56 / 67
56 番外編(柚佳視点)*4 口付け
しおりを挟むとうとう公園に着いてしまった。辺りは既に薄暗い。街灯の光が照らすベンチに二人並んで座った。意を決して私から切り出した。
「それで、話って何?」
本当は美南ちゃんの事だと気付いていたけど。明るめの声で知らないフリをした。
「あの……さ」
海里がためらうように口を開き、斜め下に逸らしていた視線を強く私へ向けてくる。
何でそんな顔するの? 私は海里のどんな表情も好きだよ。でも、美南ちゃんを想う海里の顔はキライ。私のものじゃないなんて許せない。
「ちゃんと言わなきゃって思って。柚佳にずっと言えなかった事があって。オレさ……」
「私も。海里に言わなきゃいけない事があるの。私……」
咄嗟に彼の話を遮って邪魔した。聞けない。聞ける筈ない!
……何か言わなきゃ。でも何て? 俯いて言葉を探す。
海里を繋ぎ止められるんだったら、何でも利用するって決めたよね?
「柚佳……?」
心配してくれてる。早く。あまり関わりたくなかったけど仕方ない。震えそうな声を、何とか絞り出す。
「私、今日の昼休みに桜場君に告白されたの」
「……え?」
海里が目を大きくしてこちらを見ている。
――桜場君を利用させてもらう。海里の優しさも……ごめんね。幼馴染のよしみで私からの頼みを断りづらいって分かってる。
桜場君を振り向かせる為の「キスの練習」という名目だけだと、ただ私の経験値を上げるだけで桜場君の気を引く為の確実な方法だとは言えない……海里を引き留める理由としては弱い気がしていた。
もっと強い理由をこじつける。
「でもさっきオレの家で、もうすぐ告白する予定とかアイツを振り向かせたいって言ってたよな?」
海里が尤もな疑問を示したので、今日の昼休みにあった事を作為的にかいつまんで説明する。
「告白されたけど、まだ私の気持ちを伝えてないの。桜場君には待っててもらってる。十日後に会う約束をしてて、その時に言おうと思ってる」
少し事実と違う。
「振り向かせたいのは……」
そう言葉を置いてフフッと笑った。ちょっとした悪戯心が湧いた。
「私が本命なのか、そうじゃないのか分からないから。私より可愛い子なんてたくさんいるし。本当に好きかなんて分からない。だから言ったの。他の子を切ってでも私を選んでくれるのか。私は、好きな人にとってただ一人の人になりたい」
海里が言っていた言葉をヒントに、私の願いを絡めて伝えた。
ただの幼馴染にしか思ってないの、知ってるけど。美南ちゃんに勝てるとは思えない。でも。
絶対に負けたくない。海里を奪われたくない!
「だから彼が、私以外を考えられなくなるようにしたい」
強い決意と共に口にした。桜場君の事じゃないよ。ねぇ海里……あなたの事だよ?
両手を伸ばして彼の髪を触った。緊張で指先が震える。海里がいけないんだよ。
私がこんなに頭を悩ませてるのも。大好きな美南ちゃんを妬ましく思ってるのも。自分が嘘つきで卑怯で狡くて心が汚れてるって、もっと嫌いになったのも。今、胸が張り裂けそうなのも。
私から口付けを誘う。
自分の中にこんな劣情があるなんて。
「あと九日の内に、全部教えて」
唇が触れる前、彼に頼んだ。「キスの練習」中に振り向いてもらえるよう頑張ってみよう。それでだめだったら綺麗に忘れよう。
海里から与えられたキスは思っていたよりも刺激が強く、その後も彼に翻弄され続ける運命にあると……この時の私は知る由もなかった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
深海の星空
柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」
ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。
少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。
やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。
世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
ただ巻き芳賀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる