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2章
魔法の料理3
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幻想の食卓にて、俺は料理を待つ。
すでにテリーヌ、パエリアと順番に食してデザートの番に差し掛かっていた。
テリーヌは輝くトマトとそれの味を際立たせるスパイスの香り、滑らかな食感と舌触りを味わい。
パエリアの魚介と味わい深いスパイスの味に酔いしれ。
そして今、カウンター席から見て俺の目前の鉄板で焼かれるクレープ。生地を焼き終わると、カットされたバナナなどのフルーツをのせる前に、料理人は調味料の瓶を開けた。
生地に溶かしたバターを薄く塗り、その上からシナモンシュガーを振りかける。シナモンの香りが微かに漂い、空気中に甘くて温かい匂いが広がった。
観察していた俺は舞い降りるシナモンの粉が煌めいて見えた。俺の知るシナモンと違う。俺の様子を見ていたセレストが得意気な笑みを浮かべた。
「驚いたでしょ、マジカルシナモンはひと味違うよ」
「マジカルシナモン?」
「魔力の籠ったマギアシナモンツリーから魔法を用いて剥ぎ取って乾燥させた魔法栽培のシナモンよ」
「なんだそれは、すごいトライしたい!」
凛音ではないが、今いちばん凛音の気持ちがわかる。俺も試してみたい。
「トライってなに……?」
俺は振りかけられているマギアシナモンに釘付けとなった。こっちの世界のシナモンは魔法によって栽培されるのか。
「気を取り直して。これは魔法の修行にもなるの」
「食べるだけでか?」
「魔力は自然にある。鉱石にも物にも、食物にもね。それを取り入れる事で魔力が高まるからね」
「なんて、楽な修行なんだ……」
「この世界でしか出来ないけれどね」
「てことはつまりこの世界の食品を食った俺も魔力を持っているってことか?」
「リュセラに貰ったんだ。ふうん……。私が驚かせようと思ったのに」
クレープにフルーツを乗せると、さらにマギアシナモンを振りかける。その独特の香りが広がり、俺は舌をくすぐるような期待感が膨らんでいく。
最後に、料理人が器用にクレープを巻いて包み込む。俺はその瞬間、シナモンの香りと共に、焼き立てのクレープの温かさが鼻先に押し寄せてくるのを感じた。
料理人は皿に乗せた四つのクレープを、カウンターに置いた。
「これは、美味しいのか?」
魔力がある食べ物はリュセラに貰った肉で経験済みだ。俺たちの世界の食材と変わらない美味しいものだ。
「覚悟して食べちゃえ」
俺はクレープをナイフとフォークを用いて食べた。
一口食べてみる。シナモンのほのかな温かみと共に、甘さが口いっぱいに広がり、まるで冒険の始まりのような感覚に包まれた。
「美味しいな、香りはむしろ控えめで奥ゆかしい。加えてフルーツとのバランスもいい」
「でしょう。そろそろかな」
俺の体が輝き出した。さらに腹部が痛くなった。腹部でもどちらかと言うと腰だ。
俺が痛みに耐えるために体を丸めるが、痛みは収まらない。足が浮いている感覚になったがすぐに地面に足が付いた。
「今日のは動物系かー」
セレストがこちらを見ている。だが、彼女と俺は同じくらいの身長なのに視線か合わない。
「何が起きたんだ?」
「手鏡どうぞ」
セレストはどこからか、小さい鏡を取り出して俺に向けた。そこに写り込んでいたのは。
「犬!」
「フフッ。その反応が見たかった」
俺は隣の二人に目を向ける。そこには大きな肉食の鳥、鷹とポニーがいた。
「エンチャントクレープはね、食べると魔法を得られるの」
「先に言ってくれ!」
「メニューの注意書に書いてあるよ」
俺は椅子から手(前足)を持ち上げてメニューを手で開く。爪に引っ掻けるのに数分格闘した。
「本当に書いてある!」
読み忘れた俺の落ち度だ。
「スマホ、カメラ。俺が何とかするから……」
二人を見たが、側には居なかった。出入口を見ると蹄を鳴らして走るポニーと羽ばたいた鷹がいた。
「早く追わないと、セレストは無事か?」
俺がセレストに目を向けると、彼女は居らず。毛並みの良い猫がいた。
「ウワァァ!」
どうしようかと椅子から飛び降りて、慌てて歩き回る俺に猫が前足でタッチした。
「大丈夫、追いかけましょう」
「でも支払いが!」
「私が払っておいたよ、悠人の財布から」
「ありがとう! やっぱり奢る流れだった……」
「見失う前に行きましょ」
セレストに連れられて俺は町に出た。財布を入れた鞄を咥えて外に出ると、ポニーがまだ居てくれた。
「お前はどっちだ?」
「スマホよ! なんか好き勝手飛び回ってるあの子とは違うんだから」
鷹に変身したのはカメラだった。でも、どちらかと言えば穏やかな彼女が何故あんな活発に?
「鞄を持っててくれるか?」
「それだけではないわ!」
ポニーとなったスマホは一旦座り鼻先で背中を指す。
「乗って、行き先は町の中央。一緒にあのおバカを探しましょう!」
「いつもと逆だな! じゃあ頼む」
俺とセレストはポニーに乗って、町を駆けた。
動物達だけで走る様は物珍しい筈だが町の人は慣れているのか道を空けてくれる。
初めての馬上は程よい揺れがあり、流れる風が心地よい。人の姿だったら楽しめただろうな。犬の短い手足で何とか掴まっているのが現状だ。
「はぐれてしまったらどうしよう……」
「大丈夫よ。時間で魔法の効果が切れるから」
「飛んでたら落ちるじゃん!」
それにカメラは魔法の効果が切れることを知らない。何としてでも合流して伝えなければならない。
行く手の上空に翼をはためかせた鷹が見える。カメラはこっちが見えないのか、気にせずに飛行を続ける。彼女の魔法が解ける前に呼び掛けないと。犬の声で届くかな?
すでにテリーヌ、パエリアと順番に食してデザートの番に差し掛かっていた。
テリーヌは輝くトマトとそれの味を際立たせるスパイスの香り、滑らかな食感と舌触りを味わい。
パエリアの魚介と味わい深いスパイスの味に酔いしれ。
そして今、カウンター席から見て俺の目前の鉄板で焼かれるクレープ。生地を焼き終わると、カットされたバナナなどのフルーツをのせる前に、料理人は調味料の瓶を開けた。
生地に溶かしたバターを薄く塗り、その上からシナモンシュガーを振りかける。シナモンの香りが微かに漂い、空気中に甘くて温かい匂いが広がった。
観察していた俺は舞い降りるシナモンの粉が煌めいて見えた。俺の知るシナモンと違う。俺の様子を見ていたセレストが得意気な笑みを浮かべた。
「驚いたでしょ、マジカルシナモンはひと味違うよ」
「マジカルシナモン?」
「魔力の籠ったマギアシナモンツリーから魔法を用いて剥ぎ取って乾燥させた魔法栽培のシナモンよ」
「なんだそれは、すごいトライしたい!」
凛音ではないが、今いちばん凛音の気持ちがわかる。俺も試してみたい。
「トライってなに……?」
俺は振りかけられているマギアシナモンに釘付けとなった。こっちの世界のシナモンは魔法によって栽培されるのか。
「気を取り直して。これは魔法の修行にもなるの」
「食べるだけでか?」
「魔力は自然にある。鉱石にも物にも、食物にもね。それを取り入れる事で魔力が高まるからね」
「なんて、楽な修行なんだ……」
「この世界でしか出来ないけれどね」
「てことはつまりこの世界の食品を食った俺も魔力を持っているってことか?」
「リュセラに貰ったんだ。ふうん……。私が驚かせようと思ったのに」
クレープにフルーツを乗せると、さらにマギアシナモンを振りかける。その独特の香りが広がり、俺は舌をくすぐるような期待感が膨らんでいく。
最後に、料理人が器用にクレープを巻いて包み込む。俺はその瞬間、シナモンの香りと共に、焼き立てのクレープの温かさが鼻先に押し寄せてくるのを感じた。
料理人は皿に乗せた四つのクレープを、カウンターに置いた。
「これは、美味しいのか?」
魔力がある食べ物はリュセラに貰った肉で経験済みだ。俺たちの世界の食材と変わらない美味しいものだ。
「覚悟して食べちゃえ」
俺はクレープをナイフとフォークを用いて食べた。
一口食べてみる。シナモンのほのかな温かみと共に、甘さが口いっぱいに広がり、まるで冒険の始まりのような感覚に包まれた。
「美味しいな、香りはむしろ控えめで奥ゆかしい。加えてフルーツとのバランスもいい」
「でしょう。そろそろかな」
俺の体が輝き出した。さらに腹部が痛くなった。腹部でもどちらかと言うと腰だ。
俺が痛みに耐えるために体を丸めるが、痛みは収まらない。足が浮いている感覚になったがすぐに地面に足が付いた。
「今日のは動物系かー」
セレストがこちらを見ている。だが、彼女と俺は同じくらいの身長なのに視線か合わない。
「何が起きたんだ?」
「手鏡どうぞ」
セレストはどこからか、小さい鏡を取り出して俺に向けた。そこに写り込んでいたのは。
「犬!」
「フフッ。その反応が見たかった」
俺は隣の二人に目を向ける。そこには大きな肉食の鳥、鷹とポニーがいた。
「エンチャントクレープはね、食べると魔法を得られるの」
「先に言ってくれ!」
「メニューの注意書に書いてあるよ」
俺は椅子から手(前足)を持ち上げてメニューを手で開く。爪に引っ掻けるのに数分格闘した。
「本当に書いてある!」
読み忘れた俺の落ち度だ。
「スマホ、カメラ。俺が何とかするから……」
二人を見たが、側には居なかった。出入口を見ると蹄を鳴らして走るポニーと羽ばたいた鷹がいた。
「早く追わないと、セレストは無事か?」
俺がセレストに目を向けると、彼女は居らず。毛並みの良い猫がいた。
「ウワァァ!」
どうしようかと椅子から飛び降りて、慌てて歩き回る俺に猫が前足でタッチした。
「大丈夫、追いかけましょう」
「でも支払いが!」
「私が払っておいたよ、悠人の財布から」
「ありがとう! やっぱり奢る流れだった……」
「見失う前に行きましょ」
セレストに連れられて俺は町に出た。財布を入れた鞄を咥えて外に出ると、ポニーがまだ居てくれた。
「お前はどっちだ?」
「スマホよ! なんか好き勝手飛び回ってるあの子とは違うんだから」
鷹に変身したのはカメラだった。でも、どちらかと言えば穏やかな彼女が何故あんな活発に?
「鞄を持っててくれるか?」
「それだけではないわ!」
ポニーとなったスマホは一旦座り鼻先で背中を指す。
「乗って、行き先は町の中央。一緒にあのおバカを探しましょう!」
「いつもと逆だな! じゃあ頼む」
俺とセレストはポニーに乗って、町を駆けた。
動物達だけで走る様は物珍しい筈だが町の人は慣れているのか道を空けてくれる。
初めての馬上は程よい揺れがあり、流れる風が心地よい。人の姿だったら楽しめただろうな。犬の短い手足で何とか掴まっているのが現状だ。
「はぐれてしまったらどうしよう……」
「大丈夫よ。時間で魔法の効果が切れるから」
「飛んでたら落ちるじゃん!」
それにカメラは魔法の効果が切れることを知らない。何としてでも合流して伝えなければならない。
行く手の上空に翼をはためかせた鷹が見える。カメラはこっちが見えないのか、気にせずに飛行を続ける。彼女の魔法が解ける前に呼び掛けないと。犬の声で届くかな?
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