らしくて天真爛漫と言う言葉がよく似合うように思う。
この笑顔を守りたい。
その為にこの仕事を取って来たのだ。
「そうよそうよ!! 無理よノボルくん!!
アーシャもこう言ってるわよ!!」
一人だけオーバーアクションで、めちゃくちゃモジモジとし始めたカイトをひとまず無視する。
「俺たちが次に倒すべき目標は、あのブラックゴブリンだ」
そう言って俺は、アランから貰った使い捨ての地図を取り出す。
情報共有も兼ねて二人にその地図を手渡した。
「ブラックゴブリン?
それって最近噂のアイツのことか?」
「ーーあぁ、それが俺たちの最後の仕事だ。
国家王国騎士になれるチャンスを掴んで来たぞ。
倒せば一撃で30億ゴールド。
これだけの功績を立てれば、どんな冒険者だって一発で国家王国騎士入りも確実さ!!」
こんなひもじい生活とだって、余裕でおさらば出来るに違いない。
「おいおい!! マジかよノボルッ!!
ボクたちも遂に国家王国騎士に成り上がれる日が来たのかッ!?」
「あぁ、そういうことだな」
白い歯を浮かせて仰天するカイトに。
釘を差すように、
「コイツ相変わらずバカね」
と横から肩を竦めたのアーシャだった。
呆れたように「はっ」とため息を吐き捨てる。
「普通に考えて、ブラックゴブリンを倒して30億貰えるなんて仕事、黒い仕事に決まってるじゃない。
分かってるのよね? ノボル?」
そう言ってアーシャは、スッとその赤い瞳を真剣に細める。
そこにある顔色は、かなり厳しい。
きっとブラックゴブリンにまつわる噂を知っているんだろう。
「アタシもそのブラックゴブリンの噂なら、耳にタコが出来るぐらい聞いて来たわ。
けど、そのブラックゴブリンの仕事。
確か出かけた人が、全員死んで戻って来てないって言われてる」
「本当ですか? ノボルくん?」
「アーシャの口にした疑問はその通りだ。
実際に俺もアランから、ギルドの死亡者リストを拝見させて貰ったよ。
危険性については、充分に熟知した上で引き受けて来たつもりだ」
俺がそう言うと、アーシャは額に手をやって一度だけ目を伏せた。
「分かってると思うけど、アタシたちそれで死んだら終わりよ?」
「そうよノボルくん。アタシたち死んだら終わりなんですけど?」
アーシャの口調を真似て、カイトがその瞳を険しく彷徨わせる。
「もちろん分かってる。
そのことは、充分に理解しているつもりさ。
だけど俺は、この三人なら勝てると思ったから引き受けて来た」
勝てないと分かりきった勝負は、始めからしない主義だ。
「勝率はどのぐらい?」
「まぁ……厳しいが……。
俺の見込みだと、精々五分五分って所だな?」
「五分五分ね……」
俺の言葉を聞いてから、じっくりと口元に手を当てて考えるアーシャ。
「要するに五分五分で、アタシたちは今日中に死ぬって訳ね……」
俺とアーシャのやり取りを耳にしていたカイトは、ワシャワシャと逆立った青髪を掻きむしると、そのまま地べたに座り込んでしまう。
今にも泣きそうな表情で俺を見上げる。
「ボクたち、五分五分で今日中に死ぬんですか?」
「ーーそう、ニブイチでな。
バカでも分かるぐらい単純な確率じゃないか」
「ノボル、それってボクのことを遠回しにバカにしてない?」
「まさか!! バカをバカにするなんて、とっても酷いことだと思う!!」
「むーーーーっ」
「じーーーーっ」
「冗談言ってないで、二人とも真面目に話してよ。
今回は、かなり命がけの仕事になるのよ?」
「分かってるよ。だから冗談言ってるんじゃないか?」
そう言ってカイトは、「ふっ」と笑って立ち上がる。
「ノボルがそう言うなら、ボクも男として乗っても良い。
どの道、旅団の資金は、もうとっくに底をつきかけてる訳だしね。
それも込みで、ノボルはこの仕事を引き受けて来たんだろ?
じゃあ、ボクにできることはただ一つさ。
お前の信じるボクを信じろ。必ずお前らを守ってやる」
そう言ってカイトは、自慢げに背中に背負った大盾を指差す。
「まぁ、カイトがそう言うならアタシも乗るけど」
吹っ切れた様子で一つため息を落としたアーシャは、
「よーし!! 分かったわ!!
アタシは、その人生一発逆転の賭けに乗っても良いッ!!
どうせだったら人生一度きりなんだし!!
ーー華々しい人生を送りたい物ね?」
「全くどうして、そう簡単にBETできるかなぁ~」
アーシャの大胆なBETの宣言に、カイトは「やれやれ」と青髪を掻きむしる。
「はぁ~? 何でって……」
「ーーそんなの決まってるだろ(じゃない)?」
俺とアーシャはその直後、息をピッタリに顔を見合わせた。
立ち上がったカイトに向かって「信頼」の笑みを共に向ける。
「だって俺 (アタシ)たちパーティーの守護騎士 《ガーディアン》はーー鉄壁だろ(でしょ)?」
二人で揃って笑みを零した。
そんな言葉にカイトは眼を丸くして赤面した。
恥ずかしそうに頬をかいた友人の姿は、どこの誰よりも頼もしかった。
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