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1章
草原の脅威5
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俺たちの前に広がる草原に風がそよぎ、生い茂った草が揺れる。昼間の日差しのようにダンジョン内を照らす鉱石は遥か天井に輝いている。
先程までの隊列は全員連れ去られ、人間は俺とセレストだけとなった。時が止まったかのような草原で立ち止まり。周囲をトラバサミとゴールドボーイが警戒する。
「助けよう、皆を」
「あなたは戦える?」
「いや、俺は一般人だ」
助けたいが、俺には戦闘出来る力も知識もない。
「意地悪だったね。仲間を助けようとするあなたはすでに戦士よ」
セレストは俺たちを囲っている魔法を解いた。そして、ゴールドボーイたちが側にやってくる。
「凛音たちを助けたい、手伝ってくれるか?」
「俺たちは構わないぜ。仲間だからな」
「敵の居場所に見当がつかないな……。でも、俺たちにはトラバサミがいる。匂いで辿って貰えばいい」
「ああ、任せろ!」
トラバサミの嗅覚は動物並みに鋭い。この草原のどこかに居る凛音たちを見つけてくれるだろう。
「そんな悠長なことやってられないよ」
「なぜだ、セレスト?」
「あの魔法は魅了する魔法。魅了した相手を従わせる力がある。さっきのウサギたちも魔法を掛けられて操られているの」
「それって、凛音たちも操れるってことか?」
「そう。救出が遅れると、おそらく操って働かせるでしょうね」
「敵の戦力にされるのか。そうなったらヤバい、急がないと」
凛音も一般人だ、リュセラと違う。戦う力なんてない。
奴隷にされて売られてしまうかも知れない。
そんなこと有ってはならない。だって彼女は母親を助けたいだけなんだ。割りと採取とか、冒険の方も楽しんでそうだけど。
「そうだ、ゴールドボーイなら分身して探せるよな?」
「今は厳しいな。俺たち道具も能力を使うには魔力がいる。もう少し待てば使えるようになるが」
俺がゴールドボーイをアーツにすれば。この言葉を飲み込んだ。彼をアーツにするのに躊躇いがある。
「けど、どうすれば……」
「遮らずの加護」
セレストが草原に目を向けながら、何かを唱えると俺の肩を叩き、前に出た。
「行きましょうか」
「セレスト、居場所が分かったのか?!」
「私の魔法は否定加護って言ってね、否定した言葉の通りにできるの」
「ありがとう。協力してくれて」
「良いのよ、それが私の仕事だから。ハチミツを分けてくれるし」
「少し自制心をもって欲しい所だが」
セレストがいると今日の内にハチミツが無くなりそうだ。百均製ハチミツボトルが残り少ない。自分も使っているが。
「鞄に調味料詰めまくってる人に言われたくない」
「本当にシスターなのか?」
「一応シスター。武器も持っているけれど」
「異世界ではそう言うものなのか。冒険に出るなら自衛できた方が良いもんな」
そう言うと、セレストは修道服のスカートの裾を持ち上げた。ゴトッと重たいものが落ちる音がして、足元を見る。
「拳銃? なぜセレストがこれを?」
「こっちの世界に転がり落ちていた物を、使えるように改良した魔法銃よ」
リュセラといい、セレストといい現実世界の物を持っている。
ダンジョンによって繋がった世界だからこちらの物を持っているのは理解できる。だが、それは持っていった人が居るということだ。
ダンジョンへの出入りは禁じられているのに。俺も入ってきたのだが。
「俺に力があれば、セレストを援護出来たのにな……」
「平和な世界なら戦わないのが当然、あなたは悪くない。皆の救出まかせたよ」
「ああ!」
セレストの案内で草原を歩いた。この際もトラバサミとゴールドボーイが警戒してくれる。彼らには魅了は効かないみたいだ。
そして、たどり着いたのは丘のない草原に広がる沢山の天幕と檻。まるで動物園のように広大な場所だった。草原の草を刈り取って作られた土地。
敷地の中には大勢の人々がノロノロと歩いている。洗脳された人々だろう。
他にも様々な動物たちが歩いている。ライオンや、牛に馬。象にワニ。危険な動物たちも含まれているが、周りを襲おうとはしない。
檻に入った動物の他に人も檻に入れられている。
「あんなに被害者が居るのか」
「私たちの勝利条件は、彼らの解放。彼らにかかっている魔法を解けばいい」
「でも、誰が魔法を使っているか分からないぞ」
「檻よ。魔力を見分けると、全部の檻は分身していて、本体の檻を開けばいい」
「魔力って見えるものなのか?」
「誰でも見えるよ。修行すればね」
魔法については詳しくない俺はセレストの言うとおりにしよう。彼女もきっちり観察してくれているから。
「味方を取り戻せば形勢逆転だ。リュセラも居る」
「警戒するのはあの動物たち。見ただけで魅了の魔法で人々を惑わす」
「分かった。忍び込むんだな」
俺たちは動物園に近づいた。そして、草原の草の中に身を潜める。
「ここは慎重に行こう」
セレストに声をかけたが返事はない。なぜなら、彼女は草原を飛び出して居たからだ。
「忍んでないじゃん!」
走り出したセレストは手に持った拳銃で動物や人に当たらないように撃った。洗脳された人々や動物がセレスト群がって、あっという間に押さえ込まれてしまった。
「あの嬢ちゃんアホなのか?」
「助けよう!」
飛び出そうとした俺は、人と動物に埋もれながら手を上げているセレストを見た。
彼女は指でどこかを指し示している。
その先を目で辿ると一つの檻、中には椅子に座ってセレストを見ている男性が一人。彼はローブをまとい、笑顔で外の様子を伺っている。
「あいつの居る檻を開けて引っ張り出せばいいのか」
「考え有っての行動だったか。やるな、セレスト!」
何も言わずに突撃してったけどな。
セレストは敵を見極めてくれた。ならば俺が忍び寄ればいい。俺とトラバサミ、ゴールドボーイで必ず皆を救出して見せる。セレストが陽動をしてくれている間に。
陽動の割には近寄ってきた動物を触っているのだが。後は俺に任せたってことだろう。
先程までの隊列は全員連れ去られ、人間は俺とセレストだけとなった。時が止まったかのような草原で立ち止まり。周囲をトラバサミとゴールドボーイが警戒する。
「助けよう、皆を」
「あなたは戦える?」
「いや、俺は一般人だ」
助けたいが、俺には戦闘出来る力も知識もない。
「意地悪だったね。仲間を助けようとするあなたはすでに戦士よ」
セレストは俺たちを囲っている魔法を解いた。そして、ゴールドボーイたちが側にやってくる。
「凛音たちを助けたい、手伝ってくれるか?」
「俺たちは構わないぜ。仲間だからな」
「敵の居場所に見当がつかないな……。でも、俺たちにはトラバサミがいる。匂いで辿って貰えばいい」
「ああ、任せろ!」
トラバサミの嗅覚は動物並みに鋭い。この草原のどこかに居る凛音たちを見つけてくれるだろう。
「そんな悠長なことやってられないよ」
「なぜだ、セレスト?」
「あの魔法は魅了する魔法。魅了した相手を従わせる力がある。さっきのウサギたちも魔法を掛けられて操られているの」
「それって、凛音たちも操れるってことか?」
「そう。救出が遅れると、おそらく操って働かせるでしょうね」
「敵の戦力にされるのか。そうなったらヤバい、急がないと」
凛音も一般人だ、リュセラと違う。戦う力なんてない。
奴隷にされて売られてしまうかも知れない。
そんなこと有ってはならない。だって彼女は母親を助けたいだけなんだ。割りと採取とか、冒険の方も楽しんでそうだけど。
「そうだ、ゴールドボーイなら分身して探せるよな?」
「今は厳しいな。俺たち道具も能力を使うには魔力がいる。もう少し待てば使えるようになるが」
俺がゴールドボーイをアーツにすれば。この言葉を飲み込んだ。彼をアーツにするのに躊躇いがある。
「けど、どうすれば……」
「遮らずの加護」
セレストが草原に目を向けながら、何かを唱えると俺の肩を叩き、前に出た。
「行きましょうか」
「セレスト、居場所が分かったのか?!」
「私の魔法は否定加護って言ってね、否定した言葉の通りにできるの」
「ありがとう。協力してくれて」
「良いのよ、それが私の仕事だから。ハチミツを分けてくれるし」
「少し自制心をもって欲しい所だが」
セレストがいると今日の内にハチミツが無くなりそうだ。百均製ハチミツボトルが残り少ない。自分も使っているが。
「鞄に調味料詰めまくってる人に言われたくない」
「本当にシスターなのか?」
「一応シスター。武器も持っているけれど」
「異世界ではそう言うものなのか。冒険に出るなら自衛できた方が良いもんな」
そう言うと、セレストは修道服のスカートの裾を持ち上げた。ゴトッと重たいものが落ちる音がして、足元を見る。
「拳銃? なぜセレストがこれを?」
「こっちの世界に転がり落ちていた物を、使えるように改良した魔法銃よ」
リュセラといい、セレストといい現実世界の物を持っている。
ダンジョンによって繋がった世界だからこちらの物を持っているのは理解できる。だが、それは持っていった人が居るということだ。
ダンジョンへの出入りは禁じられているのに。俺も入ってきたのだが。
「俺に力があれば、セレストを援護出来たのにな……」
「平和な世界なら戦わないのが当然、あなたは悪くない。皆の救出まかせたよ」
「ああ!」
セレストの案内で草原を歩いた。この際もトラバサミとゴールドボーイが警戒してくれる。彼らには魅了は効かないみたいだ。
そして、たどり着いたのは丘のない草原に広がる沢山の天幕と檻。まるで動物園のように広大な場所だった。草原の草を刈り取って作られた土地。
敷地の中には大勢の人々がノロノロと歩いている。洗脳された人々だろう。
他にも様々な動物たちが歩いている。ライオンや、牛に馬。象にワニ。危険な動物たちも含まれているが、周りを襲おうとはしない。
檻に入った動物の他に人も檻に入れられている。
「あんなに被害者が居るのか」
「私たちの勝利条件は、彼らの解放。彼らにかかっている魔法を解けばいい」
「でも、誰が魔法を使っているか分からないぞ」
「檻よ。魔力を見分けると、全部の檻は分身していて、本体の檻を開けばいい」
「魔力って見えるものなのか?」
「誰でも見えるよ。修行すればね」
魔法については詳しくない俺はセレストの言うとおりにしよう。彼女もきっちり観察してくれているから。
「味方を取り戻せば形勢逆転だ。リュセラも居る」
「警戒するのはあの動物たち。見ただけで魅了の魔法で人々を惑わす」
「分かった。忍び込むんだな」
俺たちは動物園に近づいた。そして、草原の草の中に身を潜める。
「ここは慎重に行こう」
セレストに声をかけたが返事はない。なぜなら、彼女は草原を飛び出して居たからだ。
「忍んでないじゃん!」
走り出したセレストは手に持った拳銃で動物や人に当たらないように撃った。洗脳された人々や動物がセレスト群がって、あっという間に押さえ込まれてしまった。
「あの嬢ちゃんアホなのか?」
「助けよう!」
飛び出そうとした俺は、人と動物に埋もれながら手を上げているセレストを見た。
彼女は指でどこかを指し示している。
その先を目で辿ると一つの檻、中には椅子に座ってセレストを見ている男性が一人。彼はローブをまとい、笑顔で外の様子を伺っている。
「あいつの居る檻を開けて引っ張り出せばいいのか」
「考え有っての行動だったか。やるな、セレスト!」
何も言わずに突撃してったけどな。
セレストは敵を見極めてくれた。ならば俺が忍び寄ればいい。俺とトラバサミ、ゴールドボーイで必ず皆を救出して見せる。セレストが陽動をしてくれている間に。
陽動の割には近寄ってきた動物を触っているのだが。後は俺に任せたってことだろう。
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