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二章 復讐のその後
35 動揺
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「えっ? あれっ? 舞花ちゃん? びっくりした!」
佳耶さんは目を大きくした表情で舞花ちゃんに話し掛けている。
「お久しぶりです。佳耶お姉ちゃん」
「名前を聞くまで分からなかったよ!」
そう言った佳耶さんに舞花ちゃんは微笑んで、少しだけ目を伏せた。
「……私も。すぐに思い出せなかったです」
「舞花ちゃんは……花織君とも知り合いなんだね」
佳耶さんが首を傾げながら舞花ちゃんに聞いた。
「ええ、そうなんです」
舞花ちゃんはニッコリしたけど、その瞳には陰りがあった。
「ねぇ? 花織お兄ちゃん?」
舞花ちゃんに話しを振られた花織君は左手でお冷を飲みながら右手で額を押さえている。
「えっと……待って。名前はどこかで聞いた事あるんだ。今、薄ら記憶が戻ってきそうなんだ。舞花ちゃん……舞花ちゃん……」
舞花ちゃんは直後、今この状況を混迷に陥れる爆弾発言を投下した。
「あの頃、私と将来結婚してくれるって約束しましたよね? まさか忘れてませんよね?」
「ふぐっ?」
花織君が咽た。
「え……? まさかあの子? ええっ?」
かなり動揺した様子で口元をシャツの袖で拭っている彼は口走る。
「待て待て待て待ってくれ。オレ……何でこんなにモテてんの? これって何かの陰謀? もしかしてここにいる奴、皆グル? オレを嵌めて笑い者にしようとしてる?」
どうして彼がモテているのかは謎だったけど、普通なら喜んでよさそうな場面で疑心暗鬼になる花織君をちょっと不憫に思う。
席が空くのを待っているお客さんもいるので場所を変えて話そうと理お兄さんが提案した。花織君・佳耶さん・舞花ちゃん・理お兄さんは、この後花織君の家で話し合うらしく移動する事になった。春夜君も理お兄さんの車で帰ると言う。
理お兄さんと喋っていた春夜君がこっちを向いた。もう少し一緒にいたかったので残念に思いつつも明るく手を振った。
「そっか……また明日ね!」
私を見た春夜君の目が一瞬大きくなった。その双眸はすぐ後、何か不満を持ったように細められた。
「何言ってんですか? 先輩、今日用事ないって言ってたでしょう? もちろんうちに来ますよね?」
春夜君が当然の如く誘ってくれる。
私も車に乗せてもらい沢西家にお邪魔した。奥のLDKへ通されて開口一番、舞花ちゃんが花織君に詰め寄った。
「私じゃダメですか? 佳耶お姉ちゃんに敵うところなんてないかもしれないけどっ! だけど今の私だったら、きっとお兄ちゃんの夢を叶えてあげられると思うんです。身体もあの頃より成長したし、お化粧の腕も上がったし、友達に協力してもらってユララの衣装も手に入れました。だから……お願い……!」
その様子を彼らから少し離れたドアの前で見ていた。私のすぐ横にいる春夜君がゾッとしたような顔をしている。「どうしたの?」と尋ねると耳打ちで教えてくれた。
「これからどうなるんでしょうね。兄貴を巡る三角関係……しかも花織は『朔菜』って子が気になってるみたいだし。理兄ちゃんのせっかくの計らいもより状況を複雑にしてるし……」
お手洗いに行っていた佳耶さんがリビングに戻った時、理お兄さんが言い出した。
「一人ずつデートして決めれば? それから佳耶には、これから用事があるから先に送ってくる。戻って来るまでによく話をしておけよ、花織」
言い置き、理お兄さんは佳耶さんを伴い部屋を出て行った。
「何でアイツが仕切ってるんだ」
花織君が不満げに呟いている。理お兄さんと佳耶さんを見送った後、キッチンのドアの前に何かが落ちているのに気付いた。桃色の……ハンカチ?
「ねぇ、舞花ちゃん。このハンカチ舞花ちゃんの?」
持ち上げて聞いてみた。舞花ちゃんはハンカチを見て首を横に振っている。
「違うわ」
舞花ちゃんが答えた同じくらいの時に花織君の表情がハッとしたように動いた。
「それ、佳耶のだ」
花織君がそう言ったので慌てた。
「今ならまだ間に合うかな? 私、駐車場まで行ってみます!」
言い終わらないうちに靴を履いて外へ出た。一階にある駐車場には、まだ理お兄さんの車があった。よかった、間に合った――!
そうほっとした筈だった。しかしすぐに心臓がバクバク鳴り出す。胸を手で押さえる。えっ……?
マンション入り口前の植え込みの間から件の車に目を凝らす。
今、一瞬……二人がキスしているように見えたけど……見間違いだよね……?
目を擦ってもう一度見た時にはキスしていなかった。やっぱり見間違いかも。けれどハンカチを渡しに行こうと踏み出し掛けた足が止まる。
「佳耶……嘘が下手になった? 花織の事が好きだって、あれ嘘でしょ?」
――という理お兄さんの声が聞こえたからだ。車の窓がどこか開いているのかもしれない。内容を聞き取れる。
「何で嘘ついてるのかな?」
理お兄さんは意地悪な目付きでそう笑って佳耶さんをからかっている。佳耶さんは少し拗ねたようにムッとした表情で反論した。
「理君が悪い人だからだよ」
「へぇ……俺のせい?」
佳耶さんに視線を注いだまま、理お兄さんの口角が上がる。佳耶さんが泣きそうな声で伝える。
「私、本当に花織君が好きだったのに……今は理君の事ばかり考えてるんだよ?」
佳耶さんの腕が理お兄さんの首に絡んだ。
「責任取って」
熱望するように囁く薄紅色の唇に理お兄さんが唇を合わせた。
えっ? これってどういう状況なんだろう……?
ただ、気軽にハンカチを渡しに行ける雰囲気じゃない事は察した。
佳耶さんは目を大きくした表情で舞花ちゃんに話し掛けている。
「お久しぶりです。佳耶お姉ちゃん」
「名前を聞くまで分からなかったよ!」
そう言った佳耶さんに舞花ちゃんは微笑んで、少しだけ目を伏せた。
「……私も。すぐに思い出せなかったです」
「舞花ちゃんは……花織君とも知り合いなんだね」
佳耶さんが首を傾げながら舞花ちゃんに聞いた。
「ええ、そうなんです」
舞花ちゃんはニッコリしたけど、その瞳には陰りがあった。
「ねぇ? 花織お兄ちゃん?」
舞花ちゃんに話しを振られた花織君は左手でお冷を飲みながら右手で額を押さえている。
「えっと……待って。名前はどこかで聞いた事あるんだ。今、薄ら記憶が戻ってきそうなんだ。舞花ちゃん……舞花ちゃん……」
舞花ちゃんは直後、今この状況を混迷に陥れる爆弾発言を投下した。
「あの頃、私と将来結婚してくれるって約束しましたよね? まさか忘れてませんよね?」
「ふぐっ?」
花織君が咽た。
「え……? まさかあの子? ええっ?」
かなり動揺した様子で口元をシャツの袖で拭っている彼は口走る。
「待て待て待て待ってくれ。オレ……何でこんなにモテてんの? これって何かの陰謀? もしかしてここにいる奴、皆グル? オレを嵌めて笑い者にしようとしてる?」
どうして彼がモテているのかは謎だったけど、普通なら喜んでよさそうな場面で疑心暗鬼になる花織君をちょっと不憫に思う。
席が空くのを待っているお客さんもいるので場所を変えて話そうと理お兄さんが提案した。花織君・佳耶さん・舞花ちゃん・理お兄さんは、この後花織君の家で話し合うらしく移動する事になった。春夜君も理お兄さんの車で帰ると言う。
理お兄さんと喋っていた春夜君がこっちを向いた。もう少し一緒にいたかったので残念に思いつつも明るく手を振った。
「そっか……また明日ね!」
私を見た春夜君の目が一瞬大きくなった。その双眸はすぐ後、何か不満を持ったように細められた。
「何言ってんですか? 先輩、今日用事ないって言ってたでしょう? もちろんうちに来ますよね?」
春夜君が当然の如く誘ってくれる。
私も車に乗せてもらい沢西家にお邪魔した。奥のLDKへ通されて開口一番、舞花ちゃんが花織君に詰め寄った。
「私じゃダメですか? 佳耶お姉ちゃんに敵うところなんてないかもしれないけどっ! だけど今の私だったら、きっとお兄ちゃんの夢を叶えてあげられると思うんです。身体もあの頃より成長したし、お化粧の腕も上がったし、友達に協力してもらってユララの衣装も手に入れました。だから……お願い……!」
その様子を彼らから少し離れたドアの前で見ていた。私のすぐ横にいる春夜君がゾッとしたような顔をしている。「どうしたの?」と尋ねると耳打ちで教えてくれた。
「これからどうなるんでしょうね。兄貴を巡る三角関係……しかも花織は『朔菜』って子が気になってるみたいだし。理兄ちゃんのせっかくの計らいもより状況を複雑にしてるし……」
お手洗いに行っていた佳耶さんがリビングに戻った時、理お兄さんが言い出した。
「一人ずつデートして決めれば? それから佳耶には、これから用事があるから先に送ってくる。戻って来るまでによく話をしておけよ、花織」
言い置き、理お兄さんは佳耶さんを伴い部屋を出て行った。
「何でアイツが仕切ってるんだ」
花織君が不満げに呟いている。理お兄さんと佳耶さんを見送った後、キッチンのドアの前に何かが落ちているのに気付いた。桃色の……ハンカチ?
「ねぇ、舞花ちゃん。このハンカチ舞花ちゃんの?」
持ち上げて聞いてみた。舞花ちゃんはハンカチを見て首を横に振っている。
「違うわ」
舞花ちゃんが答えた同じくらいの時に花織君の表情がハッとしたように動いた。
「それ、佳耶のだ」
花織君がそう言ったので慌てた。
「今ならまだ間に合うかな? 私、駐車場まで行ってみます!」
言い終わらないうちに靴を履いて外へ出た。一階にある駐車場には、まだ理お兄さんの車があった。よかった、間に合った――!
そうほっとした筈だった。しかしすぐに心臓がバクバク鳴り出す。胸を手で押さえる。えっ……?
マンション入り口前の植え込みの間から件の車に目を凝らす。
今、一瞬……二人がキスしているように見えたけど……見間違いだよね……?
目を擦ってもう一度見た時にはキスしていなかった。やっぱり見間違いかも。けれどハンカチを渡しに行こうと踏み出し掛けた足が止まる。
「佳耶……嘘が下手になった? 花織の事が好きだって、あれ嘘でしょ?」
――という理お兄さんの声が聞こえたからだ。車の窓がどこか開いているのかもしれない。内容を聞き取れる。
「何で嘘ついてるのかな?」
理お兄さんは意地悪な目付きでそう笑って佳耶さんをからかっている。佳耶さんは少し拗ねたようにムッとした表情で反論した。
「理君が悪い人だからだよ」
「へぇ……俺のせい?」
佳耶さんに視線を注いだまま、理お兄さんの口角が上がる。佳耶さんが泣きそうな声で伝える。
「私、本当に花織君が好きだったのに……今は理君の事ばかり考えてるんだよ?」
佳耶さんの腕が理お兄さんの首に絡んだ。
「責任取って」
熱望するように囁く薄紅色の唇に理お兄さんが唇を合わせた。
えっ? これってどういう状況なんだろう……?
ただ、気軽にハンカチを渡しに行ける雰囲気じゃない事は察した。
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