52 / 67
52 和馬と花山さん
しおりを挟む「そんなに好きなら何で別れたんだよ? 一度は付き合ってたんだろ?」
花山さんとの事を聞いてみる。
一旦落ち着いたオレたち。オレは気が抜けて階段に腰を下ろしていた。右手にある壁の側に置いていたコンビニのレジ袋から紙パックのカフェオレを取り出し、振り向いてドア横の壁に背を預けて立つ和馬へと投げる。キャッチした和馬は奥のロッカーの方へ視線を逸らし、ボソッと何か言った。多分、礼だろう。オレもストローを刺して一息つく。
「別れる気はなかったさ。でも、気持ちが揺らいでた事もあった」
神妙な声の後にズゾゾ……とストローを啜る音が聞こえた。
「もう飲んだのか? はえーよ」
呆れた目で後方を向くと、空になって握り潰された紙パックが放り投げられてついキャッチしてしまった。仕方なく袋に戻す。背中に和馬の声が届いた。
「ほら、美南ちゃんって可愛いだろ? 俺なんかで釣り合うのか不安になってた時期があって。俺が一方的に好きなだけで、美南ちゃんは本当は俺に合わせてくれてるだけなんじゃないかって。それで試すような事しちまったんだ」
足元の階段を見つめながら和馬の話を聞いた。……その気持ちは何となくだが分かる気もした。
以前、柚佳と篤がオレの知らない関係だと嫉妬していた時に柚佳を追い詰めて泣かせたいと思った事があった。冷たい態度を取ったり不機嫌になったりして、それでも柚佳はオレの事を好きでいてくれるのか知りたかった。
「他の女の子と仲良さそうに喋ってたら妬いてくれるかなって、教室で決行して美南ちゃんの様子を見てた。美南ちゃんが少しイライラしてきてよしっ! 俺も好かれてるぞ! と実感したのはよかったんだ……」
「いや、よくないと思うけどな」
オレのツッコミには応えず、和馬は話を続ける。
「喋ってたクラスの女子が勘違いしちゃってさ。俺がその子の事を好きだって噂が流れちまって。あの頃、美南ちゃんと付き合ってるの秘密にしてたから余計に拗れて。美南ちゃんに愛想尽かされた。ははっ」
笑っている和馬を横目に睨む。全然笑えない。
「でも、好きなんだよな? 花山さんの事。今でも。オレと柚佳の仲を妨害しても篤と付き合わせたくなかったんだろ?」
「……ああ。きっと死ぬまで好きだよ」
「それ、花山さんに直接言えばいいのに」
「美南ちゃんは俺が本気じゃないと思ってる」
美少女姿の和馬は下を向いて自嘲するように微笑した。
赤みを帯びた光がドアの上にある窓から差し込む。少し俯いた親友の、陰になった場所にいても光を宿す意志の強そうな瞳が印象的だった。
「それでもいい。何度でも言うから。いつかちょこっとでも伝わるだろ。あっでも、美南ちゃんが他の奴と付き合うのは我慢できないから妨害しまくるけどな!」
余計な事を付け足してきた。オレは自分の頭を押さえ下を向いた。
「か~ず~ま~」
低く、くぐもった声が響いた。
「ひえっ?」
少しビクついた和馬は横に目を移す。奥のロッカー側面にある悪霊の顔に似た錆が不気味に唸ったようにも感じられる。
「ま、まさか?」
何かに気付いた様子で、泡を食った顔をしてロッカーに近付き扉を開けている。
「うわあっ!」
叫んで床に置いてあったバケツに足をぶつけている親友を見守った。
ロッカーの中から悪霊にも劣らない顔をした花山さんが出て来た。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
青春
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
曙光ーキミとまた会えたからー
桜花音
青春
高校生活はきっとキラキラ輝いていると思っていた。
夢に向かって突き進む未来しかみていなかった。
でも夢から覚める瞬間が訪れる。
子供の頃の夢が砕け散った時、私にはその先の光が何もなかった。
見かねたおじいちゃんに誘われて始めた喫茶店のバイト。
穏やかな空間で過ごす、静かな時間。
私はきっとこのままなにもなく、高校生活を終えるんだ。
そう思っていたところに、小学生時代のミニバス仲間である直哉と再会した。
会いたくなかった。今の私を知られたくなかった。
逃げたかったのに直哉はそれを許してくれない。
そうして少しずつ現実を直視する日々により、閉じた世界に光がさしこむ。
弱い自分は大嫌い。だけど、弱い自分だからこそ、気づくこともあるんだ。
俺に婚約者?!
ながしょー
青春
今年の春、高校生になった優希はある一人の美少女に出会う。その娘はなんと自分の婚約者といった。だが、優希には今好きな子がいるため、婚約は無効だ!そんなの子どものころの口約束だろ!というが彼女が差し出してきたのは自分の名前が書かれた婚姻届。よくよく見ると、筆跡が自分のとそっくり!このことがきっかけに、次々と自分の婚約者という女の子が出てくるハーレム系ラブコメ!…になるかも?
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
恋とは落ちるもの。
藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。
毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。
なのに。
恋なんて、どうしたらいいのかわからない。
⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。
※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。
イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない!~スキンシップ多めの美少女幽霊と部活を立ち上げる話~
川上とむ
青春
内川護は高校の空き教室で、元気な幽霊の少女と出会う。
その幽霊少女は雨宮と名乗り、自分の代わりにイラスト部を復活させてほしいと頼み込んでくる。
彼女の押しに負けた護は部員の勧誘をはじめるが、入部してくるのは霊感持ちのクラス委員長や、ゆるふわな先輩といった一風変わった女生徒たち。
その一方で、雨宮はことあるごとに護と行動をともにするようになり、二人の距離は自然と近づいていく。
――スキンシップ過多の幽霊さんとスクールライフ、ここに開幕!
彼女は終着駅の向こう側から
シュウ
青春
ぼっちの中学生トヨジ。
彼の唯一の趣味は、ひそかに演劇の台本を書くことだった。
そんなトヨジの前に突如現れた美少女ライト。
ライトをみたトヨジは絶句する。
「ライトはぼくの演劇のキャラクターのはず!」
本来で会うことのないはずの二人の出会いから、物語ははじまる。
一度きりの青春を駆け抜ける二人の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる