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2章

休息の前に

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 俺はセレストと共に宿に戻っていた。大通りを歩くと、町は人で賑やかだった。手には小さな袋を持っており、その中にはクミン、コリアンダー、ターメリック、ほとんどカレーに使う調味料だ。それとシナモン。砂糖などの各種調味料。全てこの世界の調味料だ。

 買ってきた調味料は全て、この世界の調味料。魔力があり、食べると魔法が使える。時間で効果が切れるのだが。
 この世界での食事ではわりと大変な事態だったが。食事が修行だなんて、最高だなこの世界。
 
「帰ったらスパイスを試すかな。セレスト付き合ってくれるか?」

「いいわ。分けてくれるならね」

「じゃあ、いっぱい作ろう」

「やったあ!」

 大通りを歩いていると、進行方向に人だかりが出来ている。

「通りに誰か居るのか?」

「分からない。隙間から見えるのは、行列が出来ている事かな」

「食事のお店か?」

「それはないかな。この世界で行列を作るのは、せいぜい王族くらいだから」

「大名行列みたいなものか、凱旋パレードとかも。俺にはあんまり関係ないのだが」

「脇を通って帰りましょ」

「目立ちたくないしな」

 俺たちは横をすり抜けて前に出た。行列の邪魔をしないように通るのは、目立たないように。ゴールドボーイがバレないように目立たないようにしたいからだ。

「あ、悠人だ」

「おお、凛音も同時だったか」

 後ろからの声に振り向くと、凛音と目があった。行列の先頭にいる。

「目立ちすぎー!?」

「大声はよしなよ、余計目立つよ?」

「人のこと言えるか?」

 凛音は手に袋を持って、リュックにも荷物を詰めている。彼女の背後の奴らにも見覚えがある。

「凛音の道具達か」

「運ぶのを手伝ってもらってたの!」

「多すぎだろ、何を買ってきた?」

「魔法の本、キャンドル、ポーション。ドラゴンの鱗の装飾品、魔法のリング、魔法の鏡、透明マントとか。数えきれないかも!」

「置くとこ有るのか?」

「それ、忘れてた!」

「出来るわよ」

 行列の途中から疲れた顔の鍋が現れた。手には荷物を持っている。彼女が少女の姿だから、頼まれたのだろう。

「でも、こんなに持っているのに」

 俺は行列の先頭から後ろを見た。

「最後尾が見えない……」

「ごめんなさい。買ってる時は気が付かなかった」

「確認できたよな、振り返るだけで……」

「トライは進む限り後ろ向きにならないの」

「次から俺かリュセラが付き添うかな……。それはいいとして鍋、こんな数の荷物をどうにか出来るのか?」

「凛音。あなたの鞄に頼みなさい」

「そっか、機能拡張。ヘイ鞄!」

「かしこまりました」

 凛音の背中から大きな鞄が降りて、少女の姿へと変化する。彼女は大柄で身長は二メートル程ある。

「機能拡張、荷物をいっぱい入れたいです!」

 凛音はアーツカードを見た。記されたポイントが消費される。

「では、入れますね」

 鞄は隊列の前の道具を掴み、彼の持っている荷物を口にいれた。持っていた擬人化道具ごとだ。ちなみに彼は恰幅のいい男。クッカーだった。

「すごい、口にいれる瞬間に縮んだ。圧縮する能力? 違う、道具に戻したのか。口は大きく広がったからそこも鞄に戻したんだね!」

「確かにすごいが。帰ってからにしよう。目立つしな……」

「了解ー!」

 宿に戻ると、リュセラが装備を下ろして椅子に座りくつろいでいた。手には本を持っている。泣いた赤鬼って書いてある。こちらの世界の本を読むのか。それも絵本。

「帰ってきたか。食事は済ませたか?」

「食べてきたぞ」

「私もー。この世界の食材光っていたりして面白いね!」

「では、今後の予定について話をしよう。それが終わったら睡眠を取るぞ」

「回復の杖を探すんだよな?」

「そうだ。だがその前に必要なものがある」

「お宝だから、地図とか?」

「三つの条件を揃えて、ダンジョンの奥深くへ行く。一つは凛音の言った地図。次に宝箱の鍵。そして、正しい出口だ」

「他は分かるけど、正しい出口ってなんだ?」

「この町には幾つも出口がある。正解の出口は一つしかない。そして、正解の出口を知っているのはただ一人、この国の王さまだけだ」

「許可を得ないと先へ進めないって事か」

「そうなる。回復の杖を求めた者に、王さまはある条件を出した。俺に勝ったら教えてやると」

「決闘するのか?」

「そうだな。アイツはそうするだろうって思っていた」

「知り合いなの?」

「昔に一緒に暮らしていたことがある」

「へえ。流石は伝説の魔法使いリュセラ」

 話に入ってきたセレストをリュセラは睨んだ。セレストは少しだけ手を上げて降伏を示す。

「だから僕らがすべきことは、戦力を鍛え。決闘に勝つことだ。二人に魔法を教えよう」

「やったー! まだ、火しか使えなかったから、トライしたい!」

「落ち着け凛音、後でだ」

 リュセラは杖を軽く振って、呪文を唱えた。

「夜の帳」

 呪文を唱えると、宿の窓に黒いカーテンが現れ、部屋が薄暗くなった。

「寝る時はこうやって暗くするのか」

「では取り敢えず……」

「ああ」

 みんなは荷物を下ろし、軽く整理をした。
 
 俺は買ってきた袋を開いた。心地よい香りが迎えてくれる。

「何をしている?」

「買ってきたスパイスで、料理をしようかと」

「寝ろ! 悠人、飯は食ってきたって言っただろ!」

「スパイスは別腹!」

「僕らは疲れているんだ、寝かせてくれ」

「分かったよ」

 俺はスパイスの香りを名残惜しく感じながら袋を閉じた。装備を脱いでベッドに入る。
 体は汚れているが、疲労からくるだるさが出た。今日は怪我をしたり、疲れていたのだ。やはり休むべきだった。

 目を閉じるちょっと前に、反対側の女子たちのベッドに明かりが付いた。

「何かしているのか?」

 明かりが動き俺の方を向いた。ヘッドライトなので凛音だった。彼女は鞄に手を突っ込んでいる。

「今日買ってきた品物を調べようと」

「「寝ろ」」

「ちぇー、けちー」

 凛音は渋々鞄から手を引いた。ヘッドライトを外して、ベッドに伏せた。

 部屋がまた、暗くなった。だが、また明かりが。それも俺のとなりで。

「リュセラ、何しているんだ?」

 リュセラはベッドの側の机にある鉱石を持っていてそれが光を放っていた。

「いや、旅の思い出の品をだな……」

「「寝ろって言ったのリュセラだろ!」」

「悪かったって」

 こうして、部屋は暗くなった。俺たちは明日に向けて休む。時間が止まっているのに明日があるかは分からないのだが。

 そして、一人だけ違った。暗くなった部屋にさらに暗い帳を張って、何かをしているセレスト。それを横目に見ていたのはリュセラだけだ。
 暗がりで物音一つ立てずに静寂だけがあった。
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