【完結・エピソード追加中】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。

猫都299

文字の大きさ
上 下
27 / 57
一章

27 思い出

しおりを挟む
 バスを降りて岸谷君と二人並んで歩いていた。岸谷君が何か喋り掛けてくれているようだけど、私は曖昧な相槌しか返していない。

 身体は岸谷君と家路についているのに、頭の中は春夜君と晴菜ちゃんの事で埋め尽くされていた。二人を残して帰ってしまった。
 帰りたくなかったけど岸谷君に「残りたい」とも言えないし。岸谷君からしたら今、私は紛れもない「彼女」なんだ。私に全然そのつもりがなくても「付き合っている」という事実は揺らがない。

 私たちの家がある丘の下、パン屋さんを通り過ぎた頃に岸谷君がこっちを見た。

「坂上」

「ん?」

「手、繋いでもいいか?」

 問われて一瞬、言葉に詰まった。だけど明るく返答する。

「うん、いいよ」

 付き合っているのに手を繋ぐのを拒むのも変かなと思い了承した。
 大きくて骨ばった手が私の右手を包んだ。

 岸谷君と歩いているのに、ずっと春夜君の事を考えていた。この道で手を繋いで帰った日の事。

 今、二週間前まであんなに好きだった人と付き合えて一緒にいるのに全然満たされていない心に自覚する。私、やっぱり春夜君が好きなんだ。

 ……これからどうなるんだろう。横目に岸谷君を盗み見た。岸谷君と付き合って復讐して、それから? 春夜君からはその先の事を聞いていない。

 思えば岸谷君とは幼馴染なのに、まともに一緒に過ごした記憶がない。いつも私の傍にいたのは晴菜ちゃんだった。

 長年一緒にいた彼女の事さえ私はよく知らないんだと最近になってやっと気付いた。
 何を考えているのかも掴めない。先週知り合った彼女のお母さんの事も。

 小さい頃「お母さんは都会で働いてるからなかなか会えない」って晴菜ちゃんが泣いていたのを思い出していた。その時、慰めになるといいなと考え髪留めをあげた。誕生日プレゼントに買ってもらったお気に入りだったけど後悔はない。彼女は今もそのヘアピンを使ってくれているから。ヘアピンなんて特に子供の時分はすぐに失くしてしまいそうな物なのに。

 晴菜ちゃんは本当は凄く優しい子だって、それだけは知っている。


 見晴らしのいい場所に差し掛かった時、岸谷君が立ち止まった。

「坂上、俺と付き合ってくれてありがとう。幾つか気になってる事があって確認しておきたい」

 岸谷君が真剣な眼差しを向けてくる。気圧されて「分かった」と言ってしまった。
 岸谷君は直球に聞いてきた。

「本当はあいつの事が好きな癖に何で俺と付き合ってるんだ?」

「えっと……?」

 呟いて思わず視線を外してしまう。岸谷君に両腕を掴まれた。

「何を企んでるんだ?」

 不機嫌そうな声で問われ恐る恐る相手を窺う。短めの黒髪が風に揺れている。ややつり目気味の双眸を細めてこちらを見返してくる。

 どうしよう。本当の事なんて言えない。

 「岸谷君に復讐する為に沢西君とイチャイチャしています」なんて。素直に答えたら間違いなく計画は失敗する。


「私、岸谷君の事好きだよ?」

 精一杯の回答を出した。笑顔を作った筈だけど苦笑いになってしまった自覚がある。
 岸谷君の事は……うん、好きだよ。晴菜ちゃんとキスしてるのを見る以前の好きより濃さも大きさも十分の一以下になった「好き」だけど。

「言ったな?」

 何故か岸谷君の口角が上がり、面白がるような雰囲気で言われた。

「じゃあ俺が今、坂上とキスしたいって言ったらさせてくれる訳?」

「えっ?」

「当然、付き合ってるんだからそういう『好き』だよな?」

 鋭く痛いところを突かれてぐっと返事に困ってしまう。

 引き寄せられて腕の中に囲われた。その時になって漸く、春夜君が以前してきた質問の真意を垣間見た気がした。

『岸谷先輩とだったらキスしたいですか?』

 あの時まだ未練のあった私を、岸谷君とくっつけようと考えたの?

 根拠もなくただ、そんな気がしたのだ。


 力いっぱい岸谷君の胸を押して離れた。

「ごめん。まだ心の整理がついてなくて。岸谷君は晴菜ちゃんが好きでしょ? 何で私と付き合ってるの?」

 逆に問い質した。相手は少し怯んだ様子だった。顔をしかめて一拍言葉に詰まったような間があった。

「俺が好きなのは坂上だけだよ」

「じゃあ何で晴菜ちゃんとキスしてたの? 好きじゃない人ともするの?」

「それは内巻に脅されてて……」

「岸谷君。小一の時、私にプロポーズしてくれたよね。私、嬉しかったんだ。でも今はもう何もかも汚い思い出になった。ぐちゃぐちゃに踏みにじられた気分だった。だから私は本当に好きな人としかキスしない。岸谷君はきっと私の事は好きじゃないんだと思うよ?」

 言いたい事だけ言って背を向けた。岸谷君を置き去りにして走って帰った。
 岸谷君に触られたところがぞわっとしている。「春夜君に復習してもらわなければ」そればかり考えていた。

 家に着いて息を整えている時スマホが鳴った。メッセージが届いたら鳴るよう設定した音。

 その後、送り主と通話し話の内容に大きく心を揺さぶられる事態に陥る。
 居ても立っても居られず、春夜君に連絡して会いに行く為バスに乗った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

処理中です...