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亜香里は学校で覗きの犯人の顔を探した。そして思い出した。二年一組の瀬野直也だった。
直也はそもそも大人しく、影の薄い少年だった。容姿がとび抜けて良いわけでもスポーツに秀でるでもない。その直也が今日は一段とおとなしく、まるで気配を消しているように見えた。授業中、亜香里の発言はもちろん同級生達の会話にも反応せず、うつむいて教科書に目を張り付けていた。一度だけ目が合ったが異常な速さで目を逸らした。その光景を吹き出しそうになるのを堪えて亜香里は授業をこなした。直也をどうしてやろうか。亜香里の頭はそれで一杯になった。
放課後になり亜香里は職員室での終礼を終えた後、直也の下駄箱を探し出し、紙切れを靴の中に入れた。
「あのことは黙っててあげるから明後日の土曜の夜、私の家に来なさい」という少し脅迫じみた文面だった。
その週の土曜がやってきた。夜とは書いたが何時とは指定していない。家を抜け出すことが難しい場合深夜になるかもしれない。亜香里はまるで恋人が初めて家に上がるときの様にそわそわしながら待った。夜ご飯を終え、湯船につかり、パジャマに着替えてテレビを見て待った。時計は九時を回っていた。もしかしたら直也は怖くなり家で頭を抱えて悩み、動けないでいるかもしれない。友達に相談したりするかもしれない親に家を抜け出すところを見つかって問いただされているかもしれない。それくらいならいいが、悲観しすぎて何か変な考えを思いついてしまうかもしれない、と少し不安になってきた。
あれこれ考えているうちに十一時を回った。期待と諦めが半々になったときアパートのドアが控えめにノックされた。亜香里は高鳴る胸を落ち着かせるため勢いよく深呼吸して立ち上がりゆっくりとのぞき穴を見た。そこには帽子を深く被った直也が見えた。亜香里は鍵を開けドアを開けた。
「ちゃんと来たね。入っていいよ。」
できるだけ明るい声色で亜香里は言った。
「失礼します。」
直也は蚊の羽音のように小さな声で言い部屋に入った。亜香里は鍵をしてから直也を導いてソファを指さして言った。
「いいよ座って。」
直也は緊張の為か不安の為か立ったままだった。
「大丈夫よ。怒ってないから安心して。」
そう言うとやっと直也はソファに浅く座った。
「直也君てエッチなんだね。」
亜香里は笑うように言った。
「そう、ですね。」
下を向いたまま直也は言った。顔が耳たぶまで一気に赤くなっている。
「他にも覗いてる子はいるの?」
笑い出しそうになるを我慢して亜香里は聞いた。直也は視線を横にして少し考えた後言った。
「いえ、自分だけだと思います。」
恥ずかしそうに、しかし覚悟を決めたように言った。
「本当に?」
「はい。先生の家は何人かに知られてますけど。」
「このことは誰にも言ってない?」
「言ってません。」
ここまで会話した後亜香里はベッドから腰を上げお茶を淹れて直也に出した。自分はレモンサワーを飲んだ。
「じゃあ二人の秘密ね。」
亜香里はこれから行われることを想像して鼓動が早くなるのを感じた。直也はお茶を口にして喉を潤した。アパートの前に着いた時からずっと緊張のあまり唾液が止まっていた。そして飲み物を飲んだことで心がいくばかりか軽くなり、ようやく謝罪できると思った。
「すいませんでした。」
「いいよ別に。」
亜香里は笑顔で言った。そしてその笑顔のまま誘惑の言葉を続けた。「それよりもっとエッチなこと、知りたくない?」
直也は驚いた顔で亜香里の目を見て少しの間固まった。耳を疑っていた。視線を外して床を見る。暴れる心臓に、静まれ!と𠮟りつける。
固まる直也を見ながら亜香里は言った。
「知りたいでしょ。」
直也も亜香里と同じくこれから行われるであろう淫靡な行為のことを想像し、下腹部が熱くなるのを感じた。こんなチャンスは人生で二度と来ない。そんな気がする。直也はゆっくりと絞り出すように言葉を発した。
「知りたい、です。」
「素直でよろしい。」
亜香里は直也の座っている横に行って頭を撫でた。
「これからすることも秘密にできる?」
直也は目を見開いたまま頷いた。
直也はそもそも大人しく、影の薄い少年だった。容姿がとび抜けて良いわけでもスポーツに秀でるでもない。その直也が今日は一段とおとなしく、まるで気配を消しているように見えた。授業中、亜香里の発言はもちろん同級生達の会話にも反応せず、うつむいて教科書に目を張り付けていた。一度だけ目が合ったが異常な速さで目を逸らした。その光景を吹き出しそうになるのを堪えて亜香里は授業をこなした。直也をどうしてやろうか。亜香里の頭はそれで一杯になった。
放課後になり亜香里は職員室での終礼を終えた後、直也の下駄箱を探し出し、紙切れを靴の中に入れた。
「あのことは黙っててあげるから明後日の土曜の夜、私の家に来なさい」という少し脅迫じみた文面だった。
その週の土曜がやってきた。夜とは書いたが何時とは指定していない。家を抜け出すことが難しい場合深夜になるかもしれない。亜香里はまるで恋人が初めて家に上がるときの様にそわそわしながら待った。夜ご飯を終え、湯船につかり、パジャマに着替えてテレビを見て待った。時計は九時を回っていた。もしかしたら直也は怖くなり家で頭を抱えて悩み、動けないでいるかもしれない。友達に相談したりするかもしれない親に家を抜け出すところを見つかって問いただされているかもしれない。それくらいならいいが、悲観しすぎて何か変な考えを思いついてしまうかもしれない、と少し不安になってきた。
あれこれ考えているうちに十一時を回った。期待と諦めが半々になったときアパートのドアが控えめにノックされた。亜香里は高鳴る胸を落ち着かせるため勢いよく深呼吸して立ち上がりゆっくりとのぞき穴を見た。そこには帽子を深く被った直也が見えた。亜香里は鍵を開けドアを開けた。
「ちゃんと来たね。入っていいよ。」
できるだけ明るい声色で亜香里は言った。
「失礼します。」
直也は蚊の羽音のように小さな声で言い部屋に入った。亜香里は鍵をしてから直也を導いてソファを指さして言った。
「いいよ座って。」
直也は緊張の為か不安の為か立ったままだった。
「大丈夫よ。怒ってないから安心して。」
そう言うとやっと直也はソファに浅く座った。
「直也君てエッチなんだね。」
亜香里は笑うように言った。
「そう、ですね。」
下を向いたまま直也は言った。顔が耳たぶまで一気に赤くなっている。
「他にも覗いてる子はいるの?」
笑い出しそうになるを我慢して亜香里は聞いた。直也は視線を横にして少し考えた後言った。
「いえ、自分だけだと思います。」
恥ずかしそうに、しかし覚悟を決めたように言った。
「本当に?」
「はい。先生の家は何人かに知られてますけど。」
「このことは誰にも言ってない?」
「言ってません。」
ここまで会話した後亜香里はベッドから腰を上げお茶を淹れて直也に出した。自分はレモンサワーを飲んだ。
「じゃあ二人の秘密ね。」
亜香里はこれから行われることを想像して鼓動が早くなるのを感じた。直也はお茶を口にして喉を潤した。アパートの前に着いた時からずっと緊張のあまり唾液が止まっていた。そして飲み物を飲んだことで心がいくばかりか軽くなり、ようやく謝罪できると思った。
「すいませんでした。」
「いいよ別に。」
亜香里は笑顔で言った。そしてその笑顔のまま誘惑の言葉を続けた。「それよりもっとエッチなこと、知りたくない?」
直也は驚いた顔で亜香里の目を見て少しの間固まった。耳を疑っていた。視線を外して床を見る。暴れる心臓に、静まれ!と𠮟りつける。
固まる直也を見ながら亜香里は言った。
「知りたいでしょ。」
直也も亜香里と同じくこれから行われるであろう淫靡な行為のことを想像し、下腹部が熱くなるのを感じた。こんなチャンスは人生で二度と来ない。そんな気がする。直也はゆっくりと絞り出すように言葉を発した。
「知りたい、です。」
「素直でよろしい。」
亜香里は直也の座っている横に行って頭を撫でた。
「これからすることも秘密にできる?」
直也は目を見開いたまま頷いた。
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