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第一章 過去への旅立ち
運命の出会い
しおりを挟むアリスはまだたった15歳ながら、彼女の心には絶望の雲が垂れ込めていました。このままでは彼女の人生もわずかなものであり、絶望に打ちひしがれながら生きていくしかないのだと思っていたのです。
なぜなら、アリスの住んでいる街は邪悪な者たちに占拠されており、その者たちによって放たれる邪気に徐々に蝕まれていたからです。瘴気の影響で、町に住む人々の体は急速に老化し、まだ成人になる前に健康を損ない、死んでしまうか、あるいは自ら命を絶つことがほとんどの悲しい現実が待ち構えていたのです。
その一方でアリスの心にはわずかながらこの逆境に立ち向かうための闘志が残っていました。
「この町のために何かをすることができるのかしら?」
アリスはひとりごちながら、邪悪な者たちに覆われた街を見つめました。
この街では昼間の限られた時間しか外に出ることができません。その日、アリスはなにか生活に必要なものがないかと廃墟を探索していました。そこはもともと学校の中にある図書館だったといわれていました。
とはいえ、すでにそこにあったであろう書物は、住民たちに火をおこす材料として持ちさられていて、今は朽ち果てた本棚だけが取り残されていました。アリスもそれは知っていましたが、なにかまだ使えるものが残されていないだろうかと、そこを訪れたのでした。
「なにか使えるものがあるといいんだけど・・・」
アリスの足元は不吉な音をギイギイと立てながら、彼女が歩みを進めるたびに揺れました。そこから先は、床が朽ちていて、危険だといわれている場所でした。
「この先は危険だと言われているから、きっと先を進む人はほとんどいないのかもしれないわね。だからこそ、まだ何か使えるものが残されている可能性もあるわ」
少しの恐怖と不安を感じながらも、先へと進む決意を固めました。
しかし、その決意もむなしく、アリスの足元は地面が崩れ去るような感覚とともに、彼女を下へと引きずり込んでいきました。
「きゃあっ」
思わず悲鳴を上げながら、アリスは下へ下へと落下していきました。
ドンッという音を立ててアリスは地面にたたきつけられました。その落下の衝撃により、アリスはしばらくの間、身動きが取れなくなりました。
彼女は目を開け、周りを見渡しました。どうやら、図書館の下にもう一つ地下室があったようです。暗闇に包まれた地下室の中で、彼女の視線は質素な机の上に置かれた一冊の不思議な真っ黒な分厚い本に引き寄せられました。なぜか暗闇の中にあるにもかかわらず不思議な存在感を持っていたその本にアリスはなぜか引かれるように手を伸ばし、触れました。
すると、心に響くような声がアリスの耳に届きました。「どうか、私の代わりにこの街を救ってください」と、その声は懇願するように訴えていました。
その瞬間、アリスは声の主の悲しみや絶望を感じました。彼女は分厚い本を開き、その頁をめくり始めました。その指先はぶるぶると震えていました。
アリスは本に触れながらささやきました。
アリス:「あなたの声、私に届いたわ。私はアリス。この街を救うためにどうすればいいの。」
声の主は切実な声で答えました。
声の主:「ありがとう、アリス。あなたは勇敢な子だ。この街に今も蔓延る邪神に私は封印されてしまったの。あなたがその書物を手に入れたことで、私の魂は再び動き出せる。私の力を使って、私と過去に旅立ち、この街を救ってほしい。」
アリス:「過去に旅たつのですか?私の今の人生は…ここでの生活はどうなってしまうの?」
声の主:「・・・ここでのあなたの人生は捨て去らなくてはなりません。」
アリス:「そんな・・・」
アリスの脳裏には幼い弟や両親の顔が思い浮かびました。精神を病んでしまった母、1年前に肺炎をこじらせてこの世を去ってしまった父。唯一弟だけがまだ心も体も健康を保っていましたが、この街にいる限り、それは長くは続かないことがわかっていました。
声の主:「アリス、過去に戻ってこの街を救うのはあなたにしかできないことです。過去を変えれば“今のあなた”は現代に存在できなくなるかもしれない・・・。でもそこにはまったく新しい明るい未来を創れるという希望があります。」
アリスはしばらく思いを巡らせました。弟をこの世界に置いていくのは心が引き裂かれるような気持ちだけど、もしかしたら、邪神のいない世界で弟にまた会えるかもしれない。そうアリスは考えました。
アリス:「わかったわ。このままでは私もあと数年しか生きられないもの。あなたと一緒に過去へ行く。」
声の主:「ありがとう。本当にありがとう・・・。」
声の主の顔は見えませんでしたが、その声は震えていました。
声の主:「私の力が続く限り、この書物の中に私とともに封印された魔力と知識を活かしてください。過去の出来事を変えるために少しは役立つはずです。」
アリス:「分かったわ。」
声の主:「頼りにしています、アリス。」
その声が聞こえた瞬間アリスは過去へと旅立ちました。
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