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44 柚佳の部屋
しおりを挟むまず自分の家に鞄を取りに戻った。
陽介に気付かれるとまた怪しまれそうなので、なるべく音を立てないようにしよう。そう考えて玄関ドアを開ける為手を伸ばした。鍵が掛かっていたので少しホッとする。どうやら遊びに出掛けたようだ。
玄関に置いていた鞄とさっき買ったケーキの入った袋を手に、柚佳の家へ赴いた。チャイムを鳴らす。
……ん? 何だ? 何かいい匂いがする。
少しして柚佳がドアを開けた。
「海里、いらっしゃい」
膝下までの長さがある、落ち着いた色合いの……薄ピンク色のスカートと白のブラウス姿で髪は肩に垂らしている。そして薄ら化粧をしている彼女。
「っ……」
オレは大きく目を開き、口を隠すように手で押さえた。
分かる。鈍感なオレでも分かる。
彼女はオレの為に可愛くしてくれてるんだよな。
いつも可愛いのに今目の前にいる柚佳はそれを更に上回って、凶悪な程の可愛さだ。
この間公園に連れ出す前にちらっとだけ見えた普段着っぽい柚佳を想像してそれはそれで楽しみにしていたけれど、何だよこれ。反則だろ。
思考が混乱して、そのままの姿勢で停止していた。
「えっと……やっぱりこの格好、変かな? どこかへ出掛ける訳でもないのに」
「変じゃない!」
柚佳が自信なさそうな顔をしたので、オレは間髪入れずに言った。
「凄く……、可愛いよ」
照れてしまい目を見て伝えられなかった。
「っありがとう」
嬉しそうな声に視線を戻すと、彼女も照れたように俯いた。
「……? 美味そうな匂いする。何か作ってる?」
「あっ! そうだった。晩ご飯作ったの! 今できたところ。早く上がって」
促されるまま台所へ足を踏み入れる。久々に訪れた柚佳の家はうちみたいに物が多い印象だけどすっきりと片付いている。テーブルに置かれた花瓶にはコスモスの花が数本飾られている。
「ちょっと早いけど、先にご飯食べる? 後で食べる?」
柚佳に聞かれ、少しの間考える。
「うーん。すぐに食べたいけど先に勉強を済ませよう。後からの楽しみにしたい」
「分かった」
「あとこれ。柚佳、フルーツケーキ好きだったろ?」
ケーキの箱が入った袋を差し出す。柚佳の表情が輝いた。
「嬉しい! ありがとう!」
彼女は微笑んで大事そうに袋を受け取ると冷蔵庫に仕舞った。
家の中の間取りは上の階にあるオレの家と同じだ。ただ……オレの家では居間になっている場所が、ここでは柚佳の部屋になっていた。くすんだピンク色の絨毯が敷いてある女の子っぽい部屋に入り驚愕する。晩飯の匂いとは別の、花の香りのようないい匂いもする。
部屋にはベッドと机と丸い折り畳みテーブルが置かれていた。そのテーブルの側にノートや教科書が用意してある。
「どうぞ座って」
柚佳の指示で濃いピンク色のカバーが掛けてある座布団に座った。
暫くの間、二人とも無言で勉強していた。
……時々、彼女の方をチラ見したりしていた。
可愛い可愛い可愛いかわ……ダメだ。今は勉強に専念しないと。
教科書の文字を目で追っているのだが、上手く集中できずに同じ部分を何度も読み返している。全然頭に入ってこない。
そんな時、柚佳が話しかけてきた。
「海里、進んでる?」
「……全然」
正直に答えた。
「そっか。……私も」
顔を上げると目が合って、どちらからともなく笑った。
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