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序章 動く人形
第四話 人形の力
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祖父のただならぬ叫び声が、家中に響いた。
瑠璃は全身をびくっと震わせて、すぐに持っていた針を針山に戻した。
部屋から飛びだし、普段は決して走ることのない廊下を走って居間に向かうと、そこには腰を抜かしている祖父の姿があった。
「おじいちゃん、どうしたの!?」
瑠璃が駆け寄ると、重人は居間の奥を指さした。
するとなんと、夕飯が並んでいる食卓の上に、まるで武士のようないで立ちをしたとても小さい男がいたのだ。
「人形……!?」
瑠璃は言葉を漏らした。すると重人は、「そんなわけあるものか! 幽霊じゃ幽霊!」と声を震わせて言った。
その武士のような男は瑠璃を見た瞬間、腰に下げていた刀を抜いた。
【お前の人形をよこせ】
瑠璃ははっとした。
また、明瞭な≪声≫が聞こえてきた。やっぱりあれは人形だ!
とっさに祖父を立たせて逃げようとしたが、彼は立ち上がるのも困難なようで、その場から動けなかった。
「祟られるのはわしだけでいい、お前は逃げろ!」
「いやだ、おじいちゃんを置いて逃げられないよ!」
果物ナイフほどある日本刀を構え、その人形は徐々に近づいてくる。
重人はとっさに瑠璃を畳に伏せさせ、彼女をかばうようにしてその上に覆いかぶさった。
瑠璃は恐怖で、目をつぶった。
するとその時、廊下の方からタタタッ……と走ってくる小さい足音がした。
『雪月風花(せつげつふうか)、夏の風!』
その≪声≫がした瞬間、部屋の中に生暖かい風が吹き渡った。
瑠璃が顔を上げると、だんだん竜巻のような渦ができて、あの武士人形は身動きが取れなくなっていた。
ビュウビュウと音を立てる風の後ろで、ガタガタっという音がして二人が後ろを振りむくと、あの母にそっくりな人形が、必死に手を伸ばしてガラス戸の鍵を開けようとしていた。
瑠璃は祖父の体を押しのけて立ち上がると、なんとか風に抗いながら、その戸を開け放った。
『彼の者を、遠くに運べ!』
母にそっくりな人形は、広げた扇子を内から外に向けて振った。
すると、竜巻が導かれたように、武士人形をとらえたまま浮き上がったのだ。
そしてその人形をのせた風は、あっという間に家を飛び出し、夜の闇へと消えていった。
「い、一体何が……」
腰をおさえて身を起こした重人は、瑠璃と見つめ合う、小町そっくりの人形を見た。
「に、に、人形が動いとるっ、あっつ、腰がぁぁああ!」
瑠璃ははっとして、驚きのあまり腰をそらした痛みで悶絶している重人に駆けよった。
「おじいちゃん大丈夫!?」
「な、なんの……ただのぎっくり腰じゃ……いででで……」
瑠璃が重人の腰をさすると、人形がおそるおそる近づいてきた。
「あの……助けてくれてありがとう」
『わたしもさすっていい?』
人形の言葉に、瑠璃は「うん、いいよ」とうなずいた。
すると彼女は、小さい手で腰をさすり始めた。そんな人形を、重人が目をぱちくりさせながら見ている。
「この子が、助けてくれたみたい」
瑠璃の落ち着いた声に、重人は目を見開いた。
「お、おまえ……いま誰と話していたんだ? この人形とか?」
その問いに、瑠璃は顔をこわばらせながらも、うなずいた。
「もう五年も前から……わたしは人形たちの≪声≫が聞こえていたの」
瑠璃は全身をびくっと震わせて、すぐに持っていた針を針山に戻した。
部屋から飛びだし、普段は決して走ることのない廊下を走って居間に向かうと、そこには腰を抜かしている祖父の姿があった。
「おじいちゃん、どうしたの!?」
瑠璃が駆け寄ると、重人は居間の奥を指さした。
するとなんと、夕飯が並んでいる食卓の上に、まるで武士のようないで立ちをしたとても小さい男がいたのだ。
「人形……!?」
瑠璃は言葉を漏らした。すると重人は、「そんなわけあるものか! 幽霊じゃ幽霊!」と声を震わせて言った。
その武士のような男は瑠璃を見た瞬間、腰に下げていた刀を抜いた。
【お前の人形をよこせ】
瑠璃ははっとした。
また、明瞭な≪声≫が聞こえてきた。やっぱりあれは人形だ!
とっさに祖父を立たせて逃げようとしたが、彼は立ち上がるのも困難なようで、その場から動けなかった。
「祟られるのはわしだけでいい、お前は逃げろ!」
「いやだ、おじいちゃんを置いて逃げられないよ!」
果物ナイフほどある日本刀を構え、その人形は徐々に近づいてくる。
重人はとっさに瑠璃を畳に伏せさせ、彼女をかばうようにしてその上に覆いかぶさった。
瑠璃は恐怖で、目をつぶった。
するとその時、廊下の方からタタタッ……と走ってくる小さい足音がした。
『雪月風花(せつげつふうか)、夏の風!』
その≪声≫がした瞬間、部屋の中に生暖かい風が吹き渡った。
瑠璃が顔を上げると、だんだん竜巻のような渦ができて、あの武士人形は身動きが取れなくなっていた。
ビュウビュウと音を立てる風の後ろで、ガタガタっという音がして二人が後ろを振りむくと、あの母にそっくりな人形が、必死に手を伸ばしてガラス戸の鍵を開けようとしていた。
瑠璃は祖父の体を押しのけて立ち上がると、なんとか風に抗いながら、その戸を開け放った。
『彼の者を、遠くに運べ!』
母にそっくりな人形は、広げた扇子を内から外に向けて振った。
すると、竜巻が導かれたように、武士人形をとらえたまま浮き上がったのだ。
そしてその人形をのせた風は、あっという間に家を飛び出し、夜の闇へと消えていった。
「い、一体何が……」
腰をおさえて身を起こした重人は、瑠璃と見つめ合う、小町そっくりの人形を見た。
「に、に、人形が動いとるっ、あっつ、腰がぁぁああ!」
瑠璃ははっとして、驚きのあまり腰をそらした痛みで悶絶している重人に駆けよった。
「おじいちゃん大丈夫!?」
「な、なんの……ただのぎっくり腰じゃ……いででで……」
瑠璃が重人の腰をさすると、人形がおそるおそる近づいてきた。
「あの……助けてくれてありがとう」
『わたしもさすっていい?』
人形の言葉に、瑠璃は「うん、いいよ」とうなずいた。
すると彼女は、小さい手で腰をさすり始めた。そんな人形を、重人が目をぱちくりさせながら見ている。
「この子が、助けてくれたみたい」
瑠璃の落ち着いた声に、重人は目を見開いた。
「お、おまえ……いま誰と話していたんだ? この人形とか?」
その問いに、瑠璃は顔をこわばらせながらも、うなずいた。
「もう五年も前から……わたしは人形たちの≪声≫が聞こえていたの」
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