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21 女子会の顛末と海水浴の参加者
しおりを挟む「えっ! 姉ちゃん今日、海水浴行くの?」
リビングのソファーに寝転んでゲームをしていた伊織が身を起こして聞いてきた。私は手荷物の確認をしながら応じた。
「うん。この前あややんと裏原さんと、裏原さんのお兄さんと一緒にカラオケ女子会したんだけど……」
「……それ、本当に女子会?」
弟の疑問は尤もだ。女子会になる予定だったのに裏原さんのお兄さんも来た。
前以て予約していたけど「兄も参加したいらしくて。いいかしら?」と裏原さんから相談がありカラオケ店に確認した。以前あややんを唸らせていた女子会クーポンは、何と参加者全員が女子でなくてもよかったらしい。
裏原さんのお兄さんも参加で女子会じゃなくなったカラオケは最初、重苦しい空気で幕を開けた。
だけど裏原さんとお兄さんの会話を聞けて、二人について色々知る事ができた。特にお兄さんの妹へ向ける愛の深さを嫌と言う程感じ取った。
お兄さんに「せりなさんを大切にされてるんですね」と話し掛けたところ「もちろんだ。せりなを大切にせず誰を大切にすると言うんだ! ……分かってる。シスコンだと言いたいだろうけど大丈夫だ。俺は正常な方だ。世の中にはもっと危ない奴がいる!」と力説された。
話してみるとお兄さんは案外気さくな性格のようで、ちょっと変な部分を大目に見れば普通の人と言えなくもない。裏原さんの友達と認識してもらってからというもの、私やあややんにも何となく優しい気がする。
けれどまだ、あややんは彼に心を許していない様子だった。隣に座っている彼女から耳打ちされた。「女子会に割り込んで来るなんて非常識です!」と。あややんの、お兄さんへ向ける視線も険しい。
しかし……。お兄さんはお会計時に私やあややんの分のカラオケ代まで支払おうとしてくれた。あややんは頻りに遠慮していたけど、お兄さんは「こういう時の為に使うもんだろ? 貯めておいてよかったぜ」とニヤリと笑みカードを店員さんへ差し出した。
店員さんが申し訳なさそうに言った。「あー。そのポイントカード、先月で廃止になりました。アプリをご利用ください」……彼が今まで一度も使わず貯めたポイントは既に消失していた。
支払いは別々に済ませた。帰り際にあややんからこそっと耳打ちされた。「意外と憎めない人だったね」全くだ。
まあ、そこら辺は今は置いておいて。その女子会らしき集まりの場で今回行く海水浴の話が出た。お兄さんが車で連れて行ってくれる手筈で蒼君も誘った。銀河君も誘ったけど「日焼けしたくないから」って断られた。
「女子会に来ていたメンバーと、えっと。……ほかにも、もう一人加わって一緒に行く約束をしてたの」
それまでダイニングテーブルで朝食を食べていた和沙お兄ちゃんが私を見た。彼は突然箸をテーブルに置いた。
「よっし。俺も行く」
「えっ?」
立ち上がり宣言した兄を見つめる。彼は続けて理由を述べた。
「音芽は泳ぐの苦手だっただろう? 心配なんだ」
じっと見つめ返されて視線を逸らした。何でか分からないけど胸に罪悪感が湧く。
「マジかー……海かよ。あっちいのに」
伊織の呟く声が聞こえる。兄が笑って弟へ確認した。
「伊織は行かないんだな?」
「行くに決まってんだろ!」
ええー?
即答した弟を凝視する。嫌そうにしてたのに何で?
家の近くまで迎えに来てくれた車に乗り込んだ。
「――という訳で……。兄たちは後から別の車で来るから。急にごめんね」
当初のメンバーに謝る。裏原さんに生温かい目で微笑まれた。
「前回の事もあるし私は何も言えないわ。むしろ私の方こそごめんね。今回も兄が一緒だし」
あややんも優しい。
「私も気にしないよ。音ちゃんのお兄さんと弟さん、どんな人なのか気になる!」
蒼君も明るく笑い掛けてくれた。
「俺も。音芽ちゃんの家族に会ってみたい」
「皆ありがとう……」
嬉しくなりお礼を言った。急な兄弟の参加に慌てていたので、この時はまだ考え至っていなかった。
「何だ? 今ゾクッとしたぞ……?」
裏原さんのお兄さんが身震いしている。風邪のひき始めに寒気とかするよね……と何気なく見ていた。最近暑い日が続いているし体調にも気を付けたい。折角の休みを寝込んで過ごすとかもったいない。
呑気にそんな事を考えていた。
けれど海水浴に赴いた浜辺で私は……今まで目を背けていた問題と直面する事態に陥るのだった。
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