上 下
18 / 67

18 隠し事

しおりを挟む

 何だろう。柚佳との会話にすごく違和感を覚える。かみ合っていない気がする。


 柚佳は、オレの告白を嘘だと思ってる? 柚佳がオレの事を好きだから責任を感じて嘘の告白をした……そう言ってるよな? どういう事なんだ?


 そこまで考えて、はた……と思い至る。柚佳はオレの事が好き……?

 胸の内に仄かに希望が宿る。

 ……いや待て。早まるな、オレ。その言葉すら真実じゃないとしたら、信じた後に残るダメージは計り知れない。

 もう二度と立ち上がれなくなる悲しい未来が容易に想像できて、惑わされそうだった心を強く律した。

 これ以上深く踏み込むのは止そう。……心ではそう思っているのに、すぐ傍に彼女がいると意識しただけで何かの力が作用するように離れがたい。本当はいつも一番近くにいたいのだ。




「オレが言った事は嘘じゃないから」

 長めの前髪の間から、彼女を強く見つめた。微笑んでいた柚佳の顔に戸惑いの色が差す。

「証明する。オレが柚佳を好きな事。告白したのは責任を感じたからじゃない。そんな義務のようなものじゃなくて、その……」

 こんな事を言わせるなんて。オレの幼馴染は無自覚にとんでもない奴だ。耳まで赤くなっていそうな己の顔を腕で隠す。視線を彷徨わせながらしどろもどろに口走る。

「お前が可愛すぎるから……。付き合えたら、オレに繋ぎ止めて一生放さないつもりだったんだ」

 彼女は少し口を開けて気の抜けたようなポカーンとした顔をしている。

 だめだ。結構恥ずかしい思いをして打ち明けたのに、相手には伝わってなさそうな温度差。




「嘘だよ」


 彼女が真顔で言った。踊り場の右奥へと後退りして、オレと距離を置こうとしているのが分かった。だから静かに冴える心情で薄く笑った。


「嘘じゃない」


 言い分を譲る気はなかったので彼女から目を逸らさない。柚佳が一歩退いた分、オレは一歩距離を縮める。






 とうとう彼女は背後の壁に行き当たって、後ろに進むのを止めた。

「だって海里は――」

 柚佳は何か言いかけたけど、途中から言葉を呑むように口を閉ざした。


「何? ちゃんと言ってよ」

 オレが続きを促すと、彼女は俯いて気落ちしたような暗い声を出した。


「……海里はキスの上手い子が好きなんでしょ? 私よりも、その……。――可愛い子なんてたくさんいるし」

「本気で言ってるの?」


 こんなに伝えているのに、まだ足りないみたいだ。


 思っていた以上に彼女は……。後ろ向きな思考になって恨み言を言うくらいには、オレの発した言葉に影響を受けているらしい。






 その柔らかな頬に手を掛け、上を向かせた。顔を近付けると、目を閉じてくれた。


 優しく、何度も唇を合わせた。






 少しの間放して、本当の事を教える。

「ごめん。オレ嘘ついてた」

 柚佳が目を開いて不安そうにオレを見た。


「オレ、キスしたのは柚佳が初めてだったんだ。他の誰ともした事ないし、するつもりもないから」


「嘘よ。信じない」


 彼女の目から大粒の涙が零れた。


「だって、私知ってるもの! ……――何でもない」


 まただ。何か言いかけては途中で止める。


「何を隠してるの?」

 問うと視線を逸らされた。


「ふーん?」

 わざとらしく呟いて、彼女の頭にキスを落とした。次に目元、次に頬。


「どうしたら信じてくれる? オレに心を開いてくれる? オレは柚佳の秘密を誰にも言わないし、どんな柚佳も受け入れるよ」


 さっき篤と柚佳が話していた彼らの『本当の関係』。それがずっと気がかりだった。何であるにせよ、オレはもう柚佳の手を放さないと決めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~

テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。 なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった―― 学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ! *この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
青春
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない!~スキンシップ多めの美少女幽霊と部活を立ち上げる話~

川上とむ
青春
内川護は高校の空き教室で、元気な幽霊の少女と出会う。 その幽霊少女は雨宮と名乗り、自分の代わりにイラスト部を復活させてほしいと頼み込んでくる。 彼女の押しに負けた護は部員の勧誘をはじめるが、入部してくるのは霊感持ちのクラス委員長や、ゆるふわな先輩といった一風変わった女生徒たち。 その一方で、雨宮はことあるごとに護と行動をともにするようになり、二人の距離は自然と近づいていく。 ――スキンシップ過多の幽霊さんとスクールライフ、ここに開幕!

俺に婚約者?!

ながしょー
青春
今年の春、高校生になった優希はある一人の美少女に出会う。その娘はなんと自分の婚約者といった。だが、優希には今好きな子がいるため、婚約は無効だ!そんなの子どものころの口約束だろ!というが彼女が差し出してきたのは自分の名前が書かれた婚姻届。よくよく見ると、筆跡が自分のとそっくり!このことがきっかけに、次々と自分の婚約者という女の子が出てくるハーレム系ラブコメ!…になるかも?

恋とは落ちるもの。

藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。 毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。 なのに。 恋なんて、どうしたらいいのかわからない。 ⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031 この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。 ※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。

彼女は終着駅の向こう側から

シュウ
青春
ぼっちの中学生トヨジ。 彼の唯一の趣味は、ひそかに演劇の台本を書くことだった。 そんなトヨジの前に突如現れた美少女ライト。 ライトをみたトヨジは絶句する。 「ライトはぼくの演劇のキャラクターのはず!」 本来で会うことのないはずの二人の出会いから、物語ははじまる。 一度きりの青春を駆け抜ける二人の話です。

てんどん 天辺でもどん底でもない中学生日記

あおみなみ
青春
2011年3月11日金曜日14時46分、中学1年生だった 2011年3月11日14時46分、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災) その地震津波に起因する原発事故が変えてしまったものは、何より「人のこころ」だったと思う。 桐野まつり、F県中央部にある片山市の市立第九中学校在学中。完璧超人みたいな美形の幼馴染・斉木怜[レイ]のおかげで、楽しくも気苦労の多い中学校生活を送っている。 みんなから奇異な目で見られる部活に入り、わいわい楽しくやっていたら、大地震が起きて、優しかったレイの母親が不安定になったり、気になる転校生「日高君」がやってきたり。 てっぺんでもどん底でもない普通の毎日を過ごしているだけなのに、やれ放射能だ自主避難だとウルサイ他県のおっさんおばさんおにーさんおねーさん方にもうんざり。 大体そんな感じのお話です。

処理中です...