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二章 復讐のその後
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ここは……!
テスト期間中に何と大胆な。
分かった! 彼女の魂胆が。
「ここでも勉強する気なんだ。きっとそうだ……。私も早く帰って勉強しなきゃいけないのに!」
焦りから思考を口に出していた。ギリギリと歯軋りして私の横に立っている岸谷君を睨む。岸谷君から呆れられている雰囲気の一瞥を寄越された。彼は冷静な面持ちで言う。
「ここに来て普通、勉強なんてするか? するわけねーだろ。それに勉強ならさっきファミレスでしてただろ?」
……岸谷君が何をいいたいのか薄ら伝わってくる。
「岸谷君、帰るよ」
言い聞かせる。もうこれ以上はさすがに付き合いきれない。それなのに。
岸谷君にじっと見つめられた。
「いやいや。待って。まさか? ここに入るの?」
聞いたけど岸谷君は黙っている。まさかだよね? 私は相当怖じ気付いていた。戸惑っている内に右手首を掴まれてしまった。
「行こう」
抵抗する間もないまま手を引かれ、岸谷君に続いて店の中へ入った。
「ここまでする必要ある? 岸谷君は晴菜ちゃんの事が好きなの?」
カラオケ店の個室でソファに膝立ちし壁に耳を当てている、かつて好きだった人の現在の姿を残念な気持ちで眺めていた。彼は私の質問には答えず「あ、やっぱり歌い出したぞ。勉強なんてする筈ねーよな」とフッとほくそ笑んだ。言ってやる。
「あ~そっち? 私はてっきりイチャイチャするのかなって思ってたよ?」
岸谷君がぎょっとした顔でこっちを見た。彼の表情から生気がなくなっていく。
「………………やっぱりそうだよな。付き合ってるなら……きっとそうなんだろうな」
岸谷君はソファに座り直し、深く項垂れてしまった。……ああ。やっぱり晴菜ちゃんの事が好きなんじゃん。
ちょっと意地悪を言い過ぎたかなと考えた。「彼が下を向いているのは泣いているからなのでは?」と思い至って慌てた。
「岸谷君ごめん! そんなに晴菜ちゃんの事が好きだった?」
岸谷君の隣に腰掛け謝った。上半身を傾けて彼の表情を知ろうとした。肩を押され視界が天井を向いた。天井を遮るように岸谷君の顔がある。
彼は聞いてくる。
「ねぇ。本当に俺の事、好きじゃなくなった?」
「もしかして今日の彼の狙いはこれだった?」と頭の隅で思考している傍ら返事をする。
「うん」
一拍置いて確認される。
「そんなにアイツがいいの?」
見下ろしてくる双眸がどこかつらそうに笑う。重く答えを返す。
「うん」
「そうか……」
彼は私の右肩辺りに項垂れ、暫く動かなかった。
「ごめんね岸谷君。私、あなたとは一緒にいれない」
天井を見つめて伝えた。
バカだなぁ、私。何で今まで気付かなかったんだろう。もっと早く……岸谷君が不安になる前に気付いてあげられていたら、きっと違う「今」があったのかもしれない。もう戻れないけれど。
岸谷君は本当に、私の事が好きだったんだなぁ。
「ありがとう。ハッキリ言ってくれて。やっと諦めが付くよ」
すぐ近くで低めの声が伝えてくる。右肩から重みが退いた。少しぎこちなく笑って離れていく彼を見ていた。
私も身を起こし掛けたところで部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
「聡!」
部屋に嵐の如く入って来たのは姫莉ちゃんだった。
「おまっ! 何でここが分かった?」
岸谷君が目を剥いて疑問を口にした。姫莉ちゃんは得意げに胸を張って言った。
「秘密!」
彼女と目が合った。笑い掛けると露骨にむっとしたような顔で睨まれた。
「聡は姫莉のだから!」
彼女は岸谷君の腕をぎゅっと抱きしめ言い放った。小柄な体躯が小刻みに震えている様子に思い出す。以前岸谷君が言っていた。姫莉ちゃんは情緒不安定なところがあり泣いていたって。
岸谷君はきっと姫莉ちゃんの心の支えなんだろうな。仔猫が怯えて威嚇している姿に似ていると微笑ましく思いながら彼女に近付いた。
「姫莉ちゃん。岸谷君の事をよろしくね。岸谷君がフラフラしているのも、きっと寂しいからだと思うんだ。私はもう彼とは一緒にいられないから。姫莉ちゃんが守ってあげて」
岸谷君へも言っておく。
「岸谷君。私の頼みを何でも聞いてくれるって言ってたよね? 姫莉ちゃんを幸せにしてあげて。彼女だけを好きでいてあげて。……これからは寂しいからってほかの人で埋めようとしないで」
最後にもう一度、彼の顔を見た。明るく笑顔で言えた。
「今までありがとう」
テスト期間中に何と大胆な。
分かった! 彼女の魂胆が。
「ここでも勉強する気なんだ。きっとそうだ……。私も早く帰って勉強しなきゃいけないのに!」
焦りから思考を口に出していた。ギリギリと歯軋りして私の横に立っている岸谷君を睨む。岸谷君から呆れられている雰囲気の一瞥を寄越された。彼は冷静な面持ちで言う。
「ここに来て普通、勉強なんてするか? するわけねーだろ。それに勉強ならさっきファミレスでしてただろ?」
……岸谷君が何をいいたいのか薄ら伝わってくる。
「岸谷君、帰るよ」
言い聞かせる。もうこれ以上はさすがに付き合いきれない。それなのに。
岸谷君にじっと見つめられた。
「いやいや。待って。まさか? ここに入るの?」
聞いたけど岸谷君は黙っている。まさかだよね? 私は相当怖じ気付いていた。戸惑っている内に右手首を掴まれてしまった。
「行こう」
抵抗する間もないまま手を引かれ、岸谷君に続いて店の中へ入った。
「ここまでする必要ある? 岸谷君は晴菜ちゃんの事が好きなの?」
カラオケ店の個室でソファに膝立ちし壁に耳を当てている、かつて好きだった人の現在の姿を残念な気持ちで眺めていた。彼は私の質問には答えず「あ、やっぱり歌い出したぞ。勉強なんてする筈ねーよな」とフッとほくそ笑んだ。言ってやる。
「あ~そっち? 私はてっきりイチャイチャするのかなって思ってたよ?」
岸谷君がぎょっとした顔でこっちを見た。彼の表情から生気がなくなっていく。
「………………やっぱりそうだよな。付き合ってるなら……きっとそうなんだろうな」
岸谷君はソファに座り直し、深く項垂れてしまった。……ああ。やっぱり晴菜ちゃんの事が好きなんじゃん。
ちょっと意地悪を言い過ぎたかなと考えた。「彼が下を向いているのは泣いているからなのでは?」と思い至って慌てた。
「岸谷君ごめん! そんなに晴菜ちゃんの事が好きだった?」
岸谷君の隣に腰掛け謝った。上半身を傾けて彼の表情を知ろうとした。肩を押され視界が天井を向いた。天井を遮るように岸谷君の顔がある。
彼は聞いてくる。
「ねぇ。本当に俺の事、好きじゃなくなった?」
「もしかして今日の彼の狙いはこれだった?」と頭の隅で思考している傍ら返事をする。
「うん」
一拍置いて確認される。
「そんなにアイツがいいの?」
見下ろしてくる双眸がどこかつらそうに笑う。重く答えを返す。
「うん」
「そうか……」
彼は私の右肩辺りに項垂れ、暫く動かなかった。
「ごめんね岸谷君。私、あなたとは一緒にいれない」
天井を見つめて伝えた。
バカだなぁ、私。何で今まで気付かなかったんだろう。もっと早く……岸谷君が不安になる前に気付いてあげられていたら、きっと違う「今」があったのかもしれない。もう戻れないけれど。
岸谷君は本当に、私の事が好きだったんだなぁ。
「ありがとう。ハッキリ言ってくれて。やっと諦めが付くよ」
すぐ近くで低めの声が伝えてくる。右肩から重みが退いた。少しぎこちなく笑って離れていく彼を見ていた。
私も身を起こし掛けたところで部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
「聡!」
部屋に嵐の如く入って来たのは姫莉ちゃんだった。
「おまっ! 何でここが分かった?」
岸谷君が目を剥いて疑問を口にした。姫莉ちゃんは得意げに胸を張って言った。
「秘密!」
彼女と目が合った。笑い掛けると露骨にむっとしたような顔で睨まれた。
「聡は姫莉のだから!」
彼女は岸谷君の腕をぎゅっと抱きしめ言い放った。小柄な体躯が小刻みに震えている様子に思い出す。以前岸谷君が言っていた。姫莉ちゃんは情緒不安定なところがあり泣いていたって。
岸谷君はきっと姫莉ちゃんの心の支えなんだろうな。仔猫が怯えて威嚇している姿に似ていると微笑ましく思いながら彼女に近付いた。
「姫莉ちゃん。岸谷君の事をよろしくね。岸谷君がフラフラしているのも、きっと寂しいからだと思うんだ。私はもう彼とは一緒にいられないから。姫莉ちゃんが守ってあげて」
岸谷君へも言っておく。
「岸谷君。私の頼みを何でも聞いてくれるって言ってたよね? 姫莉ちゃんを幸せにしてあげて。彼女だけを好きでいてあげて。……これからは寂しいからってほかの人で埋めようとしないで」
最後にもう一度、彼の顔を見た。明るく笑顔で言えた。
「今までありがとう」
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