【完結・エピソード追加中】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。

猫都299

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二章 復讐のその後

39 変遷

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 前回は少し強引で性急だったけど今回は違った。深くて短いキスを繰り返される。曖昧に試すような目で瞳を覗かれる。もっと長く春夜君を感じていたいのに。

 焦らされていると気付く頃には熱の行き場を彼にしか見いだせなくなっていて口を滑らせてしまった。

「もっと……」

 春夜君が聞いてくる。

「もっと……何?」

 恥ずかしくなって口を押さえて顔を横に向けた。耳の側で誘惑してくる。

「明の要望に応えるから。言って?」


 口付けをねだった。最初に与えられたものがお遊びだったと感じる程に執拗に奪われて、満たされ鎮火する筈の熱を煽り増長させていく。


 見下ろしてくる春夜君の視線を受け止める。

「明に……言わなきゃいけない事があります」

「うん、何?」

 彼は思い詰めたような表情で苦しそうに目元を歪めた。

「オレ、明と岸谷先輩の事をめちゃくちゃに邪魔して……」

「うん」

「明を奪ったんです」

「うん、そうだね……」

「凄く狡い奴なんです」

「知ってる」

「恨みますよね、普通……」

 元気なく視線を外した春夜君へ明るく笑い掛けた。

「私は嬉しいよ?」

 春夜君の目が再び私へ向いた。彼の口が動く。

「……何で?」

「奪いたいくらい好きになってくれたのかなって。私は春夜君から話を聞くまで、私が晴菜ちゃんから春夜君を奪ったと思ってたよ?」

 春夜君がハッとしたように目を開いた時、部屋にノックの音が響いた。

「オレだけど。舞花ちゃんを送ってくる。お前らはどうすんの?」

 花織君の声に慌てて身を起こそうとした。

「あっ、私も帰……むぐ」

 言い掛けた口を春夜君が手で塞いできた。起こしかけていた体も肩を押されて再びベッドに沈む。
 春夜君はドアの向こうの花織君に返事をした。

「明がもう少し本を読みたいらしいから、後から彼女を送ってく」

「おー、程々にな」

「明ちゃんまたね」

 舞花ちゃんの声だ。春夜君の手が緩んだのでドアの向こうへ声を掛ける。

「うん、またねー!」

 二人が外に出る音が聞こえる。気配が遠ざかってもまだ私たちはそのままの体勢で見つめ合っていた。

「帰りたかったですか?」

 春夜君に聞かれて言葉に詰まる。「もっと春夜君と一緒にいたい」っていうのが私の本心なんだけど。一緒にいる時は満たされている。でも離れてしまうとすぐに会いたくなってしまう。苦笑いした後、本心を隠した。

「だって帰らないと」

 顔を横に向けて彼の視線から逃げた。

「早く帰らないといけない理由があるんですか?」

 静かな声で尋ねられた。

「春夜君と一緒にいたら、つらくなるから」

 言ってしまってから自分でも変に思った。もしかして言葉が足りてなくて失言になったかもしれない?
 恐る恐る春夜君を窺った。顔色が悪い。

「オレといたら、つらいんですか?」

 ポツリと問い掛けられ焦って訂正する。

「ち、違う! そうじゃなくて! 春夜君と一緒にいる時は凄く幸せだから……それに慣れてしまって帰りたくなくなっちゃうから。離れるのがつらくなるから! 我儘なところを見せて嫌われたくなくて。春夜君を好きになって、恋ってつらい事もあるんだって知ったよ。会えなかった時、春夜君が晴菜ちゃんを好きだって……二人は今一緒にいるのかもって考えただけで泣いてたよ」

 自分の勘違いを振り返って少し笑った。でも慌てていたから何か余計な事まで打ち明けてしまった気がする。

「だから。何と言うか。本当はね、ずっと春夜君と一緒にいたいんだよ?」

 照れてしまって視線を逸らして伝えた。

「じゃあ問題ないですよね」

 そう切り出した彼の声には明るさが戻っていた。

「オレ、前にも言いましたよね? ずっとここにいてくれていいって。明もオレと同じ気持ちだったのならいいですよね?」

 彼を見る。細く笑みを作る目が確かに私を映している。

「でも。お家の人が」

「うちの家族なら明の事、大歓迎です。いつまででもうちにいてくれていいです」

「でも。うちの家族も心配す……」

「うちの親から明のご両親に連絡させてもらいます」

「食費とか着替えとか、えっと……」

「明は何も気にしなくていい。着替えとか必要なものは理兄ちゃんに車で運んでもらいましょう」

 障害になりそうな事柄を並べてみたけど、春夜君は「明がここへ引っ越す為のプロセスの一つで想定内」とでも言いたげだ。

 彼はニコニコして私を誘惑する。

「ここにある本、毎日読み放題ですよ?」

「うっ」

 春夜君と毎日一緒にいられるし、本も読める。凄い引力だ。
 それでもしぶとく考えあぐねて中々答えを返さない私に、彼はトドメを刺そうとしてきた。

「明。オレの持ってる本、全部あげます。ここにいて」



 ほとんど暮れた空に一筋、茜に染まる雲が棚引いている。川沿いの歩道を春夜君と並んで歩きながら思っていた事を口にする。

「春夜君の部屋の本は私のものになった訳だけど……本当にいいの?」

 今日はこのまま帰るけど……近いうちに沢西家へ引っ越す約束をした。よって春夜君の持っている本は全て私の物なのだ。

 今日は家に帰ったら家族会議しなきゃ。両親をどう説得しようか頭を悩ませていた。春夜君が機嫌のよさそうな微笑みを浮かべた。

「はい。もう全部読んでますし、本よりも明に興味があります。それに明はもうオレのものになりましたよね? つまり明の本も結局はオレの物って訳です!」

「え……狡っ!」

 笑い合いながらバス停へと歩みを進める。ふとした瞬間に思い至った。

「春夜君のお家に引っ越すって……何だか嫁入りするみたい」

 立ち止まって春夜君を見つめた。数歩分前方で足を止め振り向いた彼は、どこか大人っぽい眼差しを寄越した。

「オレはそのつもりですけど」

 春夜君の部屋に初めて入らせてもらった日に「プロポーズみたい」と思った言葉が胸に浮かんだ。

 春夜君の気持ちが嬉しいのに、言い表せそうな言葉を見付けきれなくて口を噤んだ。
 涙が出そう。両想いなんだ。


「何で泣くんです?」

 優しい手付きで頭を撫でてくれる。
 彼の差し出してくれたハンカチで頬を拭った。
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