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1章
草原の脅威2
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俺は崖の先端から慎重に縄ばしごを降りると、そこには修道服を身にまとった少女が倒れていた。
彼女はこちらに背を向けて倒れている。ここはダンジョン。モンスターがいる危険な場所だ。
「大丈夫か!」
俺は彼女に駆け寄り肩に触れた。そして、やや恥ずかしい気持ちになった。見知らぬ少女に触れたことは数少ないので。
顔を覗き込むと、まだ幼い少女だ。赤毛の髪の毛は肩までの長さで揃えてある。整えられた髪型を見るに、それなりの生活をしている令嬢なのかも知れない。
彼女の歳は俺と変わらないのに、落ち着いた穏やかな雰囲気がある。服装のせいだろうか。
「寝てる!」
このダンジョンで、特に布団もなしに。このモンスターがいる場所では危険だ。町でもアウトな無防備だろう。
警戒のために辺りを見回す。彼女の側には洞窟が口を開けていた。洞窟の奥は暗くて見えない。行き止まりのようだ。
眠っていた少女が目を開けた。俺は彼女の肩を持っていて、顔が近いことに気がつく。
「誰?」
少女の開いた瞳は黄金。その美しさに、俺は少し目を止めてしまう。
「ごめん、今離れる!」
少女は穏やかな仕草で体を起こして、俺と向き合った。
「心配で起こしたが、無事なら良かった」
「私の宗派では、寝込みを襲うのは罪に当たりますよ?」
それを聞いて怖くなった。一般の高校生はこんな場合どうすればよかった? 遠くから声をかけても良かったはずだ。
「ど、どうすれば?」
犯罪者になるのはまずい。母にも妹にも迷惑が掛かる。もとの世界に戻れば関係ないとしてもだ。
「冗談です。許しますよ。あなた、甘い香りがするので」
彼女が詰め寄って来たので、俺は後ろ手をついて後ずさりした。
「助かった。でも、なぜこんなところで寝ていたのか?」
「それは、洞窟の中の人を守っていたので……」
「見張りなのに寝ているのは無理がないか?」
「出来ますー! 現にモンスターに襲われてない!」
彼女は今までの落ち着いた様子から一転した、幼い発言。幼い反抗心のある子供っぽい言葉。自分の発言に気がついた彼女は慌てて身を正す。
「俺は悠人」
「私はセレストです。ここへは役があったので来ました」
彼女はなにも持っていない。俺たちのように冒険装備が有るわけでもなく、武器すら見当たらない。恐らくアーツを持っていて、それの形状を変化させているのだ。
「ただ、食料が尽きてしまいまして、他の方々の分も分けては貰えませんか?」
「いいぞ。その前にお茶を飲んでくれ」
「なぜでしょう?」
「急に食事をすると体に良くない。冒険では水分を先に飲ませるんだ」
「詳しいですね」
「昔、父さんに習ったから」
「分かりました。混ぜ物していないでしょうね?」
「しないって。犯罪っぽく扱われるとヒヤヒヤする」
「心配性なのですね。大丈夫。私そう言うの見分けられるので」
俺は鞄から水筒を取り出した。コーヒーもあるが、お茶の方が飲みやすいだろう。それと一緒にハチミツを手に持っておく。
「口に合わなければ、ハチミツを足すといい」
俺の作ったお茶はこだわっていて、苦味の少ない甘味のある味だ。予備のカップを彼女に渡す、一口飲んだセレストはハチミツを受け取って入れた、大量に。
「掛けすぎじゃないか?」
「苦いのは苦手でして」
「わかる。でも、ハチミツも残り少なくなったな」
「すみません。冒険で食料困難は分かってるつもりでしたが、空腹でつい」
「後ビンが四つになってしまった」
「そんなに減ってないじゃない!」
セレストはまた、感情的になったので姿勢を正す。
「俺と歳も変わらないし、気さくに接してもいいんだそ?」
「いけません。仮にも上役ですので、威厳が大事なんです」
お茶を持つ彼女の手は固く握られている。無理をしているのは明らかだ
「それと、この事は誰にも言わないように!」
「ハチミツをいっぱい入れたことか?」
「違います! それもそうですが……。ダンジョンで町にたどり着けずに足止めを食らった事です!」
「仕方ないよ。人助けしてたんだろ」
冒険なんてしたことのない人々には、ダンジョンは難しいものだ。セレストのように行き詰まるのは当然だ、他の人に関してもそうで、命が掛かれば我が身かわいさに人を助けられない。
だが彼女は見捨てず、助けてここまで来たのだ。ならば。
「一緒に町まで行こう」
「では、他の皆様も連れていきますね」
洞窟の奥から一人の女性が、三人の女性、五人の男性など。続けて出てきた人数は数えきれない、五十人はいる。それぞれ綺麗な服を着ていたり。鎧を着た人や、武器を持っている人など。大勢の男女が集まっているが、みんなボロボロだった。
「多すぎー!」
「許して上げてください。皆様それぞれの理由かあってダンジョンに入ったのです」
「彼氏を待つために……」
「お宝が欲しくてつい……」
「腕試しで……」
「命を大事にな!」
こうして、大勢の人々を連れていく事になった。この先の旅の過酷さは増していく。戦ってくれそうな人も大勢の居るのだが。俺の手持ち食材じゃ足りない。
だが、疑問が出来た。これだけの人に食料を配り、守っていたってことか。彼女一人で。その実力は相当だろう。
俺はセレストに対して親しみあった。苦いものが苦手だったり、大人に振る舞う割には少女だ。そして、人を見捨てなかった優しさを持っている。
そう言えば勢いで忘れてたが、何者なのかはぐらかされた気がする。
彼女はこちらに背を向けて倒れている。ここはダンジョン。モンスターがいる危険な場所だ。
「大丈夫か!」
俺は彼女に駆け寄り肩に触れた。そして、やや恥ずかしい気持ちになった。見知らぬ少女に触れたことは数少ないので。
顔を覗き込むと、まだ幼い少女だ。赤毛の髪の毛は肩までの長さで揃えてある。整えられた髪型を見るに、それなりの生活をしている令嬢なのかも知れない。
彼女の歳は俺と変わらないのに、落ち着いた穏やかな雰囲気がある。服装のせいだろうか。
「寝てる!」
このダンジョンで、特に布団もなしに。このモンスターがいる場所では危険だ。町でもアウトな無防備だろう。
警戒のために辺りを見回す。彼女の側には洞窟が口を開けていた。洞窟の奥は暗くて見えない。行き止まりのようだ。
眠っていた少女が目を開けた。俺は彼女の肩を持っていて、顔が近いことに気がつく。
「誰?」
少女の開いた瞳は黄金。その美しさに、俺は少し目を止めてしまう。
「ごめん、今離れる!」
少女は穏やかな仕草で体を起こして、俺と向き合った。
「心配で起こしたが、無事なら良かった」
「私の宗派では、寝込みを襲うのは罪に当たりますよ?」
それを聞いて怖くなった。一般の高校生はこんな場合どうすればよかった? 遠くから声をかけても良かったはずだ。
「ど、どうすれば?」
犯罪者になるのはまずい。母にも妹にも迷惑が掛かる。もとの世界に戻れば関係ないとしてもだ。
「冗談です。許しますよ。あなた、甘い香りがするので」
彼女が詰め寄って来たので、俺は後ろ手をついて後ずさりした。
「助かった。でも、なぜこんなところで寝ていたのか?」
「それは、洞窟の中の人を守っていたので……」
「見張りなのに寝ているのは無理がないか?」
「出来ますー! 現にモンスターに襲われてない!」
彼女は今までの落ち着いた様子から一転した、幼い発言。幼い反抗心のある子供っぽい言葉。自分の発言に気がついた彼女は慌てて身を正す。
「俺は悠人」
「私はセレストです。ここへは役があったので来ました」
彼女はなにも持っていない。俺たちのように冒険装備が有るわけでもなく、武器すら見当たらない。恐らくアーツを持っていて、それの形状を変化させているのだ。
「ただ、食料が尽きてしまいまして、他の方々の分も分けては貰えませんか?」
「いいぞ。その前にお茶を飲んでくれ」
「なぜでしょう?」
「急に食事をすると体に良くない。冒険では水分を先に飲ませるんだ」
「詳しいですね」
「昔、父さんに習ったから」
「分かりました。混ぜ物していないでしょうね?」
「しないって。犯罪っぽく扱われるとヒヤヒヤする」
「心配性なのですね。大丈夫。私そう言うの見分けられるので」
俺は鞄から水筒を取り出した。コーヒーもあるが、お茶の方が飲みやすいだろう。それと一緒にハチミツを手に持っておく。
「口に合わなければ、ハチミツを足すといい」
俺の作ったお茶はこだわっていて、苦味の少ない甘味のある味だ。予備のカップを彼女に渡す、一口飲んだセレストはハチミツを受け取って入れた、大量に。
「掛けすぎじゃないか?」
「苦いのは苦手でして」
「わかる。でも、ハチミツも残り少なくなったな」
「すみません。冒険で食料困難は分かってるつもりでしたが、空腹でつい」
「後ビンが四つになってしまった」
「そんなに減ってないじゃない!」
セレストはまた、感情的になったので姿勢を正す。
「俺と歳も変わらないし、気さくに接してもいいんだそ?」
「いけません。仮にも上役ですので、威厳が大事なんです」
お茶を持つ彼女の手は固く握られている。無理をしているのは明らかだ
「それと、この事は誰にも言わないように!」
「ハチミツをいっぱい入れたことか?」
「違います! それもそうですが……。ダンジョンで町にたどり着けずに足止めを食らった事です!」
「仕方ないよ。人助けしてたんだろ」
冒険なんてしたことのない人々には、ダンジョンは難しいものだ。セレストのように行き詰まるのは当然だ、他の人に関してもそうで、命が掛かれば我が身かわいさに人を助けられない。
だが彼女は見捨てず、助けてここまで来たのだ。ならば。
「一緒に町まで行こう」
「では、他の皆様も連れていきますね」
洞窟の奥から一人の女性が、三人の女性、五人の男性など。続けて出てきた人数は数えきれない、五十人はいる。それぞれ綺麗な服を着ていたり。鎧を着た人や、武器を持っている人など。大勢の男女が集まっているが、みんなボロボロだった。
「多すぎー!」
「許して上げてください。皆様それぞれの理由かあってダンジョンに入ったのです」
「彼氏を待つために……」
「お宝が欲しくてつい……」
「腕試しで……」
「命を大事にな!」
こうして、大勢の人々を連れていく事になった。この先の旅の過酷さは増していく。戦ってくれそうな人も大勢の居るのだが。俺の手持ち食材じゃ足りない。
だが、疑問が出来た。これだけの人に食料を配り、守っていたってことか。彼女一人で。その実力は相当だろう。
俺はセレストに対して親しみあった。苦いものが苦手だったり、大人に振る舞う割には少女だ。そして、人を見捨てなかった優しさを持っている。
そう言えば勢いで忘れてたが、何者なのかはぐらかされた気がする。
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