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夜中、考えるのは柚佳の事ばかり。柚佳と篤、二人の関係について邪推してしまう。よく分からないからこそ、酷く。
柚佳……。彼女と篤の仲がオレとの仲より深かったら、きっとオレは耐えられない。篤を殺したい程憎むかもしれない。
そんな最悪で胸糞悪い想像が簡単にオレの思考を支配している。
来週には試験がある。このままだと勉強も手に付かないし精神的にもよくない。
「そうだ……」
ある考えを思い付き、その他の事をあまり考えないようにした。瞼を閉じる。今は朝の四時だから、あと二時間眠れるかもしれない。
予定より早く目が覚めて学校へも早めに行った。同じクラスの奴はまだ誰も来ておらず、オレはいつも朝早い時間に登校しているらしいアイツを待っていた。
足音が近付いて振り返る。教室へ入って来たのは見慣れた背の高いイケメン、篤だった。
「篤……聞きたい事がある」
険しい眼差しを送る。篤は少し驚いたように目を大きく開いていた。だが、すぐにニコッと笑った。
「そう。俺も沼田君に聞いてみたい事がある」
教室へは他の生徒もちらほら登校して来ていたので場所を移した。柚佳がよく休憩場所にしていた屋上の扉前にあるスペースへと階段を上った。
「で、何? 聞きたい事って。ああ、もしかして一井さんの事?」
笑みを作った顔で篤がそう切り出した。笑顔の裏の本心が読めない。不気味さすら感じる。
「篤……。お前と柚佳は一体どんな関係なんだよ。教えてくれ、頼む」
「……なるほどね」
オレは頭を下げた。篤の妙に納得したような声が聞こえる。
もう考えるのも疲れた。もしも最悪の真実が待っているとしても、オレは受け止める。本当の柚佳を見つめて、それからの事は話し合って決めればいい。
「一井さん、俺たちの事喋らなかったんだ。へぇえ」
「『俺たちの事』……」
愕然として呟く。覚悟して来た筈だった。けれどやはり二人には何かあるような物言いに心臓が早鐘を打つ。
篤は微笑んでいた。そしてその口が悪魔のような提案を紡ぎ出す。
「教えてもいいけど、一井さんを俺に譲ってくれるならね」
頭の中が真っ白になった。人は怒り過ぎると逆に心凪ぐものなのだろうか。
「ぃ……やだ……」
小さく言葉が漏れる。軋み合わせる歯の合間から。
篤がやっと笑みを消した。何を考えているのか分からない虚ろにも思える瞳でオレに尋ねる。
「ふーん? 一井さんでいいの? 君に隠し事をしてるような人だよ? 君にはもっと見合う人がいるんじゃないの?」
「嫌だ、絶対……! 柚佳がいい……!」
奥歯を噛み締め、篤を睨み付ける。そんなオレを見て、篤は少し笑うようにフッと溜め息をついた。
「お前こそ何で柚佳なんだ。お前なら言い寄る女子なんて山のようにいるだろ? 何で柚佳なんだよ……」
感情のまま篤に詰め寄る。
「さあね。君なら分かるんじゃないか? 何で一井さんを選んだの? 幼馴染だから? 幼馴染だったら他の子でもよかった?」
篤が困ったように微笑している。
「オレは……柚佳が……。…………柚佳はもう、オレの人生の一部……いや、大部分なんだ。身体の一部のように、もがれたら辛くて生きていけない」
頬を流れ落ちた雫に、漸く自分が泣いていたんだと気付いた。
「わっ! なっ? ……誰にも言うなよ」
腕でそれらを拭い取り、恥ずかしさを誤魔化す為に篤を睨む。
オレの睨みも全然効いていない様子で篤が笑う。不思議と、その笑顔は篤の心からのもののように思えた。
「それより沼田君。君、誰かの恨みを買うような事した? 俺の下駄箱に君と一井さんじゃない女子がキスしてる写真が入ってたから、一井さんにこっそり渡してみたけど」
悪びれもしていない、いつもの少しマイペースな調子で告げられた。
柚佳……。彼女と篤の仲がオレとの仲より深かったら、きっとオレは耐えられない。篤を殺したい程憎むかもしれない。
そんな最悪で胸糞悪い想像が簡単にオレの思考を支配している。
来週には試験がある。このままだと勉強も手に付かないし精神的にもよくない。
「そうだ……」
ある考えを思い付き、その他の事をあまり考えないようにした。瞼を閉じる。今は朝の四時だから、あと二時間眠れるかもしれない。
予定より早く目が覚めて学校へも早めに行った。同じクラスの奴はまだ誰も来ておらず、オレはいつも朝早い時間に登校しているらしいアイツを待っていた。
足音が近付いて振り返る。教室へ入って来たのは見慣れた背の高いイケメン、篤だった。
「篤……聞きたい事がある」
険しい眼差しを送る。篤は少し驚いたように目を大きく開いていた。だが、すぐにニコッと笑った。
「そう。俺も沼田君に聞いてみたい事がある」
教室へは他の生徒もちらほら登校して来ていたので場所を移した。柚佳がよく休憩場所にしていた屋上の扉前にあるスペースへと階段を上った。
「で、何? 聞きたい事って。ああ、もしかして一井さんの事?」
笑みを作った顔で篤がそう切り出した。笑顔の裏の本心が読めない。不気味さすら感じる。
「篤……。お前と柚佳は一体どんな関係なんだよ。教えてくれ、頼む」
「……なるほどね」
オレは頭を下げた。篤の妙に納得したような声が聞こえる。
もう考えるのも疲れた。もしも最悪の真実が待っているとしても、オレは受け止める。本当の柚佳を見つめて、それからの事は話し合って決めればいい。
「一井さん、俺たちの事喋らなかったんだ。へぇえ」
「『俺たちの事』……」
愕然として呟く。覚悟して来た筈だった。けれどやはり二人には何かあるような物言いに心臓が早鐘を打つ。
篤は微笑んでいた。そしてその口が悪魔のような提案を紡ぎ出す。
「教えてもいいけど、一井さんを俺に譲ってくれるならね」
頭の中が真っ白になった。人は怒り過ぎると逆に心凪ぐものなのだろうか。
「ぃ……やだ……」
小さく言葉が漏れる。軋み合わせる歯の合間から。
篤がやっと笑みを消した。何を考えているのか分からない虚ろにも思える瞳でオレに尋ねる。
「ふーん? 一井さんでいいの? 君に隠し事をしてるような人だよ? 君にはもっと見合う人がいるんじゃないの?」
「嫌だ、絶対……! 柚佳がいい……!」
奥歯を噛み締め、篤を睨み付ける。そんなオレを見て、篤は少し笑うようにフッと溜め息をついた。
「お前こそ何で柚佳なんだ。お前なら言い寄る女子なんて山のようにいるだろ? 何で柚佳なんだよ……」
感情のまま篤に詰め寄る。
「さあね。君なら分かるんじゃないか? 何で一井さんを選んだの? 幼馴染だから? 幼馴染だったら他の子でもよかった?」
篤が困ったように微笑している。
「オレは……柚佳が……。…………柚佳はもう、オレの人生の一部……いや、大部分なんだ。身体の一部のように、もがれたら辛くて生きていけない」
頬を流れ落ちた雫に、漸く自分が泣いていたんだと気付いた。
「わっ! なっ? ……誰にも言うなよ」
腕でそれらを拭い取り、恥ずかしさを誤魔化す為に篤を睨む。
オレの睨みも全然効いていない様子で篤が笑う。不思議と、その笑顔は篤の心からのもののように思えた。
「それより沼田君。君、誰かの恨みを買うような事した? 俺の下駄箱に君と一井さんじゃない女子がキスしてる写真が入ってたから、一井さんにこっそり渡してみたけど」
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