14 / 32
14 思惑
しおりを挟む『音芽……』
己花さんの心配そうな声が聞こえる。そう言えば……。
『己花さんごめん。銀河君と話したかったよね。折角の機会なのに気付かなくてごめんね。私、暫く休むね……』
伝えた後、眼鏡を掛けた。
わたくしは怒っていました。眼鏡越しに横目で銀河様を睨みます。
「音芽を傷付けないでくださいまし!」
言い放つと銀河様の目が大きくなりました。直後、何とも甘い笑みを向けられました。
「傷付けてるって分かってるのに、何で己花さんは協力してくれてるの?」
「それは……銀河様を信じているからです」
俯いて小さく答えました。不意に銀河様が立ち止まりました。私も足を止めます。
今日の彼は大きめの白いTシャツにカーキ色のズボン姿です。Tシャツの上で金色のネックレスが光っています。
銀河様がわたくしの右手に触れました。繋いだ後で告げられました。
「好きな人の全部を手に入れたいって思うよね? 悪いけど半分だけじゃダメなんだ」
再び歩き始めました。手は繋いだままです。本当に……拗れていますわ。ため息が漏れます。
視線を感じて顔を上げました。神妙な口振りで問い掛けてきます。
「己花さんはあいつの事……どう思ってる?」
あいつとは蒼様の事ですわね。この人は本当に……。心底呆れてしまいます。
「音芽を傷付ける人は等しく嫌いですわ!」
言い放って思い切りそっぽを向きました。
「ごめん」
謝罪の言葉が聞こえチラッと様子を窺いました。銀河様は少し困ったような顔で笑っていました。
わたくしはこの時まだ分かっていなかったのです。音芽の受けたダメージはわたくしの想像より深く、それにより彼女を危機に近付けてしまう事態へと発展すると予想もしていませんでした。
その日は蒼君が迎えに来てくれる事になっていた。だけどまだ心の整理ができていなかった。
彼との約束の時間まで一時間はある。やっぱり一人で考える時間が必要だと思い直しメッセージを打った。「今日は友達と帰るから大丈夫だよ」と。
「本当に大丈夫なの?」
隣を歩くあややんが心配そうに聞いてくる。彼女は私の家まで付いて行くと申し出てくれた。けれど私の家まで来てくれたとして、彼女一人だけを帰す事になるのでそっちの方が心配だ。
「うん。そんなに頻繁には会わないだろうし」
内心ばったり会いそうな予感がしていたけど自分を誤魔化して無理に笑顔を作った。
だって蒼君に来てもらったとして……私はどんな風に振る舞えばいいか分からない。銀河君の教えてくれた情報が本当だったら……私は蒼君のただの遊び相手って事だよね。
ズーンと気分が重くなる。
いつもの十字路であややんに手を振った。
「音ちゃん。気を付けてね」
そう言われたのに。
また左の道から帰れば大丈夫だよねと軽く考えていた。少し自暴自棄になっていたのかもしれない。蒼君との問題に比べたらあの男の件なんてどうでもよく思えてくる。
下を向いて歩いていた。だから気付くのに遅れた。
私の右斜め前……歩道の側に車が停車した。見覚えがあると考えた時には既に例の男が目前に迫っていた。
彼は私に言った。
「少しの間でいいんだ。話を聞いてほしい」
いつものニチャアッとした笑顔ではない慎重な様子に、この人はもしかして私に何か用事があるから今まで追い掛けて来ていたのかもしれないと感じた。
『音芽、ダメです! 危険です!』
己花さんの制止に従わなかった。もう、うんざりしていた。考えるのも疲れた。男の指示で白い車に近付く。車の後方にあるスライドドアが開けられ促されるまま足を踏み入れた。
その瞬間、騙されたと思った。
「え……」
無意識に声が零れる。車中には女の子がいた。くすんだ赤色のセーラー服姿の子で、脚を組んで座り腕組みもしている。
「久しぶりね」
不遜な態度で話し掛けてきたのは……。
彼女の名を口にする。
「裏原さん……」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
【完結】天上デンシロック
海丑すみ
青春
“俺たちは皆が勝者、負け犬なんかに構う暇はない”──QUEEN/伝説のチャンピオンより
成谷響介はごく普通の進学校に通う、普通の高校生。しかし彼には夢があった。それはかつて有名バンドを輩出したという軽音楽部に入部し、将来は自分もロックバンドを組むこと!
しかし軽音楽部は廃部していたことが判明し、その上響介はクラスメイトの元電子音楽作家、椀田律と口論になる。だがその律こそが、後に彼の音楽における“相棒”となる人物だった……!
ロックと電子音楽。対とも言えるジャンルがすれ違いながらも手を取り合い、やがて驚きのハーモニーを響かせる。
---
※QUEENのマーキュリー氏をリスペクトした作品です。(QUEENを知らなくても楽しめるはずです!)作中に僅かながら同性への恋愛感情の描写を含むため、苦手な方はご注意下さい。BLカップル的な描写はありません。
---
もずくさん( https://taittsuu.com/users/mozuku3 )原案のキャラクターの、本編のお話を書かせていただいています。
実直だが未熟な高校生の響介は、憧れのロッカーになるべく奔走する。前途多難な彼と出会ったのは、音楽に才能とトラウマの両方を抱く律。
そして彼らの間で揺れ動く、もう一人の友人は──孤独だった少年達が音楽を通じて絆を結び、成長していく物語。
表紙イラストももずくさんのイラストをお借りしています。本編作者( https://taittsuu.com/users/umiusisumi )もイラストを描いてますので、良ければそちらもよろしくお願いします。
【完結・エピソード追加中】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。
猫都299
青春
坂上明には小学校から高校二年になった現在まで密かに片想いしていた人がいる。幼馴染の岸谷聡だ。親友の内巻晴菜とはそんな事も話せるくらい仲がよかった。そう思っていた。
ある日知った聡と晴菜の関係。
これは明が過去に募らせてしまった愚かなる純愛へ一矢報いる為、協力者と裏切り返す復讐(イチャイチャ)の物語である。
※2024年8月10日に完結しました! 応援ありがとうございました!(2024.8.10追記)
※小説家になろう、カクヨム、Nolaノベルにも投稿しています。
※主人公は常識的によくない事をしようとしていますので気になる方は読まずにブラウザバックをお願い致します。
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。関連した人物も、たまに登場します。(2024.12.2追記)
※番外編追加中・更新は不定期です。(2025.1.30追記)
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
心の中に白くて四角い部屋がありまして。
篠原愛紀
青春
その日、私は自分の白い心の部屋に鍵をかけた。
その日、私は自分の白い心の部屋に鍵をかけた。
もう二度と、誰にも侵入させないように。
大きな音を立てて、鍵をかけた。
何色にも染めないように、二度と誰にも見せないように。
一メートルと七十センチと少し。
これ以上近づくと、他人に自分の心が読まれてしまう香澄。
病気と偽りフリースクールに通うも、高校受験でどこに行けばいいか悩んでいた。
そんなある日、いつもフリースクールをさぼるときに観に行っていたプラネタリウムで、高校生の真中に出会う。彼に心が読まれてしまう秘密を知られてしまうが、そんな香澄を描きたいと近づいてきた。
一メートル七十センチと少し。
その身長の真中は、運命だねと香澄の心に入ってきた。
けれど絵が完成する前に真中は香澄の目の前で交通事故で亡くなってしまう。
香澄を描いた絵は、どこにあるのかもわからないまま。
兄の死は香澄のせいだと、真中の妹に責められ、
真中の親友を探すうちに、大切なものが見えていく。
青春の中で渦巻く、甘酸っぱく切なく、叫びたいほどの衝動と心の痛み。
もう二度と誰にも自分の心は見せない。
真っ白で綺麗だと真中に褒められた白い心に、香澄は鍵をかけた。
土俵の華〜女子相撲譚〜
葉月空
青春
土俵の華は女子相撲を題材にした青春群像劇です。
相撲が好きな美月が女子大相撲の横綱になるまでの物語
でも美月は体が弱く母親には相撲を辞める様に言われるが美月は母の反対を押し切ってまで相撲を続けてる。何故、彼女は母親の意見を押し切ってまで相撲も続けるのか
そして、美月は横綱になれるのか?
ご意見や感想もお待ちしております。
四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜
八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」
「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」
「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」
「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」
「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」
「だって、貴方を愛しているのですから」
四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。
華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。
一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。
彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。
しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。
だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。
「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」
「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」
一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。
彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる