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15 彼女のその後
しおりを挟む「強引に来てもらって悪かったわ。兄のせいで不審に思っていたでしょう?」
シートに座って話を聞いた。彼女の口調が以前と違っていて本当に裏原さんなのか疑わしくてジロジロ見ていた。話は続く。
「私には会ってくれないだろうと考えて兄に頼んだの。私の事は知らせないで連れて来てって。兄はちょっと……私に過保護で、中学の時の件であなたにまだ複雑な思いがあるようだけど。あれは私が悪かったから」
彼女は俯きがちに私へ向き直り頭を下げてきた。
「ごめんなさい。私の方がダサかったって自分でも思ってる。今謝ってるのも自分の為。あなたに謝って自分がスッキリしたいだけなの」
やはり姿は似ているけど別人みたいだ。裏原さんがこんな殊勝な台詞を言う筈がない。
話している内に車は動き出していた。私の家まで送ってくれるらしい。運転する白ピンクファッションの男を眺める。裏原さんのお兄さんだったのかぁ。私の視線に気付いた様子で裏原さんが説明してくれる。
「兄は人とのコミュニケーションの取り方がおかしい時があるからよく誤解されるの。本屋であなたに兄を嗾けた時も離れた場所から様子を見ていたんだけど……あれはまずいわ。後で聞いたら『大学でモテているイケメンを参考にした』って言うの。呆れたわ」
「俺はまだ許してないからな! せりなを罠に掛けやがって……! せりなが許すって言っても俺は……!」
「お兄ちゃん! もうやめてよ! 私は逆に感謝してるんだから!」
「感謝……?」
不思議に思い呟いた。裏原さんは私と目を合わせて言った。
「あなたに仕返しされた後、学年中から白い目で見られたり噂されたりで恨んだ時もあった。でも結果的には凄くよかったって気付いたの」
両手を掴まれた。私を見る裏原さんの目がキラキラ輝いているように感じる。
裏原さんの話によると高校に入ってから性格を変えようと努力していたら中学でのダメージを癒してくれる優しい彼氏ができたそうだ。それまで吉園君の事を忘れられない日々を送っていたらしいけど……その後、吉園君とその彼女の破局を風の噂で知り未練はなくなったと言う。吉園君は結構思わせぶりな態度が多かったので彼女になる人は大変そうだからと笑っている。
人から言われた悪口を自分の中で消化できず別の子に言ってしまう癖があり、私が言いやすそうだったからイライラの捌け口にしていたとも打ち明けられた。迷惑な癖だ。絶対にもうやめてほしい。
家の近くにある道路まで来た時スマホが鳴った。あややんからだ! 応答すると車内に勢いよくあややんの声が響いた。
『音ちゃん、音ちゃん! 大丈夫っ? さっき、みちるちゃんに音ちゃんがピンクっぽい服装の男の人と車に乗ってたけどって連絡もらって心臓止まりそうになったよ! ピンクの人って例のストーカーの人でしょ?』
みちるちゃんって……ああ、クラスの子か。あややん心配してくれてたんだ。胸がじーんとした。かいつまんで状況を説明する。
「あ、うん……話があるって言われて……もう話も終わって家に送ってもらってたとこ。心配かけてごめん」
『……っ、大丈夫なんだね。よかったぁ』
あややんに安心してもらえたようでホッとする。
「羨ましいわ。あなたにはいい友達がいるのね」
裏原さんが少し寂しそうに微笑んだ。
「私は性格も歪んでるし中学時代に友達だった子とも疎遠になったの。自業自得だよね」
「ふーん。じゃあ夏休みも遊ぶ友達いないんだ」
目を細めて尋ねる。裏原さんは気まずそうに答えた。
「そ、そうね。友達はいないかもね」
「じゃあ、今までの罪滅ぼしとして夏休みに私たちと遊ぶ事! そしたら許してもいいよ」
「え……?」
裏原さんの目が大きくなった。
「あややんとカラオケの女子会パックに行ってみたいって言ってたんだけど、クーポンに三人以上から利用可能って書いてあって。一緒に行ってくれる?」
明るく持ち掛けた。裏原さんは言葉に詰まったような間の後でそっぽを向いた。小さい声が聞こえる。
「い……行ってあげてもいいわよ」
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