7 / 66
1章
恋する有刺鉄線
しおりを挟む
俺たちに紛れ込んでいた悲劇教団、助けたかっ隊隊員アライ。俺は鞄を盗られていた。これは危機だ、主に俺が落ち着かないのがあるが。
「リュセラ、見張ってたんじゃないのか?」
「見張っていた。だが奴は医者だと思ったから通してしまった」
「なぜ?」
「医者が良く持つハーブの香りもしたし、いい鞄持ってたから」
「基準がおかしいだろ!」
アライはローブから鞭を取り出す。奴は明かりを持っていない。ヘッドライトは恐らく異世界にはない。似たようなものは有りそうだが。
「貴様らを始末するために遣わされた俺にはこれがある!」
鞭を伸ばしピシャリと地面を打つ。鞭の先端が当たった地面は深く抉れた。俺が見た感じでは普通の鞭なのに。
「なにそれー! どうなってるの?」
凛音が前に出た。彼女は柄長のライトを出すわけでもなく、なにも持たずにいる。
「興味より危機感を持ってくれ!」
「前に出てきたな、やっちまえ。有刺鉄線!」
敵は鞭を凛音に向けて振るった。だが、鞭は有らぬ方向に攻撃をした。
「嫌だ」
声を出したのは鞭だった。
「なぜだ?」
アライは混乱している。鞭は敵の手を離れそのまま立った。
「レディを叩くなんて、したくない」
「バカが。お前は俺のアーツだろ!」
「私は元からネリー様のアーツだ」
「黙って言うことを聞け!」
鞭に向けて怒鳴り付けた敵は、鞭を掴もうとした。すると鞭は変化した。トゲの有る金属製の鉄線。動物避けに使われる有刺鉄線だ。
「私はあのレディに用がある」
鞭はこちらを向いた。どこが前なのか分からないが、恐らく凛音を見ている。
「私は有刺鉄線だが、生き物の温もりが好きなんだ。どうか私を抱き締めて欲しい」
「有刺鉄線触ったこと無いからいいよー」
「「良くない!」」
俺はリュセラと同時に叫んだ。有刺鉄線なんて触ったら血まみれになる。俺達が静止をするために動くよりも早く有刺鉄線は走り出した。
「わーい!」
凛音は両手を広げて受け入れる体制に。初めて見る火に触ろうとする子供か。俺はかつての父さんの気持ちが分かった。
だが、有刺鉄線はみるみる内に姿を変えていった。ハンサムな成人男性、やや、遊び慣れた柔らかい表情をした男性だ。
有刺鉄線は傷付けまいと姿を変えてくれたのだ。人の姿なら問題ないだろう。絵面が犯罪的な気もするが。
走って向かってくる有刺鉄線に、凛音は手のひらを見せてストップを促した。
「なんかお父さんみたいだからやだ」
有刺鉄線は両手で頭を抱え込んで、床にうずくまった。
「私は気を遣っただけなのに、よくも純情を弄んだな!」
有刺鉄線は立ち上がり、腕を振り上げた。腕が鞭へと変化すると、凛音めがけて振り下ろす。
「させない!」
凛音の前にリュセラが飛び出した、手には100均のお玉が握られている。お玉で攻撃を受けた。
「そんなもので私の攻撃を防げるとでも?」
有刺鉄線は鞭の先端を元の姿、有刺鉄線へと戻した。鞭の柔軟さと、有刺鉄線の頑丈なトゲ。だからさっき地面が抉れる程の威力が有ったのだ。
お玉で受けたリュセラは攻撃の威力に弾き飛ばされる。まだリュセラは立っている。だが、お玉を持つ手が震えている。
「リュセラ、どうした?」
「怪我した、お玉が……」
「そっちかい!」
それにしてもお玉なのに頑丈すぎる。俺の知る100均製品は手荒に使うと壊れてしまうからだ、でも確かに同じ商品が100均に有った。普通のお玉でも有刺鉄線の攻撃は防げないのだが。
「邪魔をするな!」
有刺鉄線は更に鞭を振るった。リュセラは急に敵に背を向けて立った。
「リュセラ、なにを……」
「これ以上傷付くのを見たくないんだ!」
リュセラの体に有刺鉄線が当たり、彼の着ていたローブが裂ける。体にトゲが刺さりリュセラは呻いた。
「ぐぅ!」
「くそ、どうすれば!」
怪我をした俺が出ていっても、戦えるわけではない。リュセラは道具を守るあまり攻撃出来ない。そんな時だった。凛音がリュセラの肩に手を置いた、そのまま彼を退けで前に出たのだ。
「私、間違ってた」
「よせ、あんな攻撃食らったら!」
有刺鉄線は鞭を凛音めがけて振り下ろす。
「私はあなたを信じる!」
振り下ろされた鞭は凛音に当たる瞬間に光るリボンに変わった。それは獣避けに使われるテープだ。立てた棒にくくりつけて風によって揺れるとテープに反射する光が動き獣を寄せ付けにくくする。
凛音はリボンをふわりと受け止めた。
「あなたは優しさからその姿になったのに、拒絶してごめんなさい」
「ありがとう、久しぶりに触れてもらった」
有刺鉄線はテープに変換し凛音の手の平に収まった。凛音は更にテープを観察する。
「色が金銀で、変わった香りがする。動物が苦手な香りなんだ。九十メートル位だっけそれとそれと……」
「想定通りだ! 良くやった有刺鉄線。悲劇をここに!」
悲劇教団のアライが叫んだ。彼の手にはあの宝石。リュセラから光が溢れて、宝石に吸収された。
「また、やられた……」
「お前はいいカモだな、伝説の魔法使いリュセラ!」
悲劇教団の目的は果たされた。またもや魔力を奪われてしまう。俺はリュセラに駆け寄る。
「だい……、じょうぶだ、まだ動ける」
「はっは! これで俺も昇進できる、感謝してるぜー」
アライの笑い声。俺は悔しさを噛み締める。人の不幸を利用するなんて許せないのに、また横暴を許してしまった。
「で、武器は有るの?」
凛音が問いかけた。彼女の手には鞭。有刺鉄線を変身させたものだろう。
「あ、有るに決まってるだろ」
「構えないなら先にやるね」
凛音の攻撃は素早く的確に、アライのローブを引き裂いた。怯んだアライに俺は走って近づき、体当たりをした。
体当たりをした時にアライから鞄が落ちる。それは俺の鞄だった。慣れ親しんだスパイスたちの匂い。
「俺のカメラが!」
壊れていたらどうしようという不安に、うなだれた俺。アライはまた宝石を出した。
「悲劇をここに」
奴が宝石をこちらに向けた瞬間にひどい脱力に襲われ、足が震え、転んだ。
「俺はツイていたようだな! あばよ!」
アライは俺の鞄を拾い上げて、走り去っていく。俺は追いかけようとしたが、手を伸ばすことしか出来ずに。
凛音とリュセラが俺の側に来た。
「大丈夫?」
「全てを失った……。財布とスマホしかない」
調味料とカメラのない生活なんて想像できない。ダンジョンだから調達も出来ない。絶望した時だった。
「スマホが有るじゃない!」
俺のポケットから声がする。とうとう俺の物も命を得たみたいだ。でも、ダンジョンって電波届くのかな。
「リュセラ、見張ってたんじゃないのか?」
「見張っていた。だが奴は医者だと思ったから通してしまった」
「なぜ?」
「医者が良く持つハーブの香りもしたし、いい鞄持ってたから」
「基準がおかしいだろ!」
アライはローブから鞭を取り出す。奴は明かりを持っていない。ヘッドライトは恐らく異世界にはない。似たようなものは有りそうだが。
「貴様らを始末するために遣わされた俺にはこれがある!」
鞭を伸ばしピシャリと地面を打つ。鞭の先端が当たった地面は深く抉れた。俺が見た感じでは普通の鞭なのに。
「なにそれー! どうなってるの?」
凛音が前に出た。彼女は柄長のライトを出すわけでもなく、なにも持たずにいる。
「興味より危機感を持ってくれ!」
「前に出てきたな、やっちまえ。有刺鉄線!」
敵は鞭を凛音に向けて振るった。だが、鞭は有らぬ方向に攻撃をした。
「嫌だ」
声を出したのは鞭だった。
「なぜだ?」
アライは混乱している。鞭は敵の手を離れそのまま立った。
「レディを叩くなんて、したくない」
「バカが。お前は俺のアーツだろ!」
「私は元からネリー様のアーツだ」
「黙って言うことを聞け!」
鞭に向けて怒鳴り付けた敵は、鞭を掴もうとした。すると鞭は変化した。トゲの有る金属製の鉄線。動物避けに使われる有刺鉄線だ。
「私はあのレディに用がある」
鞭はこちらを向いた。どこが前なのか分からないが、恐らく凛音を見ている。
「私は有刺鉄線だが、生き物の温もりが好きなんだ。どうか私を抱き締めて欲しい」
「有刺鉄線触ったこと無いからいいよー」
「「良くない!」」
俺はリュセラと同時に叫んだ。有刺鉄線なんて触ったら血まみれになる。俺達が静止をするために動くよりも早く有刺鉄線は走り出した。
「わーい!」
凛音は両手を広げて受け入れる体制に。初めて見る火に触ろうとする子供か。俺はかつての父さんの気持ちが分かった。
だが、有刺鉄線はみるみる内に姿を変えていった。ハンサムな成人男性、やや、遊び慣れた柔らかい表情をした男性だ。
有刺鉄線は傷付けまいと姿を変えてくれたのだ。人の姿なら問題ないだろう。絵面が犯罪的な気もするが。
走って向かってくる有刺鉄線に、凛音は手のひらを見せてストップを促した。
「なんかお父さんみたいだからやだ」
有刺鉄線は両手で頭を抱え込んで、床にうずくまった。
「私は気を遣っただけなのに、よくも純情を弄んだな!」
有刺鉄線は立ち上がり、腕を振り上げた。腕が鞭へと変化すると、凛音めがけて振り下ろす。
「させない!」
凛音の前にリュセラが飛び出した、手には100均のお玉が握られている。お玉で攻撃を受けた。
「そんなもので私の攻撃を防げるとでも?」
有刺鉄線は鞭の先端を元の姿、有刺鉄線へと戻した。鞭の柔軟さと、有刺鉄線の頑丈なトゲ。だからさっき地面が抉れる程の威力が有ったのだ。
お玉で受けたリュセラは攻撃の威力に弾き飛ばされる。まだリュセラは立っている。だが、お玉を持つ手が震えている。
「リュセラ、どうした?」
「怪我した、お玉が……」
「そっちかい!」
それにしてもお玉なのに頑丈すぎる。俺の知る100均製品は手荒に使うと壊れてしまうからだ、でも確かに同じ商品が100均に有った。普通のお玉でも有刺鉄線の攻撃は防げないのだが。
「邪魔をするな!」
有刺鉄線は更に鞭を振るった。リュセラは急に敵に背を向けて立った。
「リュセラ、なにを……」
「これ以上傷付くのを見たくないんだ!」
リュセラの体に有刺鉄線が当たり、彼の着ていたローブが裂ける。体にトゲが刺さりリュセラは呻いた。
「ぐぅ!」
「くそ、どうすれば!」
怪我をした俺が出ていっても、戦えるわけではない。リュセラは道具を守るあまり攻撃出来ない。そんな時だった。凛音がリュセラの肩に手を置いた、そのまま彼を退けで前に出たのだ。
「私、間違ってた」
「よせ、あんな攻撃食らったら!」
有刺鉄線は鞭を凛音めがけて振り下ろす。
「私はあなたを信じる!」
振り下ろされた鞭は凛音に当たる瞬間に光るリボンに変わった。それは獣避けに使われるテープだ。立てた棒にくくりつけて風によって揺れるとテープに反射する光が動き獣を寄せ付けにくくする。
凛音はリボンをふわりと受け止めた。
「あなたは優しさからその姿になったのに、拒絶してごめんなさい」
「ありがとう、久しぶりに触れてもらった」
有刺鉄線はテープに変換し凛音の手の平に収まった。凛音は更にテープを観察する。
「色が金銀で、変わった香りがする。動物が苦手な香りなんだ。九十メートル位だっけそれとそれと……」
「想定通りだ! 良くやった有刺鉄線。悲劇をここに!」
悲劇教団のアライが叫んだ。彼の手にはあの宝石。リュセラから光が溢れて、宝石に吸収された。
「また、やられた……」
「お前はいいカモだな、伝説の魔法使いリュセラ!」
悲劇教団の目的は果たされた。またもや魔力を奪われてしまう。俺はリュセラに駆け寄る。
「だい……、じょうぶだ、まだ動ける」
「はっは! これで俺も昇進できる、感謝してるぜー」
アライの笑い声。俺は悔しさを噛み締める。人の不幸を利用するなんて許せないのに、また横暴を許してしまった。
「で、武器は有るの?」
凛音が問いかけた。彼女の手には鞭。有刺鉄線を変身させたものだろう。
「あ、有るに決まってるだろ」
「構えないなら先にやるね」
凛音の攻撃は素早く的確に、アライのローブを引き裂いた。怯んだアライに俺は走って近づき、体当たりをした。
体当たりをした時にアライから鞄が落ちる。それは俺の鞄だった。慣れ親しんだスパイスたちの匂い。
「俺のカメラが!」
壊れていたらどうしようという不安に、うなだれた俺。アライはまた宝石を出した。
「悲劇をここに」
奴が宝石をこちらに向けた瞬間にひどい脱力に襲われ、足が震え、転んだ。
「俺はツイていたようだな! あばよ!」
アライは俺の鞄を拾い上げて、走り去っていく。俺は追いかけようとしたが、手を伸ばすことしか出来ずに。
凛音とリュセラが俺の側に来た。
「大丈夫?」
「全てを失った……。財布とスマホしかない」
調味料とカメラのない生活なんて想像できない。ダンジョンだから調達も出来ない。絶望した時だった。
「スマホが有るじゃない!」
俺のポケットから声がする。とうとう俺の物も命を得たみたいだ。でも、ダンジョンって電波届くのかな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる