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2章

輝く町

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 ダンジョンの中にある広大な草原を歩き通した俺たちは、ようやく町にたどり着いた。

 ダンジョンの天井に光る鉱石の光が、昼間のような明かりで町を照らす。町の入り口に総勢百人ほどの集団が来た姿はパレードのようにも見える。みんなボロボロなのだが。

 町は賑やかで古風な建物が大通りを埋め尽くしていた。
 入り口から見た町は、きれいに並んだ石畳が足元に広がり数多の店がある。遠くに大きな建物もある。

 見通せないほど広い大通りを見る。鍛冶屋、武器屋。食料品、軽食の屋台、ビンに入った薬液を売る店や、保存食になるような魚や肉を干したものの店。その他にも二階建ての大きな建物が幾つもある。
 
 店の周りには多彩な輝きがある。ダンジョンの天井から採取した光る鉱石だろう。幻想的な灯りが通りを照らしている。

 大通りの中心に連なって並んだ大きな噴水があり、水しぶきが宙を舞い、店の灯りと相まって水滴が虹色に輝いていた。

 輝きが町全体を神秘的な雰囲気にしている。だが、人々の活気も光る鉱石に負けず劣らず。活気がある町だった。

「ここが、本当にダンジョン内部の町なのか?」

「ああ、これでも小さい方の町だ。僕たちはこうしてダンジョンに町を作って暮らしている」

 俺は天井を凝視したが、岩肌らしいものは見えず空と大差ないほどの距離があるのがわかる。凛音も町についての考察を呟きながら笑顔で町を観察していた。

「無事について良かった」

 一番始めに安心を口にしたのはリュセラだ。彼は隊列を率いてここまで導いてくれた。俺に出来ないことを年下のリュセラは成したのだ。

「ありがとう! リュセラ」

 凛音が感謝を告げるとリュセラは照れた。すると町の賑わいに負けない声が背後から響いた。救助した人々だ。彼らは喜び、祈りを捧げたり、跳び跳ねたりして感情を表現した。

「俺は少し不安になってくるな……」

「どうしてー? 一歩前進したのに」

「こんな大きなダンジョンで、望むものを見つけられるのだろうか?」

 俺の目的は妹の足を治す方法。凛音の目的は母親の病気を治す方法。

「ダンジョンを探すって軽く考えていたけど、この雄大な景色を見ると困難な目的だなと」

「困難は承知の上来たんでしょ。ならお互いに出来ることをしようよ」

「出来ることか……。そうだな。道のりは困難でも、ここまで来たんだ」

 俺の言葉をきいて凛音は笑顔になる。彼女のお陰で前向きになれた。彼女と居ることで心細さもなく安心できる。トライの暴走がなければ。

「ありがとう」

「感謝の準備しとこうよ、目的を果たした時の為に」

 俺のポケットからスマホが飛び出してきた。釣られて鞄からカメラも出てくる。

「私たちも居るんだから大丈夫よ!」

「妹さんにも良く触ってもらっていたので、私も頑張ります」

「ああ、やってやろう」

「俺もいるぜ、悠人」

 この声はゴールドボーイだ。姿が見えないが。大きなリュックを背負って一緒に歩いてきたはずなのに。

「ここだよ、ポケットに手を突っ込んでみな」

 俺がポケットを探ると固い感触がある。一枚の金貨が入っていた。

「分身解けなくなったんじゃないのか?」

「悠人が俺をアーツにしてくれたから、能力を得たんだ。俺が見つかりゃ追放されちまうからな」

「なるほど。助かる」

「良いってことよ。俺もあの湖から連れ出してもらったからな」

「これからもよろしくな、みんな」

 凛音にリュセラ、鍋、スマホ、カメラ、ゴールドボーイ、セレスト。だが、町の入り口から離れた所に、もう一人の仲間がいた。

「どうした、ドラバサミ?」

「俺はここまでだ!」

「どうしてだ?」

 ここまで、トラバサミには手助けをしてもらった。恩返しだってまだしていない。

「トラバサミにもこの町に行く目的が有ったんじゃないのか」

「これが目的だ! みんなを無事に送り届けること」

「そうだったのか、ありがとう」

 俺から何かお礼になるものを。鞄を探りながら彼の別の目的を思い出した。そして、袋を取り出した。トラバサミの元へ駆け寄った俺は彼に袋を差し出す。

「これは?」

「俺の世界のお茶だ、パックに入っているから保存も効く」

「俺は虎だぞ、お茶を作れない」

「作ってもらいな、獣避けの柵に」

 トラバサミは俺を見た。

「ありがとう! 頼んでみる」

 お茶の袋を受け取って、トラバサミは俺たちに背を向けた。彼は一度だけ振り返り、頭を下げる。そして、そのまま走って帰っていった。

「いいの? ストックが減るのに」
 
 トラバサミに手を振っている凛音は俺の側に立つ。

「良いんだ、世話になったからな」

「私も何か渡したかったなー。私が持ってるもの獣避けの柵の好みじゃないだろうし」

「仕方ないさ、また会った時にすればいい」

「あの二人もうちょい後押ししたいもんね」

「確かに。必要無いかもだけど」

「両思いっぽいからね」

 こちらは片想いっぽいがな。俺はリュセラの方を見る。彼の視線は丁度凛音に向いていた。

 彼らに進展がないのはリュセラが色恋が苦手なのか、凛音が子供過ぎるだけか。両方な気もするが。

 セレストが俺を見ているのに気が付いた。見つめられている状況に耐えられず、声をかける。

「無事に着いて良かったな」

「あなた達のお陰です。迷える人々も救えましたし、私の仕事も終わりました」

「これからどうするんだ?」

「職場に戻るのも良いですが、あなたに付いていってもいいですか?」

「構わないけど、なぜ?」

「興味があるの、悠人に」

 俺は気恥ずかしくなる。それってどういう意味だ? 考えすぎだとは思うが、意識してしまう。
 
「ハチミツくれるし」

「それが目的か! ストックが買えるまであげられないぞ」

「ちょっとくらい、いいでしょー」

「一回で容器の三割使うだろ!」

「悠人だって、同じくらい使うじゃん!」

 セレストは荒くなった言葉に気がついて直す。大人しい咳払いをしてから俺に背を向けた。

「じゃあ、また後で。私はちょっと散策してから合流します」

「俺たちも散策するけど、一緒じゃなくて大丈夫か?」

「大丈夫、あなたの匂い覚えたから」

「なんか、変態っぽいな……」

「あなたが変態でしょ。そんなにスパイス持ってたら誰でもわかりますー!」

 俺はセレストを見送った。彼女との親しさを感じている。それはそうと、スパイスのフタが開いているか確認しこう。

「悠人。俺もここまでだ」

 声をかけてきたのはアライだ。

「そうか、アライさんも。首輪は?」

「外してもらった。俺のアーツだったがな」

「返してもらうように頼もうか?」

「いいさ、借り物だったし。これで予定どおり着いたからな」

 アライは手を上げた。それを合図に、町の人の中からローブ姿の人々が現れる。悲劇教団だ。

「借りは返させてもらうぜ!」

 そして、俺たちは囲まれていた。敵の数は多く、俺たちはボロボロだ。ここまで休みを減らして来たのが仇となる。戦えない人々も連れている。
 だが、今度は俺も戦える! でも、町でゴールドボーイを出せ無いことに気がついた。
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