賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん

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後悔の過去、そして願い

弟との再会(前編)

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げほっ…
己の咳で意識が浮上した。
げほげほ…
口元に手を添え、咳込む。
最近は咳と共に血を吐くようになった。
檻の中、この良くはない環境で肺を患ってしまったようだ。
監禁されてどれくらい経ったのか、今がいつなのか、そもそも朝か夜か、それすらも分からない。
しかし、自分の命はもうそんなに長くはない、それだけは分かった。
 
何故こんな、外の景色も見えず、光も差さない薄汚れた檻に囚われているのか。
それは私の実の弟、ルイ・ウィンバークが仕向けたことらしい。
 
監禁されてしばらく経った頃、一人の少年が現れた。
ダークブラウンのさらりとした髪に、紫色の瞳。整った美しいその顔は、多くの者を魅了する。
久しぶりの再会だったが、すぐに弟だと分かった。
そう、私が遠い昔に何の躊躇いもなく見捨てた、血のつながった実の弟。
彼の容姿は、実にかつての己の母によく似ている。
彼は黒く禍々しい闇をその瞳に宿して、檻の向こう側からじっ、と私を見つめていた。
そして、にやっと口の端だけを持ち上げた。目は笑っていなかった。
「久しぶり、兄さん。
こんな檻の中に捕らえられて、かわいそうに。
なんでここに僕がいるかって?
フフフ、それはね、これは僕が仕組んだことだからさ。」
ルイはここで一度言葉を切ると、檻の外に置かれていた一つの椅子に腰をかけた。
そして、生まれて物心がついた時から、今こうして私の前にいることに至った経緯をすべて話して聞かせた。
 
幼少期は家族から存在しないかのような扱いを受けたこと。
代理でやってきた従兄に毎晩襲われていたこと。
領地没落後、隣の領地の領主の使用人として働かされ、挙句、その領主の借金のカタに闇の組織に売られたこと。
しかし、その闇の組織の首領に気に入られ、なんでも望みを叶えてやろうと言われたこと。
 
「だからね、僕は、ヴィンセント・ウィンバークの自由を奪ってくれってお願いしたんだ。
…何故かって?」
ルイはふ、っと鼻で笑ったかと思うと、顔をゆがませ、憎しみを込めた瞳で私を睨みつけた。
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