上 下
60 / 217
4章

交渉

しおりを挟む
 遺跡を進む俺たちは奪われた鍵を取り戻すために金色の帯、縦ロールを追いかけていた。

 相手は風の魔法を用いて高速で移動している。

「凛音これを!」

 俺は走りながらクラッカーを凛音に渡した。

「どの魔法?」

「猫だ! 走る速度を上げよう」

 走りながらでは食べにくいので、一旦立ち止まる。俺には縦ロールの居場所がわかるから、それくらいの余裕はあると良いな……。相手が合流したらアウトだし。

 手に持ったクラッカーを食べた俺たち。頭に猫の耳が生える。

「行っくよー!」
 
 俺たちは走り出した。猫になったことにより、速度は上がり、みるみる縦ロールに追い付いていく。

「凛音、ここから先は別れて行動だ。俺が悲劇教団を引き付けるから、鍋を助けてくれ」

「いいよー。大事な仲間だもん」

「これも使え」

 鞄から他のエンチャントお菓子を凛音に渡す。
 
 凛音が離れるのを見てから俺は遺跡の先を見た。大きな部屋があり明かりがある。ここに縦ロールが居ることは分かっている。そして、悲劇教団と鍋も。

 俺は真正面から部屋へと入った。そこには、周りを崖で囲まれた部屋があった。中央へと続く道と、その先に宝箱が置かれた中央の広い床。

 そして、巨大なスクリーン? 悲劇教団たちと、鍋がその前に座っている。

「そこまでだ悲劇教団!」

「誰だ!?」

「鍵を返して貰うぞ!」

 ネリーが立ち上がり俺を見る。

「本当に誰?!」

「あ、魔物の姿だから分からないか。俺は悠人」

「リュセラ様と一緒に居た方ですね」

 立ち上がったネリーがふらついたので、俺は走り寄って支えた。敵なのだが、なぜ弱っている?

「ありがとうございます……」

「何か有ったのか? 体調とか悪いのか」

「いえ、あれを……」

 ネリーはスクリーンを指差した。そこには、巨大なサメと巨大ロボがバトルする姿が。一見スゴい映像だが、良くみれば着ぐるみっぽいサメとロボだった。

「つまらない映画……。でも、客にだけ見せてるんじゃないのか?」

「それじゃ可哀想じゃないですか。だから、私たちも見るんです」

 悲劇教団たちと鍋の手には魔石が握られている。魔力集めも行っているのだ。自分達も弱ってしまうのに。

「悠人様、あなたが来たと言うことは、回復の杖を得るためですね」

 ネリーはふらふらと俺から離れて、向き合った。

 彼女もそこまで悪人に思えなかった。だから、交渉してみたくなった。

「そうだ。けど、ネリー。俺たちは回復の杖で家族を助けたいだけだ。共存出来るかもしれない」

「いいえ、私の目的は回復の杖を破壊すること。回復の杖に希望を抱いた人々から魔力を奪うためです。だから戦いましょう」

 ネリーから告げられた目的は回復の杖を破壊する。俺たちは彼女の非道な行いを止めなければならない。
 
 でも、彼女は優しすぎる気がした。義理堅さもある。この違和感を抱えながら俺は戦うしかない。弱っているので攻撃するのを躊躇うけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】悪役令嬢と言われている私が殿下に婚約解消をお願いした結果、幸せになりました。

月空ゆうい
ファンタジー
「婚約を解消してほしいです」  公爵令嬢のガーベラは、虚偽の噂が広まってしまい「悪役令嬢」と言われている。こんな私と婚約しては殿下は幸せになれないと思った彼女は、婚約者であるルーカス殿下に婚約解消をお願いした。そこから始まる、ざまぁありのハッピーエンド。 一応、R15にしました。本編は全5話です。 番外編を不定期更新する予定です!

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...