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26 拗らせ

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「ち、違う! 気になったから知りたいんじゃなくて…………オレ、その子に弱みを握られてるみたいなんだ。写真を撮られて。何でかその写真を花山さんが持ってるらしい」

「へぇ……どんな写真?」

「うっ」


 今まで声を抑え気味に喋っていたけど、殊更ボリュームを抑える。


「……キス、してそうな写真」


 目を逸らして打ち明けた。和馬の顔に再び視線を戻す。思った通りニマッとした表情だったのでハッキリ言っておく。


「し、してないからな実際! これは仕組まれた陰謀だ!」

「ハイハイ。で、誰としたんだ? その黒髪ロングの女の子?」

「だからしてないって!」

「ふむ……」


 和馬は顎に手を当て考える素振りをした。


「んー。俺も多分知らないなぁ。隣のクラスの雪ちゃんは彼氏いるからそんな事しないだろうし。一井さん一筋の海里も認める可愛い子……? 彩ちゃんは茶髪だしな。他の学年も俺の知ってる限りじゃいない」

「そっか……。分かったサンキューな」


 肩を落としたオレの横に和馬が来た。「何だ?」と見上げた時、背中を強く叩かれた。


「ドンマイ、ドンマイ! きっとまたどこかで会えるんじゃね? 俺もその美少女、会ってみてーよ」

「他人事だと思って……お前みたいに楽天的になりてーよ」


 和馬は頭の後ろで手を組んで鼻歌を口ずさみながら自分の席に座り、焼きそばの挟めてある惣菜パンの袋を開けている。


「本当、マイペースな奴だな」

 オレは溜め息をついて苦笑した。


 ……ふと和馬の鼻歌が止んだ。

 「どうした?」と和馬を見る。和馬はオレの左後ろを見上げている。オレもそちらを向く。少し不機嫌そうに眉を寄せる花山さんが立っていた。彼女は和馬を睨んでいるようにも見える。和馬の方はニコニコ「あっ、花山さん!」と嬉しそうだ。

 花山さんがこんなに露骨に『嫌悪』らしき感情を表に出しているのを初めて見た。何と言うか……蔑むような……虫けらでも見るような目付きだ……。


「俺に用事?」

 陽気に和馬が尋ねている。


 わー……、何だこの空気。普段は穏やかな雰囲気の花山さんの周囲が凍てついている幻を見そうだ。反対に和馬はうきうきするように目を輝かせている。


「まさか」

 花山さんはそう鼻で笑い、その細い腕を後方からオレの首の前で交差させた。……って、え?


「海里君に用事なの。あなたじゃないわ柳城君。ごめんね?」


 す、すぐ頭の上で花山さんの声がしてる。花のようないい匂いがする。頭が動かせない。近い。近過ぎる。柚佳に勘違いされそうだから払いのけたかったけど、無闇に女子に触れるのもどうなのだろうかと逡巡してしまう。


「海里君、一人の時に読んで」

 花山さんがオレの上着の左ポケットに何か入れた。てか呼び方が今まで『沼田君』だったのに『海里君』になっている。


 花山さんの腕がやっと離れた。ホッとして彼女を見ると目が合ってニコッと微笑まれた。


「また放課後にねっ」


 花山さんは明るくそう言って仲良しの友人らのいる方へ戻って行った。

 日頃から五、六人のグループで机をくっつけ合って昼食をとっている彼女たち。今日はもう昼食は終わったようで喋っていたり、こっちに関心を寄せるように視線を向けている人もいた。……そのグループの中には柚佳もいる。


 血の気が引く。彼女はこっちを見ていた。でもオレが目を向けると、あからさまに視線を下へ逸らされた。


 放課後、花山さんと約束している事を知られた。


 柚佳を見ていたオレに和馬が明るい声で言う。


「あら~? 俺、もしかして花山さんに嫌われてる? あんなにキッパリ否定しなくてもいいじゃんね? しつこくアピールし過ぎたかな? ……って、海里? おーい聞いてる?」


 和馬に構っている余裕はなかった。オレは脳内でどうすれば柚佳の誤解を解けるか必死に考えていた。


 元はと言えば嫌われるのを恐れてキス偽装写真の件を秘密にしていたのがいけなかった。ちゃんと説明すれば柚佳も分かってくれたかもしれないのに。…………納得してもらえる説明ができる自信ないけど。

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