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28 仕返し
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柔らかい感触が唇を這っている。
一刻も早く誤解を解かないといけないと思いながらも、柚佳からのキスの熱に浮かされる。
あの写真を見て彼女はオレに失望している様子だった。なのに何故、今オレにキスしているのだろう。分からない。…………まさかお別れのキスとかではないよな?
ゾッとして目を見開いた。
「柚佳っ」
「だめっ」
唇が離れた瞬間を見計らって真意を問おうと開いた口が、再び彼女の口に覆われる。
「何も言わないで」
涙がオレの頬に落ちてきて彼女から目が離せなくなった。されるまま応えないオレを咎めるように唇の左端を甘く咬まれた。
漸く重なりが解かれて切なげな瞳で見下ろされた。オレも柚佳を見上げていた。
何も言葉を発しないのは先程「何も言わないで」と願われたからだ。これじゃ彼女の気持ちを聞けないし、自分の弁解もできない。少し反抗的な眼差しを送る。
柚佳が微笑んだ。
「授業始まるからもう行こう?」
彼女がオレから離れて行く。
「安心して。今日美南ちゃんと約束あるんでしょ? 止めたりしないから」
振り向いてニコッと笑い掛けてくる。階段を下って行くその後ろ姿を無言で見守る。踊り場で彼女が放った言葉がオレの心を打ちのめす。
「あっそうだ。私も今日は桜場君と一緒に帰るから」
授業中、オレはずっと机に突っ伏していた。何度か平尾先生に教科書の角で頭を小突かれたけど、あまりに心が傷付いていて何も反応できなかった。
「起きろー」
そう言って、横を向いているオレの顔を覗き込んだ先生はぎょっと驚いたように少し後ろに仰け反った。オレが泣きそうな顔をしていたからかもしれない。
「な、何だ何だ。俺は何もしてないからな? 起きてるならちゃんと授業受けろ」
平尾先生が授業を再開した。オレも何とか身を起こして前を向いた。けれど頭の中は柚佳の事でいっぱいだった。柚佳と篤が一緒に帰る? その事がぐるぐる回っていた。
きっとこれは柚佳なりの『仕返し』だ。オレがしてしまった花山さんとの約束に対する。
…………じゃあ、あの『写真』に対する『仕返し』は?
考え至って背筋が凍った。思わず柚佳を見る。いつも通り授業を受けている彼女。今は眼鏡をかけていて、さっき解いていた髪は垂らしたままにしている。水色のシャーペンを口元に当て黒板を熱心に見つめている。オレの視線にも一切気付かない様子で胸が潰れる。
身から出た錆とはいえ、こんなの酷過ぎだろ。
柚佳に黙っていたのは悪手だったかもしれない。でも実際あの黒髪の子とはキスしていない。それなのに『仕返し』される筋合いはない。
花山さんに頼んで『約束』を先延ばしにできないか? と思い付くが根本の解決にならないと首を横に振っているところでハッと重大な事に気付く。もうあの写真の事は柚佳にバレている。花山さんと約束してしまったのはあの写真の事で脅されていたから。もうバレているので花山さんとの約束を守る必要はない……?
自分でも己の表情が明るくなるのを感じた。スキップしながら踊り出したい気分だった。花山さんに断りを入れて柚佳に説明して篤との下校を思い直してもらう。希望が見えた。
そういえば柚佳はあの写真をどうやって手にしたんだろう。花山さんはオレとの取引材料にしているから渡さないと思うし。
ふと……朝、篤が柚佳を呼び出している場面が浮かんだ。まさかな。
とにかくまずは花山さんの約束を断る。……あ。昼休みに渡されたの何だったんだろう。
軽い気持ちで左ポケットに手を差し込み、折り畳まれた紙を取り出した。開くと水色とピンクの花模様の入った可愛らしいメモ紙だった。
一度目を通して、もう一度読み返した。その内容に頬を叩かれたような衝撃を受ける。
『キスしてた子と会わせてあげる』
一刻も早く誤解を解かないといけないと思いながらも、柚佳からのキスの熱に浮かされる。
あの写真を見て彼女はオレに失望している様子だった。なのに何故、今オレにキスしているのだろう。分からない。…………まさかお別れのキスとかではないよな?
ゾッとして目を見開いた。
「柚佳っ」
「だめっ」
唇が離れた瞬間を見計らって真意を問おうと開いた口が、再び彼女の口に覆われる。
「何も言わないで」
涙がオレの頬に落ちてきて彼女から目が離せなくなった。されるまま応えないオレを咎めるように唇の左端を甘く咬まれた。
漸く重なりが解かれて切なげな瞳で見下ろされた。オレも柚佳を見上げていた。
何も言葉を発しないのは先程「何も言わないで」と願われたからだ。これじゃ彼女の気持ちを聞けないし、自分の弁解もできない。少し反抗的な眼差しを送る。
柚佳が微笑んだ。
「授業始まるからもう行こう?」
彼女がオレから離れて行く。
「安心して。今日美南ちゃんと約束あるんでしょ? 止めたりしないから」
振り向いてニコッと笑い掛けてくる。階段を下って行くその後ろ姿を無言で見守る。踊り場で彼女が放った言葉がオレの心を打ちのめす。
「あっそうだ。私も今日は桜場君と一緒に帰るから」
授業中、オレはずっと机に突っ伏していた。何度か平尾先生に教科書の角で頭を小突かれたけど、あまりに心が傷付いていて何も反応できなかった。
「起きろー」
そう言って、横を向いているオレの顔を覗き込んだ先生はぎょっと驚いたように少し後ろに仰け反った。オレが泣きそうな顔をしていたからかもしれない。
「な、何だ何だ。俺は何もしてないからな? 起きてるならちゃんと授業受けろ」
平尾先生が授業を再開した。オレも何とか身を起こして前を向いた。けれど頭の中は柚佳の事でいっぱいだった。柚佳と篤が一緒に帰る? その事がぐるぐる回っていた。
きっとこれは柚佳なりの『仕返し』だ。オレがしてしまった花山さんとの約束に対する。
…………じゃあ、あの『写真』に対する『仕返し』は?
考え至って背筋が凍った。思わず柚佳を見る。いつも通り授業を受けている彼女。今は眼鏡をかけていて、さっき解いていた髪は垂らしたままにしている。水色のシャーペンを口元に当て黒板を熱心に見つめている。オレの視線にも一切気付かない様子で胸が潰れる。
身から出た錆とはいえ、こんなの酷過ぎだろ。
柚佳に黙っていたのは悪手だったかもしれない。でも実際あの黒髪の子とはキスしていない。それなのに『仕返し』される筋合いはない。
花山さんに頼んで『約束』を先延ばしにできないか? と思い付くが根本の解決にならないと首を横に振っているところでハッと重大な事に気付く。もうあの写真の事は柚佳にバレている。花山さんと約束してしまったのはあの写真の事で脅されていたから。もうバレているので花山さんとの約束を守る必要はない……?
自分でも己の表情が明るくなるのを感じた。スキップしながら踊り出したい気分だった。花山さんに断りを入れて柚佳に説明して篤との下校を思い直してもらう。希望が見えた。
そういえば柚佳はあの写真をどうやって手にしたんだろう。花山さんはオレとの取引材料にしているから渡さないと思うし。
ふと……朝、篤が柚佳を呼び出している場面が浮かんだ。まさかな。
とにかくまずは花山さんの約束を断る。……あ。昼休みに渡されたの何だったんだろう。
軽い気持ちで左ポケットに手を差し込み、折り畳まれた紙を取り出した。開くと水色とピンクの花模様の入った可愛らしいメモ紙だった。
一度目を通して、もう一度読み返した。その内容に頬を叩かれたような衝撃を受ける。
『キスしてた子と会わせてあげる』
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